プロ野球は両リーグの優勝が決まり、おおよその順位が見えてきました。ただ、実はこの先も熱い戦いが繰り広げられているのです。それが「3位争い」です。

ペナントレースの最大の目的は、優勝すること。それは間違いありません。阪神が優勝した時に喜びを爆発させていたファンの姿は、ヤクルトファンとして羨ましいと思いました。

プロ野球はJリーグなどのように、成績によって下位リーグとチームが入れ替わることがありませんから、Bクラスの中で何位になろうと、そこまで大きな差はありません。ただ、最下位になった場合は、ファンが間違いなく不満でしょう。阪神のオーナー、阪急阪神ホールディングスの株主総会では、阪神タイガース球団に関する質問が出ることで知られています。最下位の時は間違いなく紛糾しますから、そうなったら気が気ではないでしょう。

クライマックスシリーズが導入される以前は、優勝以外の順位はそこまで重要ではありませんでした。しかし、2007年に3位までのチームがプレーオフを戦うことになってから、一気に順位の価値が増しました。「3位以内に入れるかどうか」がひとつの目標になったのです。

クライマックスシリーズに進むといいことだらけです。まず、ファンは好きなチームの野球を長く楽しむことができます。日本シリーズ進出をかけた戦いは1試合たりとも目が離せません。

球団としても、ホーム球場でファーストステージが戦える2位以上なら入場料収入、あるいは放映権収入が見込めます。たとえ3位でも、CSを勝ち進んで日本シリーズに出ることができれば、やはり興行収入が見込めます。

シーズンが長くなれば、そのぶんテレビや新聞などのメディアに露出する機会が増えるわけですから、スポンサーも喜びます。なかなか勝てないチームのスポンサーよりも、強いチームを応援したいのが"人情"というものでしょう。

選手からすれば、それだけの売り上げを作ったわけですから、年俸アップを期待できます。何より、チームも選手もファンも、上位3チームに入れた"誇り"を手にすることができます。

逆に成績がよくないと、予算面でも苦戦を強いられる悪循環に陥ります。早々とBクラスが確定してしまうと、ニュースで取り上げられることも減ります。たまに話題になるとしたら、今季であれば「令和の米騒動」だったり、「デッドボールの多さ」だったり......勝敗とは関係ない話題ばかりになりがちです。

先日、地元の横浜に帰ったときの1枚。涼しくなってきましたね。 先日、地元の横浜に帰ったときの1枚。涼しくなってきましたね。

いい成績が残せない年はチームも沈みがちですが、そんな時に、タイトル争いをしている選手がいるとファンとしては心の支えになったりします。

我がヤクルトのバレンティン選手がホームランを60本打った2013年はまさにそんな年で、チームが最下位で気持ちが沈む私たちファンは、バレが掛けるアーチに何度心を救われたことでしょう。

しかし球団からしたら、チームの成績がよくなくても、タイトルを獲った選手の年俸を上げないわけにはいきませんから、なんとも言えない気持ちになるかもしれません。それが影響したかはわかりませんが、2019年にバレンティン選手はソフトバンクへ移籍してしまいました。

そう思うと、選手と球団の立場というのは微妙に違うのかもしれません。たとえば、選手にとって日本シリーズは4連勝で日本一を決めるのが一番気持ちがいいでしょうが、球団を経営する立場からすると、7戦までもつれて優勝を決めるのが、興行収入も入ってくるので一番割りがいいとも考えられます。もちろん「7戦目まで戦ってくれ」とは口が裂けても言わないでしょうが。

話を戻しますと、Aクラスに入るかどうかで給料が変わります。選手が給料アップを求めるように、球団も選手たちにはAクラス入りを求めます。Aクラス入りして生まれたお金が、そのまま選手の給料へと還元されるからです。

たとえば親会社が経営不振でBクラスが続いたたら、それは球団の予算にも直結するわけで、大幅な戦力アップは望めません。自分たちでAクラス入りを勝ち取るしかなくなるので、選手も球団もAクラス入りできるかどうかは死活問題なのです。

そう考えると、優勝が早く決まってしまったあとも、静かで熱い戦いが繰り広げられているということです。もしかすると優勝争いと同じくらい、白熱した試合がシーズン終盤まで見られるというのはなんとも贅沢だと思いました。

メジャーも同様で、優勝はパッと決まるけど。ポストシーズン争いが意外と盛り上がるんですよね。現在、パ・リーグはソフトバンク、ロッテ、楽天が熾烈なCS争いを繰り広げています。まだまだプロ野球から目が離せそうもありません。

それではまた来週!

★山本萩子(やまもと・しゅうこ)
1996年10月2日生まれ、神奈川県出身。フリーキャスター。野球好き一家に育ち、気がつけば野球フリークに。
2019年より『ワースポ×MLB』(NHK BS1)のキャスターを務める。愛猫の名前はバレンティン

★山本萩子の「6-4-3を待ちわびて」は、毎週土曜日朝更新!