ぶっちぎりでリーグ優勝を果たした阪神&オリックス。あまりの独走ぶりに「CS不要論」も巻き起こした両球団の強さの秘訣を徹底解剖する!
■関西の両雄独走優勝の共通点
セ・リーグ独走で球団最速優勝を飾った阪神か、西武黄金期以来となるパ・リーグ3連覇を成し遂げたオリックスか――。
「史上2度目の関西日本シリーズ実現か!?」の話題で持ち切りになるほど、盤石の強さを見せた両球団。今季開幕当初から「リーグで頭ひとつ抜けた強さ」と評してきたのは、本誌おなじみの野球評論家・お股ニキ氏だ。
「阪神、オリックスはいずれも野手・投手両面で駒がそろい、先発陣が抑えている間に野手陣が少しずつ加点し、盤石のリリーフ陣が守り切る。他球団との戦力差もあり、気がつけば勝ち星を重ねていったシーズンでした。圧倒的な野球ができるチームをつくるのが理想とはいえ、実際にやってのけたのが素晴らしいです」
では、理想はいかにして実現できたのか。お股ニキ氏はまず、両球団に共通する強さとして、共にチーム防御率2.61を誇る投手力を挙げた。
「ずっと安定していただけでなくオリックスは8月、9月の月間防御率が1点台。阪神も9月は1点台。暑さの盛りを過ぎ、涼しくなる季節は投高打低になりやすいとはいえ、勝負どころで力を発揮できるのが王者たるゆえんです」
その強力投手陣の実現は、両球団の確かなチーム編成、そして、岡田彰布(あきのぶ)監督と中嶋聡監督の投手運用も重要な要素だ。
「多くの投手を確かな目利きで獲得。的確なトレーニングやフォーム指導、データを重視しつつ、感覚面も加味して育成し、誰が投げても同水準の投手陣をつくり上げました。だから、勝ちパターンや負けパターンというアバウトな分類ではなく、展開に応じた柔軟な起用が可能になりました」
この傾向は、オリックスのほうが顕著。捕手出身の中嶋監督のほうが投手へのきめ細かな配慮ができているという。
「今季、オリックスで50試合以上投げたのは山﨑颯一郎だけ。抑えの主軸は平野佳寿(よしひさ)としつつも、山﨑颯一郎や阿部翔太、宇田川優希を柔軟に使い分け、負担がシェアできるから、レベルの高い投球を維持できます」
実際、前述の救援ローテ4投手とも、抜群の安定感を誇っている。
「投手運用の面では、ロッテの吉井理人(まさと)監督もきめ細かくやっていますが、いかんせん選手層が違います。オリックスの場合、2014年ドラフトの山﨑福也(さちや)以降、山岡泰輔、田嶋大樹、宮城大弥(ひろや)、今季ブレイクした山下舜平大(しゅんぺいた)と、ドラフト1位投手が確実にものになっています。
加えて、4位指名から山本由伸も出てくる。これは5位指名の青柳晃洋、村上頌樹(しょうき)が出てきた阪神も同様で、編成の目利きの確かさを物語っています」
お股ニキ氏は"投手の目利き力"の象徴的事例として、阪神の20年ドラフト2位、伊藤将司(まさし)を挙げる。
「JR東日本出身の伊藤は、球速だけで足切りをしていたら見抜けない球の強度や精度、センス、守備、打撃などすべてが整っている。伊藤は今季10勝を挙げ、巨人キラーにもなっています。
伊藤だけでなく、ソフトバンクから獲得したスアレス(現・パドレス)、加治屋蓮、渡邉雄大(ゆうた)、大竹耕太郎も阪神で復活。投手の目利きと指導でこれだけ結果が変わるんです」
また、育成枠の考え方も阪神とオリックスは似ている。
「巨人やソフトバンクのように3軍拡充のために数多く育成選手を獲得するのではなく、あくまでも少数精鋭に投資していく点も似ています。阪神では島本浩也が中継ぎで活躍し、オリックスでは昨年の宇田川に続き、今季は球団初のデビュー7連勝を飾った東(あずま)晃平が出てきました」
そんな豪華投手陣を支える捕手も、阪神とオリックスには類似点がある。序盤は併用されていた阪神・梅野隆太郎、オリックス・森友哉の故障で、終盤では阪神が坂本誠志郎、オリックスは若月健矢がキーマンとなったことだ。
「投手に思いやりのあるふたりが定着したのも共通点。ふたりとも頭が良く、配球やフレーミングに優れ、投手心理や感覚の把握に長(た)けた司令塔タイプ。坂本の固定は梅野の骨折が理由ですが、結果的にそれ以降でチームは加速しました。
オリックスの若月は配球センスが球界随一で、山本由伸の無双ぶりは若月によるプラス補正もあるとみています。そして、若月がいるから森を2番手捕手兼主軸打者として使い続けられるんです」
こうした戦力を的確に運用する岡田監督、中嶋監督のマネジメント力も共通項だ。
「野球を知り尽くし、選手を見極める力と臨機応変さがある。センスがない人が同じことをやろうとしてもドツボにハマるだけですから。両監督とも2軍の試合をしっかり見ているという記事がありましたが、結局、やるべきことをやっているかどうかです」
■強力投手陣の違いは「剛腕」「キレ重視」
ここまでは類似点を見てきたが、両チームの相違点はどこか?
ドラフトを重視した編成面は共通でも、阪神の場合は野手の主軸育成に力を置いてきた点をお股ニキ氏は語る。
「ドラフト1位が並ぶのが阪神打線。16年に大山悠輔を獲得してから運命が変わりました。以降、近本光司(18年)、佐藤輝明(20年)、森下翔太(22年)と、2年置きの1位指名野手がスタメンに並びます。まさに、金本知憲元監督が土を耕して種をまき矢野燿大(あきひろ)前監督が辛抱強く水を与え、岡田監督が花を咲かせた、といえます」
この野手陣を打順も含めて固定したのが岡田阪神。一方、オリックスは昨季が141通り、今季も120通り近い打順を組み替えているのが特徴だ。
「阪神の場合、スタメンを固定することで選手が集中して準備でき、守備が安定するメリットもあった。これもひとつのやり方です。
中嶋監督は森、頓宮裕真、中川圭太以外は調子や相性を見てやりくりし、茶野篤政(ちゃの・とくまさ)、池田陵真、セデーニョらは旬を見極めて起用しました。現役時代に仕えた仰木彬(あきら)監督譲りの"ナカジマジック"と呼ばれる運用ですが、確かな根拠がありました」
また、投手の好みも阪神とオリックスでは対照的だ。
「オリックスは球の力が強くて速い、メジャー的な投手陣です。このタイプが毎年のように育ち、今季も前述した東が球速を上げてブレイクしました。さらに、高卒新人の齋藤響介も先発で試す余裕があります」
一方、阪神投手陣には速球派が少ない。それでも勝てる要因は?
「阪神は日本的なキレというか、球筋の美しい投手を重用します。実際、石井大智や桐敷拓馬、島本らの救援陣の球は全員ビシッとくる球筋で、しかも強度がある。こんな投手陣は見たことがないです。
昨年までは"制球よりスピード"の藤浪晋太郎、小野泰己(たいき)もいましたが、彼らを放出し、小柄だけど操作性に長けたセンスタイプの投手に振り切った印象があります」
その象徴的存在が今季12勝の大竹。そして、10勝を挙げ、防御率1.75でタイトルもほぼ確定の村上だろう。
「大竹はソフトバンク時代のスピードばかり求められる環境から、制球・投球術重視の阪神で開花しました。村上は2軍では2年連続タイトル獲得と無双していましたが、今季は球速も上がってついにブレイク。変化球をすぐにマスターするなど、そのセンス・器用さが魅力です」
■関西対決なるか!? 注目の先発予想は......
まさに盤石な阪神とオリックスだが、CSで取りこぼす心配はないのか?
本稿執筆時点で、セ・リーグは広島がCS進出を決め、DeNAと巨人が3位を争う展開。一方、パ・リーグはソフトバンク、楽天、ロッテの3球団が僅差でせめぎ合っている。この中で、今季のオリックスが目下11勝11敗と唯一勝ち越せていないのがソフトバンクだ。
「ソフトバンクはエース山本対策を必死にやり、結果を出している。現に、由伸はソフトバンク相手に今季3敗。とはいえ、シーズン終盤やポストシーズンで無類の強さを誇った10年代後半のようなチーム力はないので、尻上がりに調子を上げている由伸ならば大丈夫でしょう」
では、阪神はどうか?
「阪神からすれば、DeNAが勝ち上がってくるのが嫌でしょう。広島が上がってきたら、今季の広島戦6勝無敗の大竹をぶつけると思います」
確かに、今季の阪神は広島にここまで14勝8敗1分け。対して、DeNA戦は勝ち越したとはいえ、13勝11敗。今季最も苦しんだ相手だ。
「牧秀悟は阪神投手陣を相手に、甲子園で5試合連続本塁打と打ちまくっています。また、投手陣もハマると打ちにくいタイプがいます。最多勝が確定的な東(あずま)克樹も今季、阪神相手に2勝無敗で防御率も0点台。ただ、東がCSファーストステージで投げると、阪神とのCSファイナルステージでは6戦目まで出てこないはずです」
となると、いよいよ日本シリーズでの"関西対決"が現実味を帯びてくる。いったい、どんな展開になるのか?
「高次元な投手力対決になる」と語るお股ニキ氏にまずは先発予想をしてもらった。ちなみに今年はパ・リーグ球場からのスタートだ。
「阪神は、①村上②伊藤③西勇輝④大竹⑤青柳(才木浩人)⑥村上⑦伊藤。ここにきて復調してきた本来のエース格・西勇と青柳を3~5戦目に回せるのは大きいです」
一方のオリックスは?
「①山本②宮城③東④山﨑福⑤田嶋(曽谷龍平・ワゲスパック・齋藤)⑥山本⑦宮城。今季9勝の山下の故障離脱は痛いですね。もし間に合えば3戦目。そうなると東はタイプが似ているので山﨑福が先になるかも。
いずれにせよ、昨年の日本シリーズでもバットで活躍した山﨑福はDHのない甲子園で登板すると思います」
また、お股ニキ氏は、短期決戦では先発の調子が悪かった際に早めに対応できる"第2先発"の準備が重要と語る。
「私が阪神の首脳陣なら、才木を第2先発に回します。今の阪神では貴重なパワータイプです。あるいはビーズリーや西純矢も。オリックスなら山岡。夏場以降、救援に配置転換し、11試合連続無失点と結果を出しています」
そんな豪華投手陣をどう打ち崩すのか? お股ニキ氏は「打線は阪神のほうが若干有利」とし、中でもDH候補の糸原健斗に注目する。
「糸原は球界のスーパーエース級にめっぽう強く、6番・DHあたりで使ったら面白い存在。対左投手の場合は原口文仁か小野寺暖。甲子園開催でも、糸原や原口が代打に控えているのは大きいです」
対するオリックスは、首位打者を狙う頓宮が左足の疲労骨折で離脱したのが痛い。
「今年のパで打率.307は本当に技術がある証拠。彼が5番にいる打線は相手からすると嫌なんです。日本シリーズに間に合う可能性もありますが、難しい場合、中嶋監督がデータと感覚をもとに、阪神の投手に合う選手をいかに起用するかが鍵を握ります」
お股ニキ氏は、「いずれにせよ、関西という地元感がより有利に働くのは阪神ではないか」と続ける。
「本来は本拠地で4試合できるオリックスがやや有利ですが、阪神は今季、京セラドームで8戦全勝。ほぼ本拠地みたいなもので、スタンドも"黄色"が多くなるはず。
それに阪神打線は今季、交流戦のロッテ戦でパ・リーグを代表する投手である佐々木朗希、種市篤暉(あつき)らを打ち崩しており、オリックスの強力投手陣攻略に期待がかかります。
対するオリックスで注目は、今オフのメジャー移籍が濃厚な山本の"日本ラスト登板"。第6戦、京セラドームでの登板なら万全のピッチングが見られそうです。それでも、山下、頓宮が離脱したままなら流れが悪く、不利かもしれません」
関西から日本が盛り上がる戦いとなるのか。プロ野球はここからが正念場だ。
*成績はすべて9月25日時点