レギュラーシーズンが終わり、打者・投手ともにタイトルが確定しました。ホームラン王や最多勝利など輝かしいタイトルもあれば、あまり話題にならない地味な記録もあります。今日は、そんな「地味タイトル」についてお話しさせてください。

最初にお断りさせていただきますが、「地味タイトル」というのはあくまで私がつけた呼称であり、主要タイトルに比べるとちょっと目立たないという意味で、価値の高低を示すものではありませんので悪しからず。

野球とは数字を争うスポーツといえます。得点で勝敗が決まりますし、1位とのゲーム差でチームの状態をはかったりもします。

選手も数字で評価されます。打者だと、やはり打率・打点・ホームランが花形でしょうか。この3タイトルを手中に収めると得られる称号が「三冠王」。2022年にヤクルトの村上宗隆選手が18年ぶり&最年少の22歳で獲得し、話題になったことを記憶されている方も多いかもしれません。

一方で投手の三冠は最多勝利・最優秀防御率・最多奪三振とされていて、オリックスの山本由伸投手が2021年から3年連続で獲得しています。ただ、打者と違って表彰の対象にはなっていません。

さて、ここからはそれ以外のタイトルについてお話ししていきましょう。

タイトルには2種類あって、ひとつは試合の出来で数字を争うタイプ。防御率や打率がそれに相当します。もうひとつは加算系。ひとつひとつ積み上げた数を争うもので、犠飛、犠打、盗塁などがそれに相当します。

その中の犠飛数は、セ・リーグの1位が阪神の大山悠輔選手で8本、2位が同じく阪神の木浪聖也選手で7本。チームの4番と8番がチャンスをしっかりと得点に繋げていることがわかります。

ちなみに犠飛は、私のような素人は「外野まで飛ばせばいい」と考えてしまいがちですが、これがとても難しいそうです。番組でご一緒した小早川毅彦さんも、「犠牲フライを打つのは本当に難しい」とおっしゃっていました。

チャンスで主軸に回ると、「最低でも犠飛」とファンは思ってしまいますが、球を上に上げようとすると内野フライになったり、飛ばそうとするあまり力んでしまって凡打になることも多いとか。結論、平常心でいつも通りミートするのがいいとのこと。つまり、犠飛を打てる=いい打者ということです。

犠打の項目を見ても、阪神の強さが際立ちます。中野拓夢選手、木浪選手、坂本誠志郎選手と3人が5位までにランクイン。着実に得点圏にランナーを進めていることがわかります。

さまざまな切り口で楽しめるのが野球のいいところ。 さまざまな切り口で楽しめるのが野球のいいところ。

今年はなぜヤクルトが勝てなかったのかも、数字を見ているとわかってきます。打率では20位までにランクインしているのが、サンタナ選手と村上選手の2人のみですし。

そういえば、2019年3月に日本で行なわれたイチローさんの引退試合に出ていた、MLBマリナーズ時代のサンタナ選手を見たことがあるのですが、ライトに飛び込む強烈なホームランでスタンドを沸かせました。ただ、三振も多く、「実は守備も不安視されている」と、MLBに詳しい方が教えてくれたのを思い出します。2021年に来日してから3年目で3割打者となり、安定した活躍を続けるサンタナ選手は、きっと日本の野球にフィットしたのでしょう。

四球にも注目してください。1位の大山選手をはじめ、やはり阪神の選手が4人もトップテン入りしています。実は阪神は、今年から四球の査定を上げたそうです。「四球はヒット1本と同じ価値がある」とチームが認めたことで、3ボールからボールをよく見るようになったのです。

素晴らしいと思ったのが、見逃し三振をしても怒らないという岡田彰布監督の方針。バットを振っても、見逃しでも、積極的な姿勢は変わらないということを今年の阪神は教えてくれました。

日本ではあまり話題になりませんが、MLBでは得点がとても重視されています。セ・リーグの得点ランキング1位も阪神の近本光司選手でした。打線の上位を打つ選手は打率よりも得点で評価されることが多いですが、それはどれだけ塁に出ているかを示す数値でもあるからです。

ちなみに、近本選手は盗塁数28でこちらも1位。先頭打者の近本選手が塁に出て、犠打や盗塁で次の塁に進み、主軸が返す。阪神の選手たちの数字を見ると、まさに理想のパターンを形にしているといえますね。一方、ヤクルトで得点トップは、ランナーを還す役割を担っているはずの主砲・村上選手。打線がつながっていないことをうっすらと感じさせます。

今シーズンのメジャーでは、打線が弱かったブルワーズが地区優勝を果たしました。チームの強みはなんだろうとリサーチすると、打率、打点、ホームランなどの数字はよくないものの得点が多く、さらに調べると四球がとても多いことがわかりました。つまり、チャンスをしっかりとものにできていたということ。なるほど。

と、このようにデータを細かく見ていくと、強いチームが「なぜ強かったのか」がわかるので、シーズン終了後はじっくりと腰を据えてデータとにらめっこすることをお勧めします。

ちなみに、「地味タイトルは?」という話題は山本家での一番の酒の肴。たとえば、「併殺打の数が1位だったのは誰?」といったクイズ大会は異常に盛り上がります。みなさんもぜひ。

最後に私からクイズを。

今シーズンヤクルトの犠打数1位、2位は誰でしょう? これを完璧に当てたら、相当の野球通。ヤクルトファンである私も驚いたくらいでしたから。

それではまた来週。

★山本萩子(やまもと・しゅうこ)
1996年10月2日生まれ、神奈川県出身。フリーキャスター。野球好き一家に育ち、気がつけば野球フリークに。
2019年より『ワースポ×MLB』(NHK BS1)のキャスターを務める。愛猫の名前はバレンティン

★山本萩子の「6-4-3を待ちわびて」は、毎週土曜日朝更新!