プール最終戦の大一番、アルゼンチン戦に敗れ、肩を落とす桜の戦士たち。よく頑張った!プール最終戦の大一番、アルゼンチン戦に敗れ、肩を落とす桜の戦士たち。よく頑張った!

惜しくも2大会連続の決勝トーナメント進出を逃した桜の戦士たち。そのプレーぶりは現地フランスで大会を取材していた各国記者の目にどう映ったのか?

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■「日本は胸を張って大会を去れるはずだ」

ウェールズ出身で、英『ザ・サン』紙のデビッド・ファセイ記者ウェールズ出身で、英『ザ・サン』紙のデビッド・ファセイ記者

プール最終戦、アルゼンチンに敗れた直後の記者会見場で隣り合わせた英『ザ・サン』紙のデビッド・ファセイ記者に試合の感想を聞くと、興奮気味にこう返してきた。

「日本は惜しくも負けたけど、世界屈指のチームと互角に戦えることを示した。アルゼンチンは近年、ザ・ラグビー・チャンピオンシップ(アルゼンチンのほか、ニュージーランド、オーストラリア、南アフリカで構成される南半球の強豪4ヵ国による対抗戦)でもその強さを証明してきたのだから。

しかも終盤まで追いつ追われつの展開で、ラグビーの魅力が詰まった好ゲームだった。私にとっては今大会ここまでのベストマッチのひとつ。勝負は紙一重だったし、ブレイブ・ブロッサムズが大会を去るのは残念だよ」

ウェールズ出身のファセイ記者は、この試合の勝者が準々決勝でウェールズと対戦するため、試合を興味深く見ていたという。

「日本にとっては開始2分でトライを許してしまったのが痛かったけど、その後のアマト・ファカタヴァのトライは今大会のベストトライに選ばれても不思議じゃない。

自ら蹴ったボールがうまくバウンドし、それをキャッチしてそのままトライ。彼はFWなのに、まるでウイングの選手ですら羨望(せんぼう)のまなざしを送りたくなるようなテクニックが詰まったプレーだったね。

ほかにもスクラムハーフの齋藤直人のトライはよかった。彼には海外でもプレーできるクオリティがある。レメキ ロマノ ラヴァのドロップゴールにも驚かされた。アルゼンチンにすれば、後半28分に5本目のトライを決めるまでは、敗退の危機すら感じていたと思う。

逆に日本にとってはアンラッキーのひと言。大会に入ってからアルゼンチンの調子は上がっていないように見えたけど、この試合に関してはハットトリックをしたマテオ・カレーラスをはじめ、主力のほとんどが出色の出来だった。

そんな状態のアルゼンチンには、どのチームでも勝つのは至難の業。日本は素晴らしかったけど、最後の最後で相手が一枚上手だったということだろう」

アルゼンチン出身で、イタリアを中心に活動しているノルベルト・マストロコーラ記者アルゼンチン出身で、イタリアを中心に活動しているノルベルト・マストロコーラ記者

アルゼンチン出身で、かつてイタリアやフランスでプロラグビー選手として活躍し、現在はイタリアのラグビー専門番組などに出演しているノルベルト・マストロコーラ記者は、前日にパリで行なわれたアイルランド対スコットランド戦も取材に訪れ、その際にはアルゼンチン敗退の可能性も危惧していた。

「大会前(の強化試合で)、日本がイタリアに敗れた際(●21-42)、日本の出来はよくないように見えたけど、そこから調子を上げてきて、ロス・プーマス(アルゼンチン代表の愛称)にとって危険な存在になったと思う。

近年の日本の成長は目覚ましく、ブレイクダウンの動きがいいし、ボールを持てばスピードがある。アルゼンチンも相当警戒を強めているはずだ」

結果はアルゼンチンが日本を破り、ベスト8進出。試合後、マストロコーラ記者に再会すると、「日本が恥じることは何もない」と強調した。

「ラグビーはサッカーほどアップセットが起こるわけじゃない。それでも、試合前まで日本はアルゼンチンと勝ち点9で並び、試合の終盤までどちらがプールを勝ち抜くかを世界中のラグビーファンが注目していた。

その事実だけでも、日本がいかに倒すのが難しいチームかということを証明している。胸を張って大会を去れるはずだ」

■「日本はチャンスでミスを犯しすぎた」

大会前の強化試合で結果が出ず、状態が心配されていた日本代表。

だが、W杯では初戦のチリ戦にきっちり勝利すると、続くイングランド戦には敗れたものの、7月の強化試合で敗れたサモアにしっかりリベンジ。アルゼンチンとの大一番に向けて調子を上げていった。

それだけにプール敗退という結果は残念だが、大会を取材に訪れていた各国記者に日本の戦いぶりはどう映ったのか。あらためて聞いた。

南アフリカ出身で、英ロンドンを拠点にラグビーを取材しているキース・ムーア記者南アフリカ出身で、英ロンドンを拠点にラグビーを取材しているキース・ムーア記者

南アフリカ出身で、現在は英ロンドンをベースにラグビーを取材するキース・ムーア記者は「フィジカル面の成長が日本を押し上げている」とし、「仮に日本がプールを突破したとしてもまったく驚きではなかった」と言う。

「もはや日本は普通にいいチームって感じだね。昨年、イングランドに遠征に来たときは、スクラムで苦しんで大敗したけど(●13-52)、今回の対戦ではいい姿勢をキープできていた。

今大会で日本が健闘した要因のひとつにスクラムの奮闘があるのは間違いない。右プロップの具智元(グジウォン)なんて最高のパフォーマンスだった。

日本は大会前に調子を落としていたようだけど、それはどこのチームにもあること。2019年大会で優勝した南アフリカも、その前年には監督交代などもあって決していい流れではなかったしね。

今回の日本のチームが前回よりも上だったかは疑問もあるけど、いいチームであることに変わりないよ」

英『ザ・サン』紙のチーフスポーツリポーター、マーティン・リプトン記者英『ザ・サン』紙のチーフスポーツリポーター、マーティン・リプトン記者

2戦目のイングランド戦を取材していた英『ザ・サン』紙のチーフスポーツリポーター、マーティン・リプトン記者は日本の戦いぶりを評価しながらも、「惜しいチャンスを逃している」と課題も指摘。

「(イングランド戦の)大半の時間帯で、日本はいいプレーをしていた。後半10分過ぎまで1点差に肉薄し、日本が勝ってもおかしくない展開で、イングランドにとっては、ヘディングがラストパスとなったラッキーなトライがなければどうだったか。

ワイドに展開して攻めてくると思ったら、予想外にクレバーなキックを多用してきたことには驚かされたし、ハイボールに対しても日本はよく守り、おかげでイングランドは途中から戦い方を修正して、キックをあまり蹴らなくなったくらいだ。

一方で、日本はミスを犯しすぎたのも事実。とてもいい位置まで攻撃を仕掛けながら最終的にノックオンをしたり、ターンオーバーを許したりして、イングランドを助けてしまった。チャンスでトライまで結びつけられない。そこが日本の最大の課題かもしれない」

■「相手も日本を研究」「世代交代が必要」

南アフリカ出身で、現在はアジアのラグビーをメインに取材するスティーブ・ノーブル記者南アフリカ出身で、現在はアジアのラグビーをメインに取材するスティーブ・ノーブル記者

南アフリカ出身で、現在はアジアのラグビーを精力的に取材するスティーブ・ノーブル記者は「大会序盤の日本はギアがトップに上がっていなかったけど、少しずつ上がってきていた。それでも前回大会同様の成績を残すには十分じゃなかった」と語った。

「日本の弱点を簡単にフィジカル面って言い続ける論調があるけど、僕は好きじゃない。日本はスクラムの技術面がとてもよくて、フィジカルを強みにするイングランド、サモア、アルゼンチンに対しても決して負けていなかったしね。

今回、日本がサプライズを起こせなかったのは対戦相手がこれまで以上に日本の対策を講じ、しっかり守ってきた影響があると思う。

ただ、それでも日本の戦いは悪くなかった。10番の松田力也は20本中19本のキックを成功させ、成功率は大会トップを争うはず。それに、以前の日本はベンチメンバーが出ると少しレベルが落ちる感じがあったけど、今大会は途中から出てくる選手のレベルも高く、チーム全体のレベルが上がった印象を受けた」

前々回は南アフリカを破り、前回はアイルランドとスコットランドを破り、史上初のベスト8進出を果たした。今回も日本は成長を感じさせたが、ライバル各国も同様に成長しており、過去2大会のように世界を驚かすまでには至らなかったということだろう。

アイルランド出身で、英『サンデー・タイムズ』紙のピーター・オレイリー記者アイルランド出身で、英『サンデー・タイムズ』紙のピーター・オレイリー記者

「日本は依然として、同じ信念、チームワークのよさの下にプレーしている。でも、僕の印象としては、前回ほどの鋭さや強さはなかった。なんていったって、前回は僕らアイルランドを破ったくらいだからね。

当時の日本のクオリティの高さはかなりの衝撃だったけど、今回は新型コロナの影響もあり、思うような強化試合を組めなかったことがチームづくりに影響したのでは。

それでも、これまでW杯は南半球とヨーロッパの一部の地域のチームとの争いだったのに、日本の台頭が多様性や新しい風をもたらしてくれているのはうれしいことだ」(アイルランド出身で、W杯取材は7度目という、英『サンデー・タイムズ』紙のピーター・オレイリー記者)

アイルランド出身で、英国放送協会「BBC」実況アナウンサーのジム・ニーリー氏アイルランド出身で、英国放送協会「BBC」実況アナウンサーのジム・ニーリー氏

「前々回、前回の日本の戦いぶりにはラグビー界全体が熱狂した。中には日本人選手が少ないとか、監督はニュージーランド人だと批判する人間もいたけど、日本人だって頑張っていた。

だが、難しいのはいい状態、高いレベルを維持すること。今回の日本は、4年前から代わり映えのしないメンバーだった。よりフレッシュでハングリーな選手が必要だったのでは......。

例えばアイルランドの場合は毎年、南アフリカ、ニュージーランド、オーストラリアと対戦でき、欧州6ヵ国対抗戦(アイルランドのほか、イングランド、ウェールズ、スコットランド、フランス、イタリアが参加)もある。コンスタントに強豪と対戦できないところに日本の難しさがあると思う」(アイルランド出身で、W杯は87年の第1回大会から取材しているという、英国放送協会「BBC」実況アナウンサー、ジム・ニーリー氏)

フランス・トゥールーズのラジオ局「100%Radio」のジェーン・マリエ・レェンセ記者フランス・トゥールーズのラジオ局「100%Radio」のジェーン・マリエ・レェンセ記者

日本代表の拠点でもあったフランス・トゥールーズのラジオ局「100%Radio」のジェーン・マリエ・レェンセ記者は、日本の練習やセレモニーなども取材した。

「スクラムやラインアウトといったセットピースに関しては、思っていたよりパワフルで力強い。でも、FWの戦いぶりは前回よりも劣っていたと思う。前回大会の日本は、ホームアドバンテージもあって動きもテンポも速くて抜群だったからね。

それでも大会を通して、フッカーの堀江翔太のカリスマ性を感じたし、4度目のW杯出場だったリーチ マイケルはもはやレジェンドといっていい。彼が流暢(りゅうちょう)な日本語でメディアやファンに対応している姿を何度も見たけど、とても素晴らしいと感じた。

もちろん、主将の姫野和樹もジャッカルを何度も披露し、世界屈指のナンバー8であることを示した。そして大会を通して最もチームに貢献していたのはフルバックのレメキ ロマノ ラヴァだ。トライこそなかったけど、推進力があって日本のチャンスにはたいてい彼が絡んでいたはずだ」

南アフリカ『デイリー・マーベリック』紙のクレイグ・レイ記者南アフリカ『デイリー・マーベリック』紙のクレイグ・レイ記者

一方で、W杯取材は4度目という、南アフリカ『デイリー・マーベリック』紙のクレイグ・レイ記者は「相変わらず日本のテンポは速い」としながらもこう言った。

「FW陣はちょっと年老いたかな。リーチとかピーター・ラブスカフニとかね。でも、プレースタイルは依然として前向きで、ボールを動かしながらキープするスタイルは好感が持てる。

開催国だった4年前がピークで、今は少し下降線をたどっているといっても、プール最終戦の最後の最後までベスト8に進むチャンスを残したのは立派だと思う」

アルゼンチン戦後に話を聞いた冒頭のファセイ記者は、「齋藤ら若い選手が海外に出て経験を積めば、今後はさらに期待できる。次回のW杯はオーストラリア開催で、日本にもなじみ深い場所だと思う。これまで以上に大会を盛り上げる存在になっても不思議ではないよ」とも言った。

2大会連続でのベスト8は逃したが、プール3位は死守し、次回27年大会への出場権を手にした日本。ジェイミー・ジョセフHC(ヘッドコーチ)は今大会限りで退任するが、新HCを迎えてどんな道へ進むのか楽しみだ。