不動のボランチとしてジュビロ磐田の黄金期を支え、2006年開催のドイツワールドカップには、日本代表の中心メンバーとして出場。日本サッカーが世界水準へと飛躍していく瞬間をピッチの中央から見つめていた福西崇史。
そんな福西崇史が、サッカーを徹底的に深掘りする連載『フカボリ・シンドローム』。サッカーはプレーを深掘りすればするほど観戦が楽しくなる!
第76回のテーマは、今季のプレミアリーグ序盤戦について。第10節を終えて、首位に立っているのはトッテナム。それをアーセナル、マンチェスター・シティが追うというシーズン序盤の戦いを福西崇史が解説する。
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今季のプレミアリーグも開幕から第10節を消化して上位、中位、下位とグループが見えてきました。昨季、マンチェスター・シティが3冠、リーグ3連覇という偉業を達成。今季もその王者シティをどこが止めるのかというのが、一つの見どころになってくると思っています。
そんな中、現在首位を走っているのが8勝2分と無敗のトッテナム。昨季はシーズン途中でアントニオ・コンテが解任され、その後もクリスティアン・ステッリーニ、ライアン・メイソンと暫定監督が続き、チーム状況は安定しませんでした。
今季からアンジェ・ポステコグルーが監督に就任し、長きにわたってエースとしてチームを支えたハリー・ケインがバイエルン・ミュンヘンへ移籍。チームとして大きな変化があり、チームづくりには時間がかかるのではないかと思われていました。
しかし、蓋を開けてみれば開幕から無敗をキープして、チームも非常に機能しています。攻撃的なサッカーを展開するポステコグルー監督のスタイルは浸透するまでに時間がかかるイメージがありましたが、これだけスムーズに機能したということは、それだけ選手たちの能力が高いということの表れだと思います。
最も懸念されたのはケインの抜けた穴をどう埋めるのかという点だったと思います。そこで大きな役割を果たしているのが、今季レスターから加入したジェームズ・マディソンです。彼がライン間でうまくボールを受け、キープすることで周りの選手たちに時間を与え、巧みなゲームメイク能力によって攻撃に流れを作っています。
そして得点というところでは、ケインに代わってキャプテンに就任したソン・フンミンがここまで8得点とエースの活躍。ケインのようにタメを作るマディソンと、決定力あるソン・フンミンという二人が、エースが抜けた穴を見事に埋めました。
そんなトッテナムを勝ち点2差で追うのが、7勝3分で同じく無敗のアーセナルです。今夏にデクラン・ライス、カイ・ハヴァーツ、ユリアン・ティンバー、ダビド・ラヤを補強し、昨季からの上積みも含めて選手層はより分厚くなった印象です。
自分たちがボールを握って試合の主導権を握り続けるというスタイルはそのままに、ライスやハヴァーツが加わった中盤3枚のバランスの取り方が非常に優れ、それによって前線3人の流動性も生きていると思います。
大一番となった第8節のシティ戦では、右ウイングのブカヨ・サカが怪我によりベンチ外で、左ウイングのガブリエウ・マルティネッリもベンチスタート。これまでのベストの布陣が揃わない中で、右ウイングにはガブリエウ・ジェズス、左ウイングにはレアンドロ・トロサールが入り、シティに2015-2016シーズン以来、13試合ぶりに勝利しました。
この試合のように主力の誰かが欠けても戦力を落とさずカバーできるだけの駒が揃っていて、まるでシティのように戦力を回せるようになったと思います。
そして3位につけるのが、勝ち点24とアーセナルに並ぶシティです。開幕6連勝と昨季王者の強さを見せつけるスタートダッシュを見せたものの、その後のウルヴァーハンプトンとアーセナルに5シーズンぶりとなる2連敗を喫しました。
ケビン・デ・ブライネが開幕戦の負傷で長期離脱となり、ロドリが第6節のノッティンガム・フォレスト戦で1発退場となった影響で2連敗したどちらの試合も出場停止。二人の不在というのは、大きな影響があったと思います。
とくにアーリング・ハーランドへのボールの供給が減った影響は大きいと思います。ここまで10試合で11得点は、普通に考えれば文句のつけようのない数字ですが、ハーランドの得点数としては物足りなさを感じます。
ハーランドへボールが渡るまでに相手をどう崩すかというときに、スペースや相手の隙を逃さない頭の良い選手がデ・ブライネであり、ロドリでした。その彼らの不在によって、攻撃に停滞感はありました。
ただ、それを差し引いてもアーセナル戦は、どちらが勝ってもおかしくないくらいアーセナルが良い試合をしたと思います。ロドリが戻ったことで、再び安定感を取り戻してはいますが、彼がまたいなくなったときにどうするかというのは、シティの大きな課題になると思います。
勝ち点23で4位のリヴァプールは、チーム全体でのプレス強度と、新加入のアレクシス・マク・アリスターとドミニク・ショボスライによって中盤の構成力を取り戻し、攻守に本来のパフォーマンスを発揮できるようになってきました。勝ち点22で5位のアストン・ヴィラは昨季からの好調を維持し、ここまで26得点とリーグ最多の数字です。
その下にニューカッスル、ブライトン、マンチェスター・ユナイテッドと続き、今季のプレミアリーグも群雄割拠。そんな中でも今季も優勝の最有力はシティだと思います。
3冠を達成した翌シーズンは、モチベーションを高く保つのが難しいと思いますが、シティはリーグ連覇をしてもモチベーションが途切れませんでした。ジョゼップ・グアルディオラ監督は、改めてマネージメントの部分においても卓越した指揮官だと思います。
そのシティに対して一番の対抗馬となるのは、今季もアーセナルでしょう。昨季とは違ってシティにホームで勝ったことで20シーズンぶりの優勝の可能性は十分にあると感じました。
そんな2チームに対して、現在首位のトッテナムがどこまで調子をキープできるのか。年末までのタイトなスケジュールを終えたときに、どのチームが首位となってリーグを折り返すのか、非常に楽しみです。