NBAが10月下旬に開幕し、渡邊雄太(フェニックス・サンズ)は6年目、八村 塁(ロサンゼルス・レイカーズ)は5年目のシーズンがスタートした。現地時間10月26日には、早くも日本人対決が実現。渡邊は3得点1リバウンド、八村は7得点を記録し、試合はレイカーズが勝利した。
日本バスケ界の看板を背負うふたりだが、今季のそれぞれの状況にはふたつの共通点がある。まずは、渡邊が所属するサンズ、八村が所属するレイカーズがどちらも優勝候補に挙げられ、日本人選手として史上初の優勝リングを獲得するチャンスがあること。
そして、渡邊はケビン・デュラント、八村はレブロン・ジェームズとチームメイトになり、リーグを代表するスーパースターと〝ケミストリー〟を奏でていることだ。
今季、サンズと2年総額500万ドル(約7億2000万円)の契約を結んだ渡邊は、キャンプ開始前にこう語った。
「サンズと契約した理由のひとつが、デュラントの存在でした。素晴らしいチームメイトで、素晴らしい人であり、素晴らしいリーダー。昨季はブルックリン・ネッツで本当にうまく一緒にプレーできましたが、また彼とプレーする機会を得ることができてうれしいです」
昨季、ネッツでプレーした渡邊は、自己最多の出場試合数、平均得点などをマーク。特に前半戦では、デュラント、カイリー・アービングといったスターたちと一緒に大活躍した。
シーズン中に諸事情でチームが解体し、デュラントの移籍とともにプレー機会が減ったのは残念だったが、それでもディフェンス、3Pシュートを得意とするロールプレーヤー(補助的な役割を果たす選手)としての成長を印象づけた。
今季のサンズはデュラント、デビン・ブッカー、ブラッドリー・ビールという3人のスーパースターを擁する必勝態勢。そんなチームが目をつけたのが、常に勝利に貢献するプレーができ、同時にチームの看板であるデュラントからも信頼を得ている渡邊の存在だった。
「デュラントは雄太の獲得に動くことを支持してくれました。〝勝者〟は〝勝者〟を知っているもの。デュラントは、雄太が重要な時間帯にウイニングプレーができる選手だと知っており、彼らの間の絆が本物なのは私からも見て取れました」
渡邊の獲得に尽力したとされる、サンズの〝敏腕エグゼクティブ〟ジェームズ・ジョーンズ運営部代表兼GMのそんな期待どおり、29歳のサウスポーは好スタートを切った。
開幕からの3試合すべてで14分以上プレーし、それぞれの試合で1本以上の3Pを成功。運動量豊富なハッスルプレーヤーとして、フランク・ボーゲルHCからも信頼を得ている印象がある。
今夏、日本代表の要としてW杯での3勝に貢献し、パリ五輪出場権獲得に導いたこともいい影響を与えているのだろう。今の渡邊のプレーには安定感があり、いい意味で、以前のがむしゃらさや危うさが薄れた印象がある。
「自分にすごく自信があるというか、力をどんどんつけてきたのを感じています。もちろん100%の力でやっていますけど、空回りせず、冷静に一生懸命できるようになった。それが何よりの成長と思っています」(渡邊)
NBAでもベテランの域に入った6年目で成熟し、このタイミングでサンズという強豪チームにたどり着いた。デュラントに率いられたスター軍団の視界は良好。今季は渡邊個人としても、チームとしても、これまでで最高の成果を出す可能性が高そうだ。
一方、今季開幕前にレイカーズの大黒柱であるレブロンは、八村についてこう述べた。
「塁には大きな可能性がある。彼個人だけでなく、チームにとってもね。僕は彼のことを『ダニエルさん』と呼んでいるんだ。そして僕が『ミスター・ミヤギ』だ」
レブロンは、オフシーズンの練習パートナーになった八村との関係を、1980年代の映画『ベスト・キッド』の〝師弟コンビ〟にたとえた。史上最高級の選手とも称されるようになった38歳の〝キング・ジェームズ〟の言葉からは、八村への期待度の高さが伝わってくる。
昨季途中、ワシントン・ウィザーズからレイカーズにトレードされた八村は、特にプレーオフで平均12.2得点と活躍。第7シードという下位からの出場ながら、ウェスタン・カンファレンス・ファイナルまで勝ち進んだ立役者のひとりになった。
そんな功績が認められ、シーズン終了後には3年5100万ドル(約73億4000万円)という好条件で再契約している。
今夏はW杯の出場を見送り、スーパースターとのトレーニングを継続。八村がレブロン、アンソニー・デイビスという二大スターを支える第3の得点源として確立すれば、レイカーズにとっては大きい。実際に、オープン戦での八村は最初の3試合で平均14.7得点と順調で、このまま突っ走るかと思えた。
ただ、開幕後の八村は思いどおりのプレーができていない。最初の3試合で平均8.0得点、FG(フィールドゴール)成功率42.1%と数字的にもいまひとつ。終盤の時間帯にはベンチを温めるゲームが続いており、1勝2敗と開幕ダッシュに失敗したチームを助けるに至らなかった。
「ハードに競い合う選手がプレーする。ディフェンスし、ハイレベルで競り合い、ボールをシェアし、いいショットを生み出してくれる選手がフロアに立つ。(ローテ確立には)時間はかかるものだ」
ダービン・ハムHCのそんな言葉からも、レイカーズのチーム内の争いが激しいことが伝わってくる。厳しい世界だが、これも優勝を争うチームの宿命。八村も得点だけではなく守備でも貢献し、まずは層の厚いレイカーズで、あらためてその価値をアピールしなければならない。
長いシーズンの中で、師匠・レブロンをサポートする選手になっていけるのか。25歳になった八村の成長、成熟から目が離せない。