両球団とも盤石投手陣を擁するが、タイプは違う 両球団とも盤石投手陣を擁するが、タイプは違う
59年ぶりの「関西ダービー」で沸いた今年の日本シリーズ。ペナントレースで独走した両球団の黄金期はしばらく続く?

■阪神は個性的な強さ、オリは画一的な強さ

ペナントレースを振り返れば、阪神は球団史上最速優勝で2位と11.5ゲーム差、オリックスは15.5ゲーム差とまさに圧勝状態。そんな関西2強球団について、「阪神は個性を生かした強さ、オリックスは画一的な強さ」と語るのは本誌おなじみの野球評論家・お股ニキ氏だ。改めて今季の戦いぶりから、その共通点や相違点を振り返っておこう。

「両チームとも確かな目利き力と的確なトレーニングやフォーム指導といった育成力を駆使し、圧倒的な投手陣を整備。投手が抑えている間に野手が少しずつ加点し、それを盤石のリリーフ陣が守り切るスタイルでリーグを制しました。ただ、相違点もあります。阪神はキレと制球を重視し、オリックスはパワーピッチャーを好む傾向があります」

確かに、共に防御率2点台の盤石投手陣だが、阪神は今年ブレイクして2桁勝利を挙げた村上頌樹、大竹耕太郎や伊藤将司を筆頭に、球速は140キロ前後でも勝てる投手が多かった。

一方、オリックスで今年ブレイクした山下舜平大や東晃平は150キロ超えのパワーボールが印象的だ。

「オリックスは中嶋聡監督が招聘(しょうへい)した中垣征一郎巡回ヘッドコーチの指導の下、投手も野手も力の発揮の仕方が似たタイプが多い印象です。だからこそ、日替わりでオーダーを組み替えられる。対して阪神は近本光司、中野拓夢、大山悠輔、佐藤輝明らを固定し、個性を生かした打線がハマったといえます」

では、ドラフト補強やオフのFA戦線も含め、来季の戦力面はどうか。

まずは上位指名で高校生のポテンシャル型、下位指名で社会人即戦力に振り切ったオリックスのドラフト指名を考察してもらおう。

「上位でブルーチップ(優良株)を狙いつつ、下は手堅く、というスタイル。オリックスはリーグ3連覇したことで、育成やトレーニング方法によほど自信があるんだな、と思わせる高校生の指名の仕方でした。オーダーメードで選手個々を伸ばせるのが理想ですし、うまく育てばまだまだオリックスの時代が続きます。ただ、もし育たなければ徐々にピークアウトしていく懸念もあります」

その意味でも、大学生をまったく指名しなかった極端さは気にかかる。

「高校日本代表vs大学日本代表の試合でレベルの違いが露骨に表れていたように、即戦力として見込むなら大卒が一番。また社会人・大学・高校と幅広く獲(と)ったほうが多様性も生まれて強くなる、というデータもあるようです。その意味でも、今年のドラフトはちょっと極端な印象があります」

オリックスといえば、メジャー挑戦が有力な山本由伸だけでなく、山﨑福也(さちや)も国内FAでの移籍が噂され、先発の軸が2枚抜ける可能性もある。

「山下や東が育ち、椋木蓮がトミー・ジョン手術から復帰する見込みでも、山本と山﨑福の消化イニングの穴は大きい(山本が164イニング、山﨑福が130.1イニング)。また、投手陣がいいと言いつつ、実力的に抜けているのは1軍にいる12人前後。それ以外の投手はまだまだ育っていない。伸び悩み組にハッパをかける意味で、社会人3人を指名したのかもしれません」

一方の阪神のドラフト指名はどう見たか?

「個人的には私好みのドラフトでした。1位の下村海翔(青学大)、2位の椎葉剛(徳島インディゴソックス)は共に即戦力ですし、椎葉は同じ独立リーグ出身の湯浅京己と同じくらいの中継ぎ成績を残しそう。将来的には岩崎優に代わって抑えを任される可能性もありますね」

3、4位では高校生ショートの有望株、山田脩也(仙台育英高)と百﨑蒼生(あおい・東海大熊本星翔高)を指名した。

「実は阪神の場合、野手はここ数年、社会人や大卒を中心に獲得してきたため、年齢層は意外と高い。近本と大山はもうすぐ29歳。若手野手をどう育てていくかが重要です」

■両球団はすでに黄金期中盤か

そんな両チームはここから黄金期を築くことができるのか? まずは過去に〝王朝〟をつくった歴戦の球団の共通項を見ていこう。

「歴史的に見て強かった球団には、野手の主軸がふたり以上いるケースがほとんど。古くは王貞治、長嶋茂雄がいたV9期の巨人。その後も、山本浩二と衣笠祥雄がいた1980年代の広島。『投手陣がすごい』といわれがちな1980年代後半~90年代前半の西武黄金期にも秋山幸二と清原和博がいて、その脇を辻発彦、石毛宏典、伊東勤ら守備も一流の選手たちがサポート。近年でも広島が3連覇したときの丸佳浩と鈴木誠也、昨年まで2連覇したヤクルトの村上宗隆と山田哲人などがそうですね」

ただ、阪神もオリックスもこの事例には当てはまらないケースだという。

「今年の阪神はやや独特で、大山、佐藤輝、近本、中野くらいまでがそろっていい状態。オリックスも去年までは吉田正尚と覚醒した杉本裕太郎の印象が強いですが、今年は野手陣がみんな水準以上という感じで、数年前のソフトバンクと似ている。いずれにせよ、両球団はすでに黄金期に入っており、黄金期中盤くらいの可能性もあります」

興味深いのは、オリックスは中嶋監督になって築き上げた黄金期であるのに対し、阪神は過去2代の監督とつくってきた黄金期、ということだ。

「金本知憲元監督が土を耕して種をまき、矢野燿大前監督が辛抱強く水を与え、岡田彰布現監督が花を咲かせた、といえます。実際には矢野監督時代からもう黄金期は始まっていた、といっていいでしょうね。去年だって開幕9連敗から優勝争いまで持っていったのはとんでもないこと。矢野監督時代の遺産も含め、阪神のほうがいい状態は長く続く気がしています」

オリックスは育成の好循環が続くのか。阪神は野手の高年齢化に対処できるのか。それぞれに懸念点はあるが、来季もこの2球団がペナントレースの軸になるのは間違いなさそうだ。

オグマナオト

オグマナオトおぐま・なおと

1977年生まれ。福島県出身。雑誌『週刊プレイボーイ』『野球太郎』『昭和40年男』などにスポーツネタ、野球コラム、人物インタビューを寄稿。テレビ・ラジオのスポーツ番組で構成作家を務める。2022年5月『日本野球はいつも水島新司マンガが予言していた!』(ごま書房新社)を発売。

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