来シーズンは新監督をそれぞれ迎え、心機一転を目指す巨人とソフトバンク来シーズンは新監督をそれぞれ迎え、心機一転を目指す巨人とソフトバンク
2019、2020年には2年連続で日本シリーズを戦うなどセ・パで覇権を握った両球団がここ数年、振るわない。一時代を築いたからこそ抱える根深い問題とは?

■"完成品"以外受け入れられない

阪神とオリックスが黄金期に入った一方、気になるのは2010年代に覇権を争った巨人とソフトバンクに元気がないこと。

2019、2020年には2年連続で日本シリーズを戦い、その後も「この巨大戦力なら優勝候補筆頭」といわれながら、ここ数年勝てない要因はどこにあるのか? 野球評論家のお股ニキ氏はこう語る。

「巨人の場合、日本シリーズではソフトバンクに2年連続4連敗を喫しましたが、ペナントレースでは広島4連覇を止め、内容もおもしろいシーズンでした。

ただ、この連覇によって原辰徳前監督がGM的役割も兼ねる"全権監督"の様相を呈したことがつまずきの始まり。今季は選手もコーチも、原監督の顔色をうかがって萎縮するような状況でした」

一方のソフトバンクは、ポストシーズンで強すぎたことがあだになったという。

「巨人相手に2年連続4連勝で日本一に輝いたことも含め、2017年から日本シリーズ4連覇。でも、この4年間のうち、リーグ優勝は2回のみ。ポストシーズンだけ強すぎたため、問題を先送りにしてしまったことが低迷につながった要因のひとつです」

その「先送りした問題」とは何か?

お股ニキ氏が問題視するのは主力を固定化し、新陳代謝が進まなかったこと。これは、過去に黄金期を築いた球団が終焉(しゅうえん)した事例とも共通点が多いという。

「野手の主力がベテランになってくると全盛期ほどは動けなくなってくる。そうなると、結果的に勝っていても、経験をもとに勝負どころだけ力を発揮するような試合が増えます。つまり、高齢化によってだんだんと打低気味の守りのチームになると、もう終焉が近い。落合政権終盤の中日、2021年以降のソフトバンクがまさにその典型です」

原辰徳前監督から引き継いだ阿部慎之助新監督原辰徳前監督から引き継いだ阿部慎之助新監督
では、両チームとも具体的にどんな点を変革していくべきなのか?

一例として挙げてくれたのは「四球への過度なマイナスイメージ」の払拭だ。象徴的なのは、今季2軍で防御率1.87という成績を残しながら、巨人を戦力外となった堀岡隼人だという。

「堀岡は本当にいい投手で、阪神が獲得したらリリーフの一角になるでしょう。でも、巨人だと『コントロールが悪い』とネタにされる。堀岡だけでなく、澤村拓一に始まり、田中豊樹、ビエイラもそうです。

堀岡同様に戦力外となった鍬原拓也も含め、球威があって少し制球難の投手が評価されにくい。だから、最初からコントロールのいい"完成品"以外は受け入れられなくなってしまう。現に今活躍している菅野智之、戸郷翔征、山﨑伊織、赤星優志らはもともと制球力のある投手です」

先発陣は制球力重視でも、救援陣にもそれを求めるのは酷だとお股ニキ氏は続ける。

「救援投手は良くも悪くもパワーピッチャーが多く、多少の制球難には目をつむっても球威で押したり、フォークや変化球で三振を狙ったりする投球をさせないと。それを許容できるか否かで戦力にだいぶ差が出てきます」

この傾向はソフトバンクにも当てはまる。

「巨人とソフトバンクは似ていて、能力チャートでいうと、何かひとつがとがった選手よりも大きな五角形タイプの選手を求めがち。だから、杉山一樹のように160キロを投げる投手でも、四球が多いことのほうが注目されてしまう。

なぜか、千賀滉大もモイネロも与四球率は高いのに成功した、という点を見過ごしている。本来、絶対的な決め球がある投手は、フォアボールも増える傾向がありますから」

平均化した選手を求める傾向は、ソフトバンクの場合、野手にも当てはまる。

「野村勇がまさにそうですが、右打者にチームバッティングばかり求めても良さが消えます。少しくらいの粗さに目をつむっても、思い切り引っ張らせてホームランを打たせることで伸びていく選手なんじゃないでしょうか」

■明るい兆しの巨人、根が深いソフトバンク

巨人は阿部慎之助新監督、ソフトバンクは小久保裕紀新監督をそれぞれ迎え、心機一転を目指す来シーズン。変革の可能性はあるのか?

お股ニキ氏は巨人には希望を感じると語る。

「巨人は野手に明るい兆しがあります。今季ブレイクした門脇誠がこのままショートで定着すれば、坂本勇人はサードでもう3年はできる。となると岡本和真はファースト。セカンドは吉川尚輝に刺激を与えるため、社会人の泉口(いずぐち)友汰(NTT西日本)を獲った。狙いがしっかりしています」

ならば、上昇へのカギは投手陣か? 日本ハムの加藤貴之、オリックスの山﨑福也らの獲得が噂されているが、お股ニキ氏は別の投手をオススメする。

「先発陣はエースに成長した戸郷を筆頭に、菅野が復調し、山﨑伊、赤星も育ち、グリフィン、メンデスは来季も計算できそう。そして、ドラフト1位で西舘勇陽(中央大)も獲得。駒は十分そろっています。

むしろ課題は上述したようにリリーフ陣。ヤクルトの抑えを務めた田口麗斗が出戻りで復帰すれば、8回でも9回でも使えるし、同一リーグからの引き抜きはダメージが大きい。プルペン陣のリーダーになれる存在です」

藤本博史前監督から引き継いだ小久保裕紀新監督藤本博史前監督から引き継いだ小久保裕紀新監督
一方のソフトバンクはどうか?

「問題点はまだ多いです。投手の球速至上主義に続いて、打者の打球速度至上主義に陥っているように思います。だから、大竹耕太郎はソフトバンクでは活躍できなかったし、打球速度を追い求めたらリチャードくらいしか芽が出てこない。ソフトバンクを長年支えた長谷川勇也や中村晃、牧原大成あたりはそういう打者ではないですよね。

実はメジャーでも、近年のヤンキース低迷の要因はデータ至上主義に陥ったから、という見解があります。打球速度がいかに速くても、そもそもバットに当たらなければ意味がないわけです」

その上でお股ニキ氏は「過去の成功体験とプライドを捨てて再出発すべき」と提言する。

「オリックスやヤクルトは自分たちの弱さと向き合ったからこそ、立て直せたと思います。阪神もそう。誰でも成功体験に引きずられることはあると思います。その実績がすごいことは承知していますが、一度プライドを捨て、他球団から学んでみるべきではないでしょうか」

オグマナオト

オグマナオトおぐま・なおと

1977年生まれ。福島県出身。雑誌『週刊プレイボーイ』『野球太郎』『昭和40年男』などにスポーツネタ、野球コラム、人物インタビューを寄稿。テレビ・ラジオのスポーツ番組で構成作家を務める。2022年5月『日本野球はいつも水島新司マンガが予言していた!』(ごま書房新社)を発売。

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