今年3月のWBCでは、大谷(右)やダルビッシュ有(パドレス)からもアドバイスを受けて成長。海外の強打者相手にも好投した 今年3月のWBCでは、大谷(右)やダルビッシュ有(パドレス)からもアドバイスを受けて成長。海外の強打者相手にも好投した

メジャーリーグ(MLB)はワールドシリーズが終わり、ストーブリーグに突入。今オフ最大の目玉は、FA権を得た大谷翔平(エンゼルス)の来季がどうなるかだが、山本由伸(オリックス)の移籍先にも注目が集まっている。

今年の山本は防御率1.21、16勝6敗で3年連続の沢村賞を獲得。ポスティングシステムを利用してメジャー入りを目指す25歳右腕は、現地でどんな評価を受けているのか。また、どのチームとどんな契約を結ぶのか。

米スポーツ専門サイト『ESPN』は現地時間11月9日、今オフのMLBにおける「FA選手ランキング・トップ50」を発表し、山本を大谷に次ぐ2位に据えた。

そこで予想した契約内容は「総額2億1200万ドル(約320億1200万円)の7年契約」。これは、投手の総額ではヤンキースのエースであるゲリット・コール(9年総額3億2400万ドル)、2019年の最多勝投手であるナショナルズのスティーブン・ストラスバーグ(7年総額2億4500万ドル/2023年シーズンをもって引退)に次ぐ数字で、年俸にして3030万ドルという超巨額。まだMLBで実績がない選手の契約としては破格である。

今夏の時点では、山本に支払われる総年俸は9000万ドルから1億2000万ドルくらい、というのが一般的な見方だった。

9月9日に、山本がロッテ戦で自身2度目のノーヒットノーランを達成した後ですら、MLB専門局「MLBネットワーク」のジョン・ポール・モロシ記者は「FA選手の契約内容を予想するのは簡単ではないが、今オフの山本の場合、最終的に保証される金額は1億ドルを超えると考えている」と、1億ドルを超えるかどうかが基準になると強調していた。

当時は、マーケットに出ている投手の中ではブレイク・スネル(パドレス)、アーロン・ノラ(フィリーズ)といった実績あるベテランに続くくらいの評価だっただろう。そこから、2億ドル前後にまで値段が上がった理由はどこにあったのか。

まずは昨年のオフ、5年総額7500万ドルの契約でメッツに移籍した千賀滉大が、12勝7敗、防御率2.98と、新人王の候補に挙げられるほどの成功を収めた影響があるだろう。特にオールスター以降は防御率が2.58と向上。それに合わせて、千賀と同じように上質な速球とスプリットを持つ山本の市場価値が上がっていった。

さらに、今年最後の登板となった日本シリーズ第6戦で、阪神を相手に9回14奪三振での完投勝利というドラマチックなピッチングを披露したことも大きかった。投球数138球という、今のMLBではほぼありえない球数を投げたことも含め、山本の登板はアメリカでも大きく報道された。

そのシナリオは、2013年に楽天で24勝0敗というとてつもない成績を残し、日本シリーズ第7戦で胴上げ投手になってからヤンキースへと移籍した田中将大(現・楽天)とかぶる。

山本もあらためて大舞台で仕事を果たせることを証明した後、一部の米メディアが「山本は最後の最後で、また値段を上げた」と報じていたのもうなずける。

何よりも大きかったのは、多くの大都市チームが先発投手を必要としていることだ。大物代理人のスコット・ボラス氏をして、「これほど先発投手の需要が高いオフは久々だ」と言わしめたほど。

現時点で山本の獲得候補にはドジャース、ヤンキース、メッツ、カブス、レッドソックスといった〝金満チーム〟、メジャー屈指の名門であるカージナルス、ワールドシリーズに進出したダイヤモンドバックスといったそうそうたるチームが挙げられている。

中でも、エースのコールに次ぐ先発投手が欲しいヤンキース、千賀以外に頼れる投手が少ないメッツと、ニューヨークの2チームが獲得に本腰を入れていると伝えられる。

現地時間11月9日までアリゾナ州で催されたGM会議の最中に、山本について問われたヤンキースのGM、ブライアン・キャッシュマン氏の言葉は印象的だった。

「日本で山本のノーヒッターをネット裏から見られたのは素晴らしい贈り物だった。(その試合の)チケットを保存すべき特別な瞬間だったよ」

キャッシュマン氏がZOZOマリンスタジアムで、山本のノーヒットノーランを見たことは大々的に伝えられた。

その思い出を熱く語った56歳のGMは、「先発投手を補強できればフレキシビリティ(柔軟性や適応性)が生まれる」と、ヤンキース先発陣のテコ入れを希望。米メディアやMLB関係者の間で、ヤンキースが山本獲得の本命候補に挙がるようになった。

『ESPN』のバスター・オルニー記者は、08年のプレーオフ進出を逃した後にCC・サバシアを、アストロズにリーグ優勝を奪われた19年シーズン後にコールを獲得したヤンキースの過去の傾向から、自身のコラム内で「今年、7年ぶりにプレーオフ進出を逃したヤンキースは、山本に対して他を吹き飛ばすようなオファーをするかもしれない」と予言した。メジャー最大級の名門チームが本気なのだとすれば、その値段が急上昇するのも当然だろう。

だからといって、山本のヤンキース入りが確定したとは限らない。今や資金力でヤンキースをも上回るメッツ、35歳になったクレイトン・カーショウの後を継ぐエースが必要なドジャースも侮れない。

山本のオリックス時代の同僚・吉田正尚を獲得して〝道〟をつくったレッドソックスもダークホースになりえる。有力候補が多いからこそ、山本を巡る争いは興味深い。

金満チームが漏れなく参加した大争奪戦は早いうちに決着がつくのか、12月にテネシー州で行なわれるウインターミーティングの後あたりまでずれ込むのか。ただ、どこが獲得することになろうと、その結末は日本だけでなく、アメリカでもビッグニュースになることは間違いない。