おはようございます。野球大好き山本萩子です。先週、エンゼルスの大谷翔平選手のア・リーグMVP受賞が発表されました。日本でも大きく報道されたのですが、実は、その価値は私たちの想像以上でした。
大谷選手のMVPが発表された日、久しぶりに『ワースポ×MLB』に出演させていただきました。現地と放送をつないで、発表の瞬間をお届けするため生放送に臨みました。
私たちはもちろん、現地のスタッフも発表の瞬間までは誰がMVPを受賞するか知らされていませんから、どんな流れで番組をお届けするかもほとんど打ち合わせできず......。いろんな流れをシミュレーションした上で本番を迎えたのですが、思い返せば2年前のMVP発表中継の日もそんな感じでした。
やがて時間になり、会見が始まります。現地の映像は逐次送られてきますが、アメリカの放送局も生放送ですからバタバタ。放送時間はお尻があるので、こちらもハラハラです。
そしてご存じのとおり、大谷選手は見事満票でMVPを獲得。おめでとうございます。これまでたくさん生放送を経験してきましたが、MVPの同時中継は事前にできる準備が限られてしまうので、放送中も常に頭をフル回転。1時間の放送が終わった後はぐったりしてしまいました。
さて、今回のMVPですが、現地メディアの多くは「大谷選手が獲ることは間違いないだろう」と予想していました。注目されたのは、「満票かどうか」です。
MLBのMVPは、全米野球記者協会に所属する記者から選ばれた30人が投票するシステムです。1位はこの選手、2位はこの選手、と投票するのですが、満票というのは全員が1位に入れたということ。
記者にも、さまざまな立場の方がいます。球団につきっきりの「番記者」と呼ばれる方もいれば、エンゼルスと反対の東海岸のチームを追っていて、普段は大谷選手の試合をほとんど見ない記者もいます。特にボストンやニューヨークには、エンゼルスに対して厳しい見方をする人もいるそうです。
現地の人に聞くと、野球ファンの多くは自分たちの応援する(主に地元の)球団にしか興味がないのだとか。ということは、自分たちのチーム以外の野球を評価する機会はほとんどないので、必然的にマスコミも地元チームの報道が多くなります。
阪神と巨人のようにライバル関係にあるチームだと、敵チームの主力選手の名前を嫌でも覚えてしまうもの。でも、エンゼルスにはわかりやすいライバルチームがありません。というよりも、東海岸の野球ファンは、エンゼルスにほとんど興味がないのかもしれません。
ただ、大谷選手は特別です。例えばヤンキースとの対戦でニューヨークに遠征する際も、ヤンキー・スタジアムでは「大谷コール」が起こります。それが、どれだけすごいことか。エンゼルスのもうひとりのスター、マイク・トラウト選手でもそんなことは起こりません。
広大なアメリカで、いろんな価値観を持った人たちによる投票で満票を取った。それは本当にすごいことです。もちろん、過去に満票でMVPに選ばれた選手はいます。しかし、2度の満票でのMVPは史上初。まさに伝説ですね。
だからこそ、相手を侮辱していると取られかねないバットフリップをやっても、ホームランを確信してゆっくりベースを回っても、相手から報復されることがないのかもしれません。もちろん、愛嬌たっぷりの大谷選手の人徳もあるのでしょうが。
記者の中には意地悪な人もいますし、厳しい記事を書く人もいます。大谷選手のMLB入りが決まった時も、「二刀流なんて無理だ」という記事が新聞やインターネットを賑わせました。しかし、そんな周囲の声を結果で黙らせた結果、今やその記者たちも「大谷は伝説だ」と言っているのです。
現在、ファンの多くが懸念しているのは、「大谷がいる限り、どんなスター選手でもMVPを取れないのでは」ということ。ナ・リーグでMVPを受賞したのは40本ホームラン、70盗塁という信じられない記録を残したブレーブスのロナルド・アクーニャ・ジュニアでしたが、大谷選手と同じリーグだったらどちらがMVPだったのでしょうか。
来年は、肘の手術の影響で投手としての出場はしばらくお預けですが、打者に専念した大谷選手がどれだけの活躍を見せてくれるかも楽しみです。
二刀流でほぼ全試合に出場してきたこの3年間が濃厚すぎたため、これを超えられるのか、という不安もあるかもしれません。しかし、大谷選手はいい意味で私たちの期待を裏切ってきました。今年の満票でのMVP受賞は、来年の大谷選手からも目が離せなくなることを、あらためて教えてくれたのでした。
それではまた。
★山本萩子(やまもと・しゅうこ)
1996年10月2日生まれ、神奈川県出身。フリーキャスター。野球好き一家に育ち、気がつけば野球フリークに。
2019年から5年間、『ワースポ×MLB』(NHK BS1)のキャスターを務めた。愛猫の名前はバレンティン