オグマナオトおぐま・なおと
1977年生まれ。福島県出身。雑誌『週刊プレイボーイ』『野球太郎』『昭和40年男』などにスポーツネタ、野球コラム、人物インタビューを寄稿。テレビ・ラジオのスポーツ番組で構成作家を務める。2022年5月『日本野球はいつも水島新司マンガが予言していた!』(ごま書房新社)を発売。
このオフに新天地を求める有力選手10人の現時点での実力、今後の活躍期待度などを全力診断!
※選手の所属先は2023年シーズン終了時のものです。
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〈山本由伸〉オリックス
まずは山本のメジャーでの評価を確認しよう。
「今年のサイ・ヤング賞投手ブレイク・スネル(パドレス)よりも上のランクで扱われていて、ポスティングフィーと年俸総額は300億円を超える見込み。評価が高い選手から決まっていくメジャーの移籍市場で、今年は大谷翔平(エンゼルス)の次に山本の注目度が高いです」
こう答えてくれたのは本誌おなじみの野球評論家、お股ニキ氏。具体的に山本のどんな点が支持されているのか?
「スプリットが最大の武器であることを深く理解している上に、フォーシームは低いリリースポイントから伸びていき、スピードも制球も抜群。そこに遅いカーブを組み込めるのが素晴らしい。
サイ・ヤング賞3度のジャスティン・バーランダー(アストロズ)やクレイトン・カーショー(ドジャース)と似たような究極の投球構成で、メジャーで必要とされる要素を備えています」
そんな盤石な山本だが、課題はないのか?
「強いて言えば、カットボールの変化が小さいので、ストレートを打ちにいった打者でも対応しやすい。毎年、ほかの球種に比べて打たれており、課題の残る球でしたが、9月下旬から改善傾向に。
また、肘への負担を気にしてか、日本ではあまり投げなかったスライダーの比率も増やしたい。肘を痛めずに投げるやり方もありますし、カットボールとスライダーによってフォークがより生きてきます」
178㎝という身長を懸念する声もあるがどうか?
「確かにメジャーの投手の平均身長から10㎝ほど低いですが、野球は階級制ではないですし、過去にもティム・リンスカム(元ジャイアンツなど)やペドロ・マルティネス(元レッドソックスなど)のような180㎝程度の大投手がいました。
山本も体の動かし方を極めているので問題ないでしょう。それに、リリースポイントが低いことは伸びるフォーシームを投げられる条件でもあります」
そんな山本にふさわしい球団は?
「お金のある球団じゃないともう手が出せない存在。となると、有力なのはヤンキースや千賀滉大のいるメッツ。千賀とのWエース結成も楽しみですが、大谷の移籍が有力視されるドジャースでのコンビ結成を見てみたいですね」
〈今永昇太〉DeNA
山本同様、ポスティング移籍を目指す今永の評価は?
「フォーシームの質は入団当初から非常にいいです。メジャーでもトップクラスの質であり、WBCでも威力を発揮しました。山本同様に上背がない点も、伸びるフォーシームを投げる上でマイナスになりません」
このフォーシームで奪う三振こそ今永の真骨頂であり、メジャーでも評価されそうな点だ。
「今季の奪三振率10.58は魅力的。日本よりもメジャーのほうが振ってくる打者が多いので、三振はもっと取れるはずです」
そんな今永の課題は変化球だという。
「WBC決勝でも曲がりの弱いカッターでホームランを献上しました。そうなると、最後はストレート頼みになり、狙われてまた一発を浴びるケースが増えてしまいます」
確かに、今季の今永はリーグワースト2位の17被本塁打。山本の2被本塁打とは大きな開きがある。
「日本以上に強打者の多いメジャーでは、被本塁打が増える恐れも。まずはカッターの改良が不可欠。スライダーも曲げようと意識して投げすぎなので、曲げようとしなくても曲がる感覚が必要です」
そんな今永がハマりそうな球団はどこか?
「日本人選手が好きで、先発を増やしたいカブスが興味を持っているようです。あとは、先発が欲しいドジャースが山本を獲とれなかった場合に狙ってくる可能性もありますね」
〈松井裕樹〉楽天
同じ左腕で海外FAでの移籍を狙う松井はどうか? お股ニキ氏はその実力について、「フォーシームの質、武器のスライダーに加えて、近年はフォークの精度を磨いて絶対感が増しました。今永以上の奪三振能力がある上に、長い期間の安定感を誇ります」と評価。では、課題は?
「これは今永も同様ですが、メジャーでは日本ほど〝左腕〟であることに優位性がありません。その上でどれだけやれるか。また、国際大会でボールへの適応に毎回苦労しているのも懸念点。
ただ、近年フォークの精度を磨き、レベルアップしました。まだ28歳と若いし、中継ぎはいくらいても重宝されます。藤浪晋太郎が在籍しているオリオールズをはじめ、『計算できる中継ぎが欲しい』という球団はほかにもあるはずです」
〈上沢直之〉日本ハム
メジャー挑戦組、最後は上沢について。上述した3投手と違って代表経験が少ないため、どのような評価となるのか?
「変化球の技術やストレートの質、回転数などは素晴らしいです。実際、回転数が表示されるPayPayドームで力を入れたフォーシームは藤川球児クラスの2800回転を超えたこともあります」
この回転数があるからこそ、140キロ台中盤のフォーシームでも空振りが奪えるわけだ。
「通算成績で比較しても、今永の64勝50敗、防御率3.18に対し、上沢は70勝62敗、防御率3.19と勝ち星では若干上回っている。今季リーグ最多イニングを投げるなどスタミナや尻上がりでの良さは見せました」
ただ、前述の3投手よりも課題は多いのが実情だ。
「現状ではやや器用貧乏になってしまっていて、突き抜けられていない。本当にいいのはフォークとパワーカーブで、この球種の投球割合を20%台に上げていけば、対比でストレートがもっと効果的に使えるはず。まずはフォークを磨いて空振りを取れる決め球にしたいですね」
伸びしろも含め、メジャーで評価されそうな点は?
「昨年まで本拠地だった札幌ドームの高いマウンドと相性が良く、メジャーのマウンド向き。187㎝と上背があり、スタミナもある。そもそも、メジャーにも140キロ台の技巧派は多数存在しています。だからこそ、決め球を磨き、球種選択を磨けば通用する可能性はあります」
〈西川龍馬〉広島
続いて国内移籍組を見ていこう。まずは、オリックス入りが決まった西川について。
「WBCに呼んでほしかったほどのスイング技術を持つ、球界トップ級の左打者。パ・リーグでも遜色なく打つと思います。まだ28歳でここから3年は脂が乗るでしょう」
打者としてだけでなく、外野守備の面でも評価は高い。
「オリックスは本職ではない中川圭太がセンターを守っており、実際、日本シリーズでもミスがありました。実に的確でいやらしい補強です。本来は西武のほうが外野手獲得は急務でしたが、金額的にもオリックス以外ありえなかったでしょうね」
〈山﨑福也〉オリックス
投手の目玉といえば山﨑だ。オリックス残留の線も残しつつ、ヤクルト、DeNA、巨人、ソフトバンクなどが獲得に名乗りを挙げていたが、新天地に選んだのは日本ハムだった。。
「ここ数年で完成度が上がってきた点、ここから数年は全盛期を見込める点から、人気が集まるのでしょう。人的補償のないCランク、という点も争奪戦になった要因です」
投手としての特徴をもう少し掘り下げたい。
「フォーシームは軽く投げてもピュッと来るようになって安定。さらに、チェンジアップとフォークの投げ分けもできるようになり、レベルアップしました。それと、バッティングが本当にいいので、ヤクルトなどセ・リーグ勢が積極的だったのもうなずけます」
そうした観点からも同一リーグへの移籍、まして優勝チームから最下位チームへの移籍には驚きもあった。
「オリックス捕手陣の配球のよさ、京セラドームの広さも有利に働いていた点は考慮すべきですが、セ・リーグには同系統の投手も多くいるため、パ・リーグほど優位性を発揮できなかった可能性もあります。
その点、日本ハムには、昨年ひと足早くオリックスからFA加入した捕手の伏見寅威がいるのは心強い。さらに、FAせずに残留した加藤貴之、ドラフト1位で獲得した細野晴希、若手の根本悠楓と共に"左腕王国"への期待が高まります」
〈石田健大〉DeNA
同じ左腕で、こちらも人的補償のないCランクの石田だが、山﨑ほどの動きはまだない。違いはどこにあるのか?
「人気の山﨑福也を獲得できなかった球団がプランBで獲得に動くのではないでしょうか。調子がいいときは7回1失点のようなエース級のポテンシャルを発揮できますが、悪いときは5回3失点のような内容。今季は9月の防御率が7点台だったように、尻すぼみな点も懸念材料になっているのでしょう」
〈平井克典〉西武
パ・リーグのシーズン最多登板81試合の記録(2019年)を持つ平井克典はどうか?
「今季は球速も出ていて、54試合登板で防御率2点台。ただ、フォークの落差は小さく、奪三振は少なかった。
また、変則気味のサイドスローが左打者には見やすいのか、対右打者被打率.185に対し、対左打者は.282と1割の差がある。このあたりは気になりますが、経験と能力から中継ぎとして計算できる投手です。巨人のように中継ぎの弱いチームなら重宝されそうです」
〈山川穂高〉西武
そして、なんといっても注目度の高い山川穂高に触れないわけにはいかないだろう。
「いろいろ問題はありましたが、野球界は実力がやはり大事。西武が貧打に陥ったのも、パ・リーグの本塁打王争いが20本台にとどまったのも山川不在が大きかったわけですから」
ソフトバンク有力とされるが、お股ニキ氏の見立ては?
「金銭面もありますが、一塁が補強箇所という点でもソフトバンク移籍が合理的。同じく一塁が補強箇所なのは広島も同様で実現すれば面白いですが、さすがに可能性は少ない。巨人は岡本和真を一塁で起用するはずで、やはりソフトバンクが有力です」
最後に、山川の動向に影響を受けそうなのが巨人を自由契約となった中田 翔だ。山川と同じ「一塁手」「右の強打者」という点で、玉突き移籍もあるかもしれない。
「一塁手が欲しいのは前述したようにカープ。中田は広島出身ですし、面白いのかなと。また、家族の問題で在京球団希望という話もあるので、ロッテやDeNAもありえるし、山川が出ていくなら西武の一塁に収まる手もアリです」
そんな中、得点力不足に悩む中日が一本釣り、との噂も。
「もちろん中日にもハマります。ただ、清原和博の巨人移籍劇と一緒で、『よく来てくれた!』と歓迎していたはずなのに、待望論が大きすぎると、そこそこの成績ではファンが納得してくれない。また、中田の性格的にも救世主的な役割を求めるのは違うと思います」
例年になく活発な動きを見せるストーブリーグ。笑顔で越年できるのは誰になるだろうか?
1977年生まれ。福島県出身。雑誌『週刊プレイボーイ』『野球太郎』『昭和40年男』などにスポーツネタ、野球コラム、人物インタビューを寄稿。テレビ・ラジオのスポーツ番組で構成作家を務める。2022年5月『日本野球はいつも水島新司マンガが予言していた!』(ごま書房新社)を発売。