街を歩いていると、ファンの方から声をかけていただくことがあります。やはり嬉しいものですが、びっくりして気の利いた対応をできないことも。本当に申し訳ありません。

そういえば、球場で声をかけてくれたファンの方と一緒に試合を観戦したこともありました。応援してくれる方には、できる限りそれに応えたいと思うのが人間の常なのです。ということで、今日は「ファンサービス」について感じたことをお話しさせてください。

先日、神宮球場で行なわれたヤクルトのファン感謝デーに取材でお邪魔しました。選手との触れ合いや、ステージの上での食レポ大会やヒーローインタビューの練習など、ファンが喜びそうな企画が多く、大盛り上がりでした。

選手にインタビューをしていると、以前と比べて、選手のファンに対する感謝の意識が強くなっていることを感じました。

少し前は、選手が出し物をやる時などは少し恥ずかしそうに、気だるそうにやる方もいるイメージがありましたが、今の選手って、みんな一生懸命。「世代の違い」と言えばそれまでかもしれないですけど、「グランドで結果を出すことがすべて」という時代を経て、「ファンとどう向き合っていくか」ということも求められる時代になったのでしょう。

昔は、ファンが選手と触れ合えるのは、ファン感謝デーや球場、練習場くらいしかありませんでした。しかし、現在はSNSが盛んですから、どの選手も発信を頑張ってくれて、ファンはそれにリアクションをすることができます。選手の動向やプライベートを知ることができる時代になりました。

それこそ、ひと昔前だったら、好きな選手の動向を確認する術はテレビのニュースや新聞などを見るしかありませんでした。そこで取り上げられるのは、必然的にスター選手や主力選手が多くなります。

一方で、SNSでは発信者が主役ですから、まだ活躍する機会が多くない選手、あるいは怪我をして休んでいる選手の動向も追うことができます。それゆえ、選手の人気も多様化しました。「プレー以外でもこんなに魅力のある選手だったんだ」と知ってよりファンになる、というケースも増えた気がします。

早朝からたくさんのお客さんが神宮球場に足を運んでいました。寒空の下でしたが、心はほかほか!素敵なファン感謝デーでした。 早朝からたくさんのお客さんが神宮球場に足を運んでいました。寒空の下でしたが、心はほかほか!素敵なファン感謝デーでした。

ファンサービスの"先輩"といえば、大リーグです。例えば、デーゲームのあとに子供がグラウンドに降りて、ベースを一周する「キッズランベース」という催しは一般的な光景です。試合観戦に来た方たちに人形を配布することもあり、大谷選手のボブルヘッド人形が配られた時も長蛇の列ができましたね。

昨年には、ヤンキースの大砲、アーロン・ジャッジ選手のあるファンサービスが話題になりました。

ジャッジ選手のホームランボールをキャッチしたブルージェイズファンの男性が、近くにいたジャッジ選手のユニフォームを着た男の子に惜しげもなくボールをあげると、それを受け取った男の子が涙を流し、その映像が全世界に拡散されて感動を呼びました。ジャッジ選手は後日、そのふたりを試合に招待し、試合前に握手や話をするなど交流しました。招かれた男性や男の子はもちろん、その光景を見ていたファンが温かい気持ちになったのは言うまでもありません。

アメリカの選手の特徴は、ファンサービスに対してフットワークが軽いことです。いいと思ったことはすぐに実行し、取り入れる。どういう行動が子供に夢を与えるのかを常に考えているのでしょう。

そういったストレートな振る舞いに比べると、日本のファン感謝デーなどはどこか牧歌的ですが、「これはこれでいいな」と思いました。選手はファンに感謝の気持ちを伝え、ファンも「この球団で頑張ってくれてありがとう」と伝える。選手には移籍という手段がありますが、ファンは好きな球団をやたらと変更することはありません。うちのチームにいてくれてありがとう。ただ、それだけを伝えたいのです。

選手には結果を求めても、見返りは求めてはいません。立派な成績でも、苦しい時も決して見放さない。ファンとは"お母さん"のようなものなのです。

自分がボールをあげただけで、子供にとっては一生忘れられない思い出になる。そのことを忘れずに、選手たちにはこれからもファンサービスに励んでほしいと思うのでした。

それではまた来週。

★山本萩子(やまもと・しゅうこ)
1996年10月2日生まれ、神奈川県出身。フリーキャスター。野球好き一家に育ち、気がつけば野球フリークに。
2019年から5年間、『ワースポ×MLB』(NHK BS1)のキャスターを務めた。愛猫の名前はバレンティン

★山本萩子の「6-4-3を待ちわびて」は、毎週土曜日朝更新!