学生、そして社会人になっても先輩付き合いは欠かせません。私は得意なほうだと思うのですが、うちの旦那さんは苦手なようで、人それぞれですね。
でも、どうせだったら先輩に可愛がられたほうがいいですよね。それはプロ野球の世界でも同じこと。今回は「後輩力」についてお話しさせてください。
つい最近、選手によるパワハラが問題になりました。先輩・後輩という関係で理不尽な仕打ち、被害を受けた選手の苦しみは大きかったことでしょう。子供たちに夢を与えるプロ野球という世界で、二度とこんな悲しい出来事が起こらないことを願います。
一方で、微笑ましい上下関係を築いている選手たちもたくさんいます。いえ、そちらのほうが圧倒的に多いでしょう。
我がスワローズは、いい意味で選手の上下関係がなく、チーム内の雰囲気は常にわきあいあいとしていて、ファミリーのような一体感があることが大きな魅力です。中でも、先日に配信番組でご一緒した内山壮真選手は、先輩と後輩のよき"橋渡し役"となるムードメーカー的な存在だと思います。
内山選手といえば、高卒3年目の選手ながら正捕手争いを繰り広げ、一方で得意の打撃を活かすために外野も兼任してチームを支える中心選手のひとりです。普段は「失礼」と「かわいげ」のバランスがよく、先輩との距離の取り方も本当に絶妙なんです。内山選手が育った星稜高校がとても仲良しなチームだったようで、その頃からのびのびと野球をしていたんでしょうね。それが、ヤクルトというチームにハマったんだと思います。
何かの記事で読んだのですが、ヤクルトから他チームに移籍した選手が、ベンチで横にいた選手に対戦相手の攻略法を教えたら驚かれたそうです。教えられた側の選手は、「選手同士はライバル」という気持ちがあり、大事な情報はチームメイトにも漏らさないという意識があったのかもしれません。だから教えたほうも驚いたでしょうね。これもまた、ヤクルトの一体感を表す素敵なエピソードだと思います。
ヤクルトに漂う独特な雰囲気の源流をさかのぼると、私の知っている範囲では、番組でご一緒していた五十嵐亮太さんがまさにそういう方でした。絶妙な距離感で大先輩たちに絡んでいくため、みんなに愛されていたと聞きます。古田敦也さんなど偉大なレジェンドにも物怖じしないしない後輩など滅多にいませんからね。「先輩に対する絶妙な失礼」という、ヤクルトの伝統の礎を作ったのは五十嵐さんだという意見も(笑)。
内山選手も、五十嵐さんの系譜ですね。高校時代から先輩をいじり、後輩からもいじられて成長してきたからこそ、どうすれば自分がチームの"潤滑油"になれるかを知っているのでしょう。
ファン感謝デーの日、先輩の選手のみなさんに内山選手についてお聞きしました。その様子がとても印象的で、どの選手も「あいつな〜」と言いながら笑顔になるんです。たとえ同じポジションを争うライバルだったとしても、内山選手の人間性やキャラクターを愛さずにはいられない、という感じでした。だけど、青木宣親選手くらい年齢が上の方にはリスペクトの姿勢を崩さないそうで、その使い分けもまさに"プロ後輩"。
徐々に内山選手が先輩になっていって、ベテランという立場になっても、きっと下の選手に対しては親しく、フランクに接するんだろうなと思いました。下の選手に厳しく当たり散らしている様子など、想像もできません。
プロ野球で活躍する選手の中には、高校時代から特別な存在としてチームでも大事にされ、年上の先輩などから怒られたりする経験が少なかった選手もいるのかもしれません。それによって周りを見下すようになってしまうことがあるのなら、なんだか悲しい話です。
内山選手の根本にあるのは、先輩や後輩に対する信頼や愛だと思います。どれだけ先輩をいじっても怒られないのは、きっと人として尊敬する気持ちが根本にあるから。内山選手がベテランになったとき、どんな先輩になるのか今から楽しみです。そのときには、後輩からたくさんいじられていてほしいな、と思うのでした。
それではまた来週。
★山本萩子(やまもと・しゅうこ)
1996年10月2日生まれ、神奈川県出身。フリーキャスター。野球好き一家に育ち、気がつけば野球フリークに。
2019年から5年間、『ワースポ×MLB』(NHK BS1)のキャスターを務めた。愛猫の名前はバレンティン