パリ五輪を目指すU-22日本代表に佐藤(左)、福田(右)ら「非Jリーグ経由」勢が続々選出! 福井(中央)は強豪バイエルン・ミュンヘンのトップチームでデビュー済み!パリ五輪を目指すU-22日本代表に佐藤(左)、福田(右)ら「非Jリーグ経由」勢が続々選出! 福井(中央)は強豪バイエルン・ミュンヘンのトップチームでデビュー済み!

来春のパリ五輪予選を兼ねたU-23アジア杯の組み合わせが決定。日本は韓国、UAE、中国と同組となるなど、五輪出場への道のりはラクではなさそう。

だが、楽しみな追い風も吹いている。それはJリーグで実績を残すことなく早々に海を渡った「新世代海外組」の台頭だ。日に日に存在感を増す彼らの現在地に迫る。

■福田「トップでもワンチャンあれば」

海外挑戦は今や育成年代の若手にとっても身近なものになった。だが、彼らがプレーするのは、海外サッカーといえば思い浮かぶような、キラキラと輝くスタジアムで何万人もの大観衆に声援を送られる世界ではまだない。

多くは簡素なスタジアムでピッチもでこぼこ。また、プロであるトップチームへの昇格が約束されているわけではなく、チームメイトはすなわちライバルでもある。競争は激しく、日々の練習から気の休まるときがない。"新世代海外組"はそんな厳しい環境に身を置いている。

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今年11月、パリ五輪出場を目指すU-22日本代表に初招集されたのはFW福田師王(しおう/19歳)。途中出場したU-22アルゼンチン戦(同18日)でゴールを決めた彼は神村学園高時代、3年連続で全国高校サッカー選手権の優秀選手に選ばれるなどして注目を集めた。

そして今春、Jリーグを経由せずにドイツ・ブンデスリーガ、ボルシアMGのⅡ(ツヴァイテ)に加入した。

ツヴァイテとはセカンドチームのこと。下部リーグでプレーしながら、プロであるトップチームとの契約を勝ち取ることを目指す。

福田は入団前、「(Jリーグを経由せず)直接海外に行って活躍している選手はあまりいないけど、自分が成功例になれれば」と話していた。進む道の険しさを理解し、それを切り開く覚悟でドイツに渡っている。

ボルシアMGⅡの福田師王(19歳)。11月にU-22日本代表に初招集。早速ゴールを決めたボルシアMGⅡの福田師王(19歳)。11月にU-22日本代表に初招集。早速ゴールを決めた

そんな彼のプレーを見るべく、現地時間(以下同)11月4日、レギオナルリーガ(4部相当)のデュッセルドルフⅡ戦を訪れた。

ツヴァイテではどの選手もアピール優先で個人プレーに走りがちだ。少し高い位置でボールを受ければすぐシュートを打ち、見せ場と思えば仕掛ける選手が多い。

この日、福田はFWとして先発出場したが、どんな動き出しを見せてもほとんどパスが来ない。それでもゴールへの嗅覚を研ぎ澄ませ続け、後半42分にこぼれ球に反応し、チーム唯一の得点を決めた。今季通算5ゴール目だ。

試合後に本人を直撃すると、苦笑いしながらこう振り返った。

「動き出しを意識しても、そんな(動きに合わせた)パスは入らないです。もうワケわかんないっス。苦しいっスね。普通に苦しいっス。練習でもパスは出てこないし、削り合いみたいな感じで全員ドリブルしてバンバン行くだけ」

神村学園高時代から注目されていた福田。ボルシアMGではトップチームの練習にも参加している神村学園高時代から注目されていた福田。ボルシアMGではトップチームの練習にも参加している

あきれ気味、かつ、愚痴のようなテンションだが、どこか楽しそうでもある。

「こういう試合で(味方にも)勝っていかないと、トップチームには残れない(上がれない)。やっぱり結果がすべてだと思います。点を取り続けること、ボールが来なくても諦めずに最後まで動き続けてこぼれ球を狙います」

福田は時折トップチームの練習に参加しているが、むしろスキルや理解度が高い選手たちとプレーするほうがスムーズにいくという。

「トップの練習に行ったらけっこうできるんです。点を決めたり、シュートゲームでも一番決めたりするんです。だから、トップの試合に1回でも出て、ワンチャンあったら決められる気がするんです。でも、ここに戻ってくると、『え?』みたいな(苦笑)」

味方ともしのぎを削る厳しさと、ブンデスリーガ1部のトップチームと直結しているという期待感の中、研鑽(けんさん)を重ねている。

■福井「時々、心は折れますけど......」

今年10月、11月とU-22日本代表に続けて招集されているMF福井太智(たいち/19歳)は、福田と同時期にサガン鳥栖からドイツ・ブンデスリーガ、バイエルン・ミュンヘンのⅡに移籍した。

バイエルンは言わずと知れたブンデスリーガの盟主。とはいえ、福井が移籍したのはあくまでツヴァイテ。鳥栖ではクラブ史上最年少の16歳でルヴァン杯出場を果たし、昨年3月には17歳でプロ契約を結んだ。だが、バイエルンではアマチュアのツヴァイテとの契約だ。

「鳥栖に何も恩返しできなかったのは悔しいです。でも、世界にはずっと行きたいと思っていたので、チャンスがあれば行くという判断をしました。新しいことにチャレンジするのが好きですし、自分の成長につながっていくかなと。時々、心は折れますけど、自分が成長しているなと感じられたときは楽しいです」

今年、サガン鳥栖からバイエルン・ミュンヘンⅡに移籍したMF福井太智(19歳)今年、サガン鳥栖からバイエルン・ミュンヘンⅡに移籍したMF福井太智(19歳)

その福井は9月26日、早くもバイエルンのトップチームデビューを果たした。ドイツ杯の1回戦で27分間の出場だ。

一見順調そうだが、チームでは今季、すでにふたりの選手がプロ契約を勝ち取っている。また、昨季プロ契約を果たし、すでにトップチームでも活躍しているFWマティス・テル(U-21フランス代表)はひとつ年下だ。

「彼らには負けられないですし、プロに上がった選手より自分のほうがいいと思っているところはある。そこは悔しいですけど、自分がやるべきことをやるだけかなと」

福井は9月のドイツ杯でトップチーム初出場。左端はイングランド代表のエース、ケイン福井は9月のドイツ杯でトップチーム初出場。左端はイングランド代表のエース、ケイン

周囲に日本人がいない環境で、まだまだ勉強中ではあるが、試合中にドイツ語で指示も出せるようになってきた。

「(ここでのし上がるために必要なのは)自分自身を持つことは大事だと思いますし、うーん......周りに左右されないところ、こっちの選手は強く個人を持っているので、その個々の部分に負けないことです。自分に自信を持つことは意識しています」

ドイツ・ブンデスリーガ、シュツットガルトのⅡに所属するDFチェイス・アンリ(19歳)は今年5?6月に開催されたU-20W杯アルゼンチン大会に出場。10月にはU-22日本代表の米国遠征に招集されている。

米国人の父と日本人の母を持ち、日本で生まれ、9年間を米国で過ごした後、中学1年の夏に日本に戻ってきた。それから部活動でサッカーを始めるとすぐに頭角を現し、親元を離れて強豪の尚志(しょうし)高校(福島)に進んだ。

その後は世代別代表の常連となり、高校3年時にはシュツットガルトとオランダ・エールディビジ1部のAZの練習に参加。A代表のトレーニングパートナーとしても経験を積んだ。

尚志高校からシュツットガルトⅡに加わったDFチェイス・アンリ(19歳)尚志高校からシュツットガルトⅡに加わったDFチェイス・アンリ(19歳)

高校時代から彼のトレーニング指導を行なう、法政大学教授でサッカー指導者の杉本龍勇(たつお)氏は、サッカー歴の浅さが逆にアドバンテージになると語る。

「アンリはサッカー歴が浅いからこそ、あまり"普通"に染まっていない。高卒後、もし日本でプレーしていたら、それはそれでなじんだのでしょうけど、スポンジのようにまだまだなんでも吸収できる状態だからこそ、海外が向いていると思いました」

また、恵まれたフィジカルも魅力だという。

「彼はフィジカル的にはほかの日本人とはスケールが違います。世界で勝負できるセンターバックになるのではないかと思うんですよね。だからこそ、早くシュツットガルトでもトップに呼ばれてほしいし、ビッグクラブに行って、そこで吸収してほしいです」

日本語よりも英語が得意。それでいて杉本氏が指導する吉田麻也らとの合同トレーニングの際には、「ヤバいっス。怖いっス」と先輩たちを畏(おそ)れていたという日本的マインドを併せ持つ意外性も魅力のひとつだ。

■元Jリーグ得点王も太鼓判!

高卒だけでなく、大学途中からというケースもある。ドイツ・ブンデスリーガ、ブレーメンのⅡに所属するU-22日本代表のFW佐藤恵允(けいん/22歳)は今年7月末、明治大学サッカー部を退部し、ドイツに渡った。

そのきっかけは昨年、U-21日本代表のスペイン遠征に参加した際、ブレーメンのスカウト担当フランク・オルデネビッツ氏の目に留まったことだった。"オッツェ"の愛称で知られ、ジェフユナイテッド市原(当時)でプレー、1994年にJリーグ得点王に輝いた彼は、今も日本が好きで、どうしても日本人選手に目が向くという。

ブレーメンⅡのFW佐藤恵允(22歳)。11月のU-22アルゼンチン戦で豪快な先制点を決めたブレーメンⅡのFW佐藤恵允(22歳)。11月のU-22アルゼンチン戦で豪快な先制点を決めた

佐藤については、「スペインで初めて見た彼はとても魅力的だった。スピードとパワーがあり、ストライカーに必要なものを持っている」と高く評価している。ただ、当時、佐藤はすでに大学3年生。プロとして勝負するには急がなくてはいけなかった。

「彼は明治大学の学生だった。もちろん、明治大学はいい大学だ。でも、もっと広い世界を見て勝負することが必要だと思ったんだよ」と、まずツヴァイテとの契約からスタートした理由を明かす。

コロンビア人の父を持つ佐藤(中央)。今夏、明治大学からブレーメンのセカンドチームへコロンビア人の父を持つ佐藤(中央)。今夏、明治大学からブレーメンのセカンドチームへ

佐藤もトップチームの練習にもたびたび呼ばれており、オッツェも「もちろん、どんな結果を出すかは彼次第だが、トップチームの選手の候補として彼はここにいるし、実際に高い評価も受けているよ」と期待を隠さない。

その彼が「日本人といえば、ウチにはもうひとりいるんだよ」と教えてくれたのが、現在オランダ・エールディビジのフォレンダムで背番号1を背負い、試合に出場し続けているGK長田澪(みお/ミオ・バックハウス、19歳)だ。

ドイツ人の父と日本人の母を持つ長田は、川崎フロンターレのU-13からブレーメンのU-15に移籍し、U-17、U-19、そして、昨季はツヴァイテでプレーしてきた。

迎えた今季はブレーメンのトップチームとプロ契約を結んだ上で、フォレンダムにレンタル移籍。ブレーメンのトップチームでサブGKとして試合を見ることよりも、試合経験を積むことを重要視した。

プロ契約を結び、すでに試合出場を重ねているという時点で同世代の日本人選手より一歩先を行っている。

「最終的に決めたのは自分ですけど、ブレーメン側もフォレンダム側も賛成してくれて、あまり考えずにサインしました。もっと経験のある選手を使う選択肢もある中で、僕にキーパーを任せてくれるフォレンダムには感謝しかないです。でも、オランダ語はドイツ語と案外違うから難しいんです(笑)」

身長194㎝の大型GK長田澪(19歳)。川崎の下部組織出身で、今季はオランダ1部フォレンダムの正GK身長194㎝の大型GK長田澪(19歳)。川崎の下部組織出身で、今季はオランダ1部フォレンダムの正GK

経験が必要とされるキーパーというポジションで、若さはプラスばかりではない。ただ、それでも充実感とともに楽しんでいると話す。

「Learning by doingで成り立っているところもあって、試合でも練習でも、ミス、改善点が毎回見えてきて、僕はもう必死で毎週やるしかないんです」

現在はU-20ドイツ代表に呼ばれることもあり、来年のパリ五輪・日本代表への選出は現実的ではない。だが、将来的には日本代表を目指すことも考えているという。

「世代別代表の間は、アジアまでの(長距離)移動を考えるとドイツがいいなと思います。でも、僕はフロンターレの大ファンで、今でも毎日情報をチェックしていますし、等々力(陸上競技場)を見て育ったし、サムライブルーもずっと見てきたんですよ」

最終的に決めるのは本人であり、選出されるかどうかはまた別の問題。でも、19歳からオランダ1部でレギュラーとしてプレーしている日本代表GKの誕生、というのは夢のある話ではないか。

U-22日本代表の大岩剛監督。メンバー争い、ポジション争いはギリギリまで続きそうU-22日本代表の大岩剛監督。メンバー争い、ポジション争いはギリギリまで続きそう

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進路のひとつとして海外が当たり前に選択肢に入る時代である。Jリーグが空洞化しないように、また、日本が都合の良い狩り場にならないよう工夫と策を講じる必要はある。

だが、それでも意欲的な若手の海外挑戦を止めることはできないし、活躍は楽しみでしかない。来年のパリ五輪、そして2026年北中米W杯に向けて期待は膨らむばかりだ。