「もう高すぎる壁でしょ」
「あの3本柱は反則だ」「出ない選手を貸してほしい」
来年1月2、3日に行なわれる第100回大会の箱根駅伝を前に、駒澤大に対して漏れてくる他校の声は、かなり絶望的なものになっている。
そのくらい駒澤大は、強い。今季の大学三大駅伝のうち、出雲駅伝と全日本大学駅伝はどちらも1区からトップに立ち、一度も首位を譲ることなく完全優勝。箱根駅伝でもそれを実現すれば、全24区間トップというとてつもない偉業を達成することになる。
「負けてたまるか大作戦」を発令した青山学院大の原 晋監督は、「どう駒澤大を倒すか。出雲、全日本の2位以下のチームが一丸となって駒大に向かっていかないといけません」と、駅伝では珍しい共闘を口にした。
さらに中央大の藤原正和監督は、「とにかく往路の前半から主力を投入し、少しでも相手(駒澤大)を慌てさせる展開にしないと早々に終わってしまう可能性がある」と、往路の前半区間に勝負をかける覚悟だ。
必死になって対抗手段を考える他校を尻目に、駒澤大は強さを磨き続けてきた。
11月25日の八王子ロングディスタンスの1万mでは、主将の鈴木芽吹(4年)、篠原倖太朗(3年)、佐藤圭汰(2年)の3本柱が、そろって27分30秒前後のタイムを叩き出した。
特に佐藤は、U20日本新記録、日本人学生記録歴代2位の27分28秒50をマーク。日本歴代でも8位で、同4位には、いつも一緒に練習をしているOBの田澤 廉(現トヨタ自動車)がいる(タイムは12月12日時点)。
駒澤大の強さをひもといていくと、田澤と3本柱が属する「Sチーム」というグループの存在が浮かび上がってくる。
このSチームは、大八木弘明総監督が「世界を目指す」という目的で、田澤、鈴木、篠原、佐藤の4人でグループをつくり、ほかの駒澤大の選手とは別で練習している。その練習メニューは、実業団を超えた世界レベルだ。
安原太陽(4年)は、「たぶんこのレベルで練習しているところは実業団でもトップクラスだけ。僕らはそういう練習や田澤さんの意識の高さなどを間近で見て刺激をもらっています。『自分たちのレベルで満足してはいけない』と思わされますし、『さらに上へ』という気持ちになる。それは、駒澤大の強さのひとつだと思います」と語る。
安原の言葉どおり、Sチームの存在は駒澤大の全選手に好影響を及ぼしている。自分もSチームの練習ができれば世界で戦えるかもしれない。そういう〝物差し〟となる先輩の存在や、質の高い練習を見ることでモチベーションが高まり、練習にも身が入る。それを継続していくことで走力が上がり、選手間の競争意識を高めていく。
実際、駅伝のメンバーが決定し、各区間の配置を決める時期になるとチーム内にはピリピリとした雰囲気が漂うという。出走するメンバーに選ばれた選手は「失敗できない」というプレッシャーの中で駆ける。一度でもミスをすれば〝指定席〟から外れ、出走するチャンスから限りなく遠ざかるからだ。
そうした緊張感がいい結果を生み、出走した選手は自信を持つ。外れた選手は巻き返すために必死に練習する。そのサイクルの果てに、他校がうらやむような分厚い選手層が築かれた。
駒澤大の強さのベースとなる分厚い選手層は、4年生が中心になっている。主将の鈴木を軸に、ロードに強い赤星雄斗、安定感抜群の安原、ムードメーカーで信頼の厚い花尾恭輔、スピードが魅力の赤津勇進らだ。
鈴木が「最強の4年生」と語るように、ほかの4年生も他校であればレギュラークラスの選手ばかり。もちろん下級生にも、箱根の往路区間を任せられる選手がゴロゴロいる。仮に「駒澤大Bチーム」をつくり、箱根駅伝に挑戦したら......シード権を争うようなレースを見せてくれるのではないか。
では、元日のニューイヤー駅伝に出場する実業団チームと比べたらどうか。単純に1万mのベストタイム上位7人(ニューイヤー駅伝は7区間)で平均タイムを計算し、今季、東日本実業団駅伝で2位になったHondaの日本人選手たちと比較してみた。
Hondaはエースの伊藤達彦、MGC(マラソングランドチャンピオンシップ)優勝の小山直城、3000m障害の東京五輪代表・青木涼真らが所属する実業団屈指の強豪チームだ。
だが、駒澤大の選手たちと比較すると衝撃的な結果が出た。Hondaの日本人選手の中で、1万m上位7人の平均タイムは27分58秒74。一方の駒澤大は27分56秒77で、2秒ほど速かった。
あくまで数字上の計算であり、ニューイヤー駅伝には外国人選手がひとり出場できるため、実際にレースに出たとしたら展開は変わるだろう。それでも、実業団の中堅のチームであれば互角の戦いができるのではないか。それなら、学生チームが駒澤大と同じ土俵に立っても勝ち目はかなり薄い。
ただ、駅伝は何が起こるかわからない。前回大会は箱根駅伝の1ヵ月前に田澤がコロナに罹患(りかん)。佐藤も胃腸炎になり、体調を崩して3区に出走できなくなった。コロナやインフルエンザなどに感染するリスクはゼロではない。
また、出走中に何かしらのアクシデントでブレーキになる区間が出てくるかもしれない。そうならないようにコンディション調整には万全を期すだろうが、不確定な、事故的な要素はなかなか排除できない。駒澤大が危惧するのは、その点だけだろう。
主将の鈴木は、「昨年の最強の駒澤大を超えることを目指してやってきました。箱根でそれを完結させて、三冠を達成します」と、力強く語った。
また、藤田敦史監督は「まずは出雲を、次に全日本を全力で獲(と)りにいった。次は箱根になりますけど、そこもわれわれは負けるつもりはありません。全力で箱根を獲りにいって、三冠を達成したいと思います」と、自信満々の表情で意欲を語った。
第100回大会の箱根駅伝は、出場校23チームの勝負を見るというよりも、駒澤大の圧倒的な強さと、2年連続の三冠達成の歴史的な瞬間を見る記念大会になりそうだ。