あけましておめでとうございます。新春はやってきたけれど、球春の到来はまだ先のこと。2024年シーズンを「来シーズン」と呼ぶのか「今シーズン」と呼ぶのか、ほんの少しだけ迷う季節が今年もやってきました。

みなさんの今年の目標は何ですか? 新たな年を迎えると、何か新しいことを始めたくなるのが人間の常。私も「今年こそ毎日欠かさず日記をつける!」と意気込んだ1月1日が、果たして何度あったことか(笑)。今回はそんな「日記」にまつわるお話をしたいと思います。

『2020年10月1日(木)。横浜スタジアムでDeNA戦。2-0でヤクルト勝利。雨で中断あり。エスコバーファンプレー。清水昇素晴らしい』

『2020年10月30日(金)。巨人戦@東京ドーム。3-3で引き分け。巨人リーグ優勝。追いついて、追い越せず』

この日記は、毎年"三日坊主"で終わってしまう私ではなく、母が書いたものです。

お読みいただければ事理明白。最愛の母こそが、私をヤクルトファンとして育て上げてくれた言わば"第一人者"なのです。母は深い野球愛と鋭い観察眼で、私に野球の魅力を教えてくれました。

大のヤクルトファンである母は、自身の日記を毎晩開き、その日のヤクルトの試合結果とともに「ひと言」添えるのを習慣にしています。母の日記は日常を切り取るものではなく、もはや野球のことしか書いてありません。

2016年頃から欠かさず書くようになったという「ひと言ヤクルト日記」は、今年で9冊目。当初は、勝敗の白星・黒星と、その日の対戦相手、スコアくらいしか記録していませんでした。当時のヤクルトといえば、2018年こそリーグ2位だったものの、それ以外はほとんど下位に沈み、辛酸をなめるシーズンが続いていました。

ただ、長いシーズンですから、希望を持てる敗戦もあったのでしょう。「負けたけど、ここは良かったよね」を探すべく、徐々に試合の寸評が加えられていきました。

『2020年11月7日(土)巨人戦@東京ドーム。2-6で負け。村上宗隆は2打席連続HR。小川泰弘は岡本和真に2打席連続でHRを打たれ規定回数に1回満たず降板。一方、神宮ではドラ1の木澤尚文が登板。負けたが力強いピッチング』

この日は、1軍マウンドの小川泰弘投手の悔しいピッチングを嘆きつつ、神宮球場で行なわれた2軍の試合も欠かさずチェック。2軍戦での木澤尚文投手のピッチングに期待を抱いたようです。

『2020年10月10日(土)広島戦@マツダ。0-3で負け。森下暢仁くん打てず。初回ノーアウト満塁だったが......』

『2020年10月11日(日)広島戦@マツダ。4-7で負け。後半追い上げるも......。五十嵐亮太、引退発表』

『2020年10月13日(火)DeNA戦@神宮。1-8で負け。点取れず。元気なのは初回だけ。リリーフ長谷川宙輝くん5失点。いけんね......』

『2020年10月14日(水)DeNA戦@神宮。6-9で負け。8回裏に5得点も時すでに遅し。石川雅規さん7敗目』

『2020年11月5日(木)阪神戦@甲子園。7-8で負け。初回、2回で7得点も、追いつかれ、追いこされる。情けない試合展開』

2020年の日記を紹介してきましたが、なんてつらいシーズンだったんでしょう!「ここが良かった」を探すどころか、目を覆いたくなるような試合ばかり。「いけんね......」という母の故郷・島根県の松江の方言に、当時の切ない表情まで浮かんできます。

今年はどんな1年になるでしょうか。みなさまが大好きな野球を、心から楽しめる穏やかな日々を願っています。今年はどんな1年になるでしょうか。みなさまが大好きな野球を、心から楽しめる穏やかな日々を願っています。

読んでいると、悔しかった思いが蘇ってくるけれど、不思議と「こんなことあったね」と過ぎ去った日々が愛しくもなります。特に色濃く、当時の光景が思い起こされる日がありました。主に救援投手として活躍した右腕・歳内宏明投手についての日記です。

『2020年10月16日(金)。甲子園での阪神戦。0-5で負け。歳内、甲子園登板。2失点で降板。ベンチで長らく顔をタオルで覆う』

歳内投手は前年に阪神を戦力外になったのち、四国の独立リーグを経て、2020年の9月6日にヤクルトと契約。この日は古巣・阪神との対戦で、先発のマウンドに立ちました。つまりこの日の登板は、歳内投手がNPBに復帰後の初めての甲子園凱旋だったわけです。だからこそ歳内投手は、不甲斐ない結果(5回途中2失点)に悔しさを隠せなかったのでしょう。

母は、私がこの文章を読み上げると「ただ汗が目に入っただけかもしれないし、真実がどうかはわからないけど、あの時の光景をはっきりと思い出すなあ」と、しみじみ懐かしそうな顔をしていました。

歴史小説を読んでいると、意外と著者の主観が含まれていることがありますよね。歴史という事実をどう捉えるかは人それぞれだし、そこにどう肉付けしていくのか、どう筋書きを加えていくのかは、案外伝え手や受け取る側に委ねられています。

野球には「勝ち負け」という揺るぎない客観的事実がありますが、例えば同じ1敗でも、昨日の負けと今日の負けは違うはずです。試合を観ていても、視線を向けるポイントは百人百様ですし、その日の試合という歴史をどう切り取るのか、どう振り返るかは自由ですから、そこに野球の楽しみ方の奥深さがあるのかも。

母は厳しいシーズンを送っていたヤクルトに、少しでも光明を見出したかったのでしょう。100年後に、結果だけを見てもわからないようなささやかな希望を、日記に残していました。

今こうして読み返してみると、当時の悔しかった記憶が鮮明に蘇ります。胸が苦しくなったり、「こんなこともあったなあ」と懐かしくなったり。日記帳にはたくさんの感情が詰まっていて、それを開くたび、あの頃の気持ちに出会うことができるわけです。

2021年、22年と連覇を達成した時期の日記は、本人いわく「浮かれて書いていた」とか(笑)。これもまた数年後に読み返したら、面白いのかもしれませんね。

「そういえば、毎年この時期には何を書いているんだろう?」と疑問を抱いて、母の日記を見せてもらいました。

『次のドラ1候補に、宗山塁内野手をリストアップ』

2024年ドラフトで注目の、明治大のショートですが......いやいや、どこまで野球漬けなの(笑)。

あらためて、「私の野球愛はこの母から継いだものなのだ」と新年早々に実感するとともに、「野球って本当に素晴らしい」と母の日記が教えてくれたような気がしました。

今年も引き続き、お付き合いください。それではまた来週。

★山本萩子(やまもと・しゅうこ)
1996年10月2日生まれ、神奈川県出身。フリーキャスター。野球好き一家に育ち、気がつけば野球フリークに。
2019年から5年間、『ワースポ×MLB』(NHK BS1)のキャスターを務めた。愛猫の名前はバレンティン

★山本萩子の「6-4-3を待ちわびて」は、毎週金曜日朝更新!