J2勢で初めて天皇杯優勝とACL決勝トーナメント進出を成し遂げた甲府。快進撃はどこまで続くのか J2勢で初めて天皇杯優勝とACL決勝トーナメント進出を成し遂げた甲府。快進撃はどこまで続くのか

一昨年の天皇杯でジャイアントキリングを立て続けに起こし、J2勢として2チーム目の優勝を成し遂げたヴァンフォーレ甲府が、またしても歴史的快挙を果たした。

前年度の天皇杯王者として臨んだAFCチャンピオンズリーグ(ACL)のグループH最終節で、ブリーラム(タイ)とのアウェー戦に勝利し、グループ首位が確定。下馬評を覆し、2部リーグのクラブとしてはACL史上初となる決勝トーナメント進出を果たしたのである。

ACLといえば、昨年に浦和レッズが優勝した、アジアの頂点を決する権威ある国際大会。いわば、世界最高峰といわれるヨーロッパのチャンピオンズリーグのアジア版だ。当然ながら、各国1部リーグの強豪がしのぎを削るACLでベスト16に駒を進めることは簡単ではない。

例えば、近年のJリーグを席巻する川崎フロンターレは、直近5大会で4度出場して3度もグループステージ敗退を強いられている(今大会ではグループステージ突破)。そんな難度の高い国際大会で2部リーグに所属する地方クラブが成し遂げた今回の偉業は、まさに奇跡といえる。

そもそも、ここ6シーズンにわたってJ2で戦う甲府が、ACLのような国際大会に出場するのは初めての経験。参戦すること自体が、高いハードルだった。

特にフロントの頭を悩ませたのが財政面だ。ACL出場は確かに名誉なことだが、出場にかかる支出に対して収入が少なく、Jリーグが出場クラブに1億円のサポート費を支給するほど。それでも、旅費やホーム戦の運営費などはクラブの自腹ゆえ、財政的には大きな負担となる。

もちろんJ1クラブのような予算規模があれば、ACLの赤字を吸収し、年間収支を黒字化することもできるが、甲府の場合はそうはいかない。

今大会に出場する横浜F・マリノスの2022年度の売り上げは64億8100万円。同じく川崎は69億7900万円で、ディフェンディングチャンピオンの浦和に至っては81億2700万円もある一方、甲府の年間売り上げは15億6400万円しかない。

その上、ホームスタジアムである「JIT リサイクルインク スタジアム」はACLが規定する基準に満たず、ホーム戦の地元開催も断念。悩んだ末、運営費がよけいにかかることを覚悟して、東京の国立競技場をホームとしてACLを戦うことを選択するしかなかった。

こうなると、日頃から熱心に応援してくれる地元ファンも、平日の夜開催のACL観戦のために東京まで足を運んでくれる人は激減。つまり、ホーム戦の運営費がかさむ上、頼みのチケット収入も厳しくなる。

そこで、他クラブの飛行機移動はビジネスクラスが当たり前の中、甲府の選手はエコノミーでアウェー戦に出向くなどして経費を節約。とにかく、天皇杯優勝のご褒美であるはずのACL出場は、J2甲府にとっては、予想をはるかに上回る財政負担がのしかかっていたのである。

国立競技場でACLのホームゲームを戦うことになった甲府を、Jリーグの他チームのサポーターも会場に駆けつけて応援した 国立競技場でACLのホームゲームを戦うことになった甲府を、Jリーグの他チームのサポーターも会場に駆けつけて応援した

そんな中、甲府に希望の光が差し込むきっかけとなったのが、ACL開幕前にクラブが展開したキャンペーン告知だった。

国立競技場でのホーム戦の集客を少しでも増やすために、渋谷や新宿の人気スポットで「Jサポに告ぐ、#甲府にチカラを」と記した巨大ポスターを掲示。これが他クラブのサポーターの目にも留まり、瞬く間にSNSで拡散されたのである。

その効果もあり、当初クラブが2000~3000人と予想していたホーム戦最初のブリーラム・ユナイテッド戦(タイ)の有料入場者数は1万1802人を記録。

ゴール裏を埋めた甲府サポーターはもちろん、J1からJ3まで、日本全国のJクラブのユニフォームを着た他クラブのサポーター有志がスタンドの一角で声援を送るという、世界的にも極めてまれな光景が生まれたのだった。

温かいファンの「日本を代表してアジアで戦うJ2甲府をサポートしよう」という行動はその後も続き、続く浙江(中国)戦は1万2256人、ホーム戦最後のメルボルン(オーストラリア)戦では1万5877人と、入場者数は右肩上がりに。赤字覚悟で挑んだ甲府にとって、うれしい誤算となった。

その効果はピッチにも及んだ。J1昇格が最大の目標のJ2クラブにとって、海外遠征もあるACLをリーグ戦と並行して戦うことは、過密日程や選手層を考えても当初から大きな負担とみられていた。

昨季からチームを率いる地元・甲府出身の篠田善之監督も選手のやりくりに頭を悩ませ、レギュラー組を中心にリーグ戦を、サブ組を中心にACLを戦うというローテーション制を採用。ある意味、ACLは〝二の次〟とした。

ところが、甲府サポーターだけでなく、他クラブのサポーターの声援も受けていることを知った選手たちがACLで発奮。リーグ戦では見られないようなハイパフォーマンスを国立競技場で披露し、勝ち点を積み重ねたのである。

「チーム内に疲労感はない。出場する選手と出場できない選手それぞれが、高いモチベーションで戦っていて、いい流れができている」と話したのは、篠田監督だ。つまり、甲府が成し遂げた今回の快挙は、国立競技場とそこに集まったサポーター有志の影響力なくしてなしえなかったと言っていいだろう。

活躍中のMF長谷川元希(写真)をはじめ、主力選手が他チームに引き抜かれる可能性も。さらなる試練を乗り越えられるか 活躍中のMF長谷川元希(写真)をはじめ、主力選手が他チームに引き抜かれる可能性も。さらなる試練を乗り越えられるか

もっとも、Jリーグ開幕前の今年2月に予定されるラウンド16に挑む甲府には、新たな問題も待っている。昨年活躍した中軸の選手たちが、例年のようにJ1クラブに引き抜かれてしまう可能性が高いからだ。不確定要素の多いACLのためだけに補強費を増額するわけにもいかない。

やはり頼みの綱は、サポーターの力だ。国立競技場にこれまで以上のサポーターが集まれば、奇跡の再現も決して不可能ではないはずだ。