不動のボランチとしてジュビロ磐田の黄金期を支え、2006年開催のドイツワールドカップには、日本代表の中心メンバーとして出場。日本サッカーが世界水準へと飛躍していく瞬間をピッチの中央から見つめていた福西崇史が、サッカーを徹底的に深掘りする連載『フカボリ・シンドローム』。
第84回からは、新春特別企画として、一昨年現役を引退した日本が誇る天才レフティ・中村俊輔氏を迎えての対談「中村俊輔×福西崇史が語るアジアカップ」をお届けする。
第1回は、いよいよ開幕が迫る「AFC アジアカップ カタール2023」について。2004年中国大会の優勝メンバーである両者に今の日本代表の印象や、今大会の見どころを語り合ってもらった。
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■良い競争が高いモチベーションになっている
――「AFC アジアカップ カタール2023」がいよいよ1月12日(金)に開幕します。日本代表は直近で9連勝、絶好調な状態で大会本番を迎えますが、今の代表チームについてお二人はどんな印象をお持ちですか?
中村俊輔(以下、中村) カタールW杯が終わって、選手たちにとってはまた「ヨーイドン!」が始まった状態で、アピールの時期ですよね。今の代表は激しい競争があるし、森保監督もそこへの気配り、マネジメントというのは相当レベルが高いと思うから、すごく良い状態だと思います。
福西崇史(以下、福西) そうだね。勝手にでも競争意識が強くなっている状態だから本当にチーム自体も強い。それは今の日本の強みの一つだと思う。その中でどういう組み合わせがいいのかを試行錯誤している段階だよね。
中村 最近は親善試合が増えていて、しかも2試合やることも多いじゃないですか。その中でごっそりローテーションしているんで、みんなストレスを溜めずにアピールできているからうまくいっていると思うんですよ。初出場も多いし、誰にでもチャンスがある。
福西 あとベースができている部分もあると思う。スタートラインと言っても森保一監督は二期目だから。ベースがある上で「みんなチャンスがあるよ」という状態でモチベーションが高いよね。
中村 高いですよね。ただ、これが大会とかになって、メンバーが絞られ出すとまたちょっと違う空気になってくるかもしれない。そうなるとメンバーそれぞれの代表に対する気持ちみたいなものは動き出すと思いますね。例えば出られない選手が、組織の中で自分に何ができるかとか。そういうところにも注目したいです。
■チームを強化しつつ、優勝しなければいけない
――それでは今大会でお二人の注目したいポイントはどういうところでしょう?
福西 優勝は大前提。その中でFWとその周りの攻撃的なタレントがどのようにコンビネーションを構築していくか。そこは注目したいと思いますね。
中村 僕も同じですね。アジアカップは日本がボールを持てるから理想のサッカーができるけど、W杯になると勝ちにこだわってカタール大会のように堅守速攻みたいになる。そのギャップをどこかで埋める必要があるけど、今大会は選手の良さを出しつつ、優勝に持っていく。それをがむしゃらにというか、死に物狂いでやれる集団になるための大会だと思う。これが終わったらまたW杯のためにスタイルを追求する期間に当てればいいと思います。
――やはりアジアカップとW杯でやり方が極端に変わらざるを得ないというのは、日本の難しいところですよね。
福西 カタールW杯の中でもそうだったよね。ドイツとスペインに勝って、コスタリカになんで負けるのって普通は思う。でも難しいんだから。そういう戦いが本番でもあり得るんだったら、日本は今の環境を利用してチーム作りができると思う。
中村 だから森保監督が続けてくれてよかったと思います。カタールで感じたことをマネジメントしながら埋めていく作業が必要だから。これで監督が変わってしまうと、またリセットされて選手たちも新しい監督のやり方に慣れていかなくちゃいけない。
それが外国人の監督だとより難しくなる。だから森保監督が結果を出して続けてくれるのは、選手たちもやりやすいだろうし、世界との差を埋めるためにも大事なことだと思います。だからそこは見どころというか、良いレールの上に今乗っている状態ですよね。
福西 見どころでいうと、俺はボランチ視点で気にして見るし、シュンはより前目のところでどう崩すかとか、見る視点は違うと思う。
――中村さんは今の代表の攻撃陣をどう見ているんですか?
中村 4-2-3-1の中で伊東純也選手を右で使ったり、久保(建英)選手を真ん中とか右で使ったり、鎌田選手を中で使ったり。色々選択肢がある中で、本人たちも自分のプレーをしつつも、グループとして周りとうまく合わせて繋がれないと生き残れないと感じながらやっていると思います。その中で誰がどのポジションをやるのかというのは、いちファンとして楽しみにしています。
福西 その良い組み合わせ、良いバランスを見つける大会になると思う。
中村 それをやりつつ勝たなければいけないから、やっぱりアジアカップはめちゃくちゃ難しいですよね。
■代表としての価値をチームとしてどれだけ高められるか
――2004年の重慶大会で優勝されたお二人ですが、日本代表はここ2大会続けて優勝を逃していて、最後に勝ったのは2011年のカタール大会になります。そこで最後に、アジアカップを勝つために大事なことはなんだと思いますか?
福西 やっぱり先ほど言ったようにW杯予選とかもそうですけど、アジアの戦い方と、W杯本番の戦い方が全然違うこと。その違いはボールを持てるか、持てないか。それによって選手たちの仕事の比重が全然変わってくることですよね。
その中でアジアでは当たり前のように勝たなければいけないプレッシャーがあって、そこで良いパフォーマンスを発揮するというのは相当しんどいですよ。相手は格下になるので、メンタル的な部分が非常に大事な大会になりますね。
中村 自分たちの頃もヨーロッパでプレーする選手が多かったですけど、今はベンチも含めてほとんどが海外組じゃないですか。各々のチームでレベルの高いサッカーをしている中で、わざわざシーズン中に離脱して来ているわけですよね。だからこそ、代表というものの価値をどれだけチームとして高められるかが重要です。
もちろん各選手は、代表チームに忠誠心を持って来ているとは思うけど、そこにはポジション争いがあって、出場できない選手も出てくるわけです。そんな中で全員がモチベーションを保ち続けるのは非常に難しいことです。
――たしかに、呼んだにも関わらずあまり使われなかったりすると、「呼ぶ必要あったの?」という声が聞かれることもありますよね。
中村 そうですね。でも、こういう大きな大会こそ試合に出られない人の存在が本当に重要なんですよ。全員がどれだけチームの一員という意識を持って準備ができるかが。
2004年アジア杯の時はアツ(三浦淳寛)さんとか、マツ(松田直樹)さんとか、(藤田)俊哉さんがそうだったし、2010年W杯南アフリカ大会の自分もそうだった。
レギュラーから外れたり、難しい時期というのは絶対にあって、それでも歯を食いしばって演じてでもチームのためにタオルや水を持ってきたり、練習で相手役をやったりしなくてはいけないんです。
福西 みんな本気でやってくれていたよね。
中村 あれを見たらやっぱりこっちも本気で「やらなくちゃ」となるし、リスペストするんですよ。そうやって代表としての価値を高めて、チームとして作り上げられるか。それがW杯につながっていくと思うんですよね。
福西 ヨーロッパでプレーする選手が多いと、足並みを揃えるのだけでも難しいし、森保監督は毎回本当に苦労していると思う。それでも毎回呼んで、試合には出場機会を調整しながらなんとかチーム作りをしてきた。
でも大会となると、そこで一気にチームを作り上げられるから、監督が試したいこともそうだし、選手たちが息を合わせることもできる。そういう場にできる一方で、勝つのは当たり前。結果を求めながらチームとして底上げできる大会にしてほしいですね。
――優勝という結果を出しつつ、今大会を通じて代表チームがさらにどんな進化を遂げるのか。非常に楽しみな大会になりました。次回はお二人が優勝された2004年の重慶大会について伺いたいと思います。