前人未到のホームラン記録を期待される大谷翔平 前人未到のホームラン記録を期待される大谷翔平
ドジャース初年度となる今季は二刀流を封印し、打者に専念する大谷翔平。世界中から注目を集める"7億ドルの男"の次なる伝説は、前人未到のホームラン記録なのか!?

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■MVP経験者が並ぶ"超ドリーム打線"

スポーツ史上最高額10年総額7億ドル(約1015億円)でロサンゼルス・ドジャースに入団した大谷翔平。トミー・ジョン手術の影響により、打者専任で挑む2024年はいったいどんな成績を残すのだろうか?

恩師の栗山英樹氏が期待を込め、バリー・ボンズ(元ジャイアンツ)のメジャー記録(シーズン73本塁打)を更新する「74本」の成績予想を挙げたことが話題だが、実現の可能性は?

メジャー事情に詳しく、ダルビッシュ有や千賀滉大、藤浪晋太郎といった日本人メジャーリーガーの指導経験もある野球評論家、お股ニキ氏に解説していただこう。

そもそも、大谷は何番を打つことになりそうなのか? MVP経験者のムーキー・ベッツ(昨季打率.307、39本塁打)とフレディ・フリーマン(昨季打率.331、29本塁打)との関係性には注目だ。

「ベッツは全盛期の山田哲人(ヤクルト)のような存在で、俊足で一発もある万能選手。1番で決まりです。2番を大谷にするか、率も残せるフリーマンにするかは悩みどころ。王貞治と長嶋茂雄が相手や調子で打順を入れ替えていたように、臨機応変なスタイルがいいと思います」

ベッツ(左)、フリーマン(右)との「MVPトリオ」でホームラン量産なるか(写真/MLB公式X) ベッツ(左)、フリーマン(右)との「MVPトリオ」でホームラン量産なるか(写真/MLB公式X) この"MVPトリオ"はどんな相乗効果を生むのか?

「強打者ふたりが並ぶことはあっても3人はまれ。この1、2、3番はまさにドリーム打線で、相手投手としたらやりにくいですよね。ベッツの後ろであれば、大谷の足と打球角度なら併殺打も減り、率も残せるフリーマンと並ぶことで、大谷と勝負せざるをえない場面は増えます。ベッツが休養する日は『1番・大谷』ももちろん有効です」

また、WBCメキシコ代表ランディ・アロザレーナ(レイズ、昨季23本塁打)のドジャース加入も噂されている。実現したらどうなるのか?

「アロザレーナは勝負強いので3番か4番向き。彼が大谷の後ろを打てば、ますます大谷と勝負せざるをえない場面が増えます。勝ち方を知っている選手なので、世界一を目指すならば獲とりたいですね」

■両リーグでの本塁打王&MVPへ

昨季44発を放ってア・リーグ本塁打王に輝いた大谷だが、ナ・リーグに移ることで本塁打王争いはより激しさを増すという。

「昨季のナ・リーグ本塁打王は54本のマット・オルソン(ブレーブス)。大谷よりも10本多いです。彼に続くのが打率は2割未満ながら47本のカイル・シュワバー(フィリーズ)、そして、46本のピート・アロンソ(メッツ)」

また、警戒すべきなのは優勝争いでもライバルとなりそうなブレーブス勢だ。

「オルソン以外にも、ロナルド・アクーニャJr.(昨季41本)、マルセル・オズナ(昨季40本)、さらにオースティン・ライリー(昨季37本)が並ぶ打線は脅威です。ただ、ドジャースにもベッツ、マックス・マンシー(昨季36本)がいます。彼らは味方でもあり、タイトル争いではライバルでもあります」

まずはオルソンの54本塁打超えがひとつのハードルとなる。この点は出場試合数が大きく影響してきそうだ。

「昨季の大谷は野手として135試合出場で44本塁打。肘の影響が打者としてなければ、単純計算で25試合、100打席ほど増えるので、54本塁打は現実的な数字です。両リーグでの本塁打王となれば史上4人目の偉業となります」

では、"ボンズ超え"は可能なのか? ステロイド(筋肉増強剤)使用時代の数字はそもそも比較対象にすべきでない、という声もあるが、ステロイド以上に考慮すべき点があるという。

「大きな違いは投手力です。ボンズが73本を打った2001年と比べ、投手の平均レベルは間違いなく上がっています。以前なら、エース級から打てなくても、力量が落ちるローテーション下位の投手から本数を稼ぐことができました。しかし、今は投手の平均レベルが高いので、ボンズのように本塁打を量産するのは難しいですね」

となると、目指すべきは2022年にアーロン・ジャッジ(ヤンキース)が記録した62本超えになりそうだ。そのための課題はなんだろうか?

「打者としてもまだまだランクを上げられるはず。右投手と左投手で極端にスタンスを変えなくてもいいくらい、自然体のフォームをもっと突き詰めてほしいです」

さらに、本塁打を増やすためには"ジャッジ化"を目指すべきだと提言する。

「ジャッジは再現性の塊で、対する大谷は変幻自在なタイプ。ジャッジはひたすら打てる球を同じスイングで打って、同じようなアーチを量産するのに対し、大谷は月間15本塁打を放った昨年6月のように、打ち出すと止まらないものの、波もある。

本数を伸ばしたいならジャッジ的な再現性と安定性を高め、昨年6月のような状態を長くキープすることが大事です」

そしてもちろん、手術した右肘の状態がバッティングに影響しないことも大前提だ。

「昨季、肘を痛めてからの打撃はやや力が伝わらないような感じでした。また、投手としての復帰プログラムもこなしながらの試合出場は、一度経験しているとはいえ、普通ではないこと。簡単だとは思わないほうがいいです。総額7億ドルという重圧ものしかかると思います」

それでも、不可能を可能にしてきた大谷だからこそ、期待したくなるのは間違いない。 

「批判されながら新しいことに挑戦し、結果で証明してきた野球人生です。今年も重圧をはねのけ、もし両リーグMVP受賞となれば史上2人目の快挙。本塁打数以上に注目すべきポイントです」

「外野手・大谷」の構想もあるなど、新たな一面も楽しめそうな2024年。前代未聞の契約に見合う、前代未聞の活躍を期待したい。

オグマナオト

オグマナオトおぐま・なおと

1977年生まれ。福島県出身。雑誌『週刊プレイボーイ』『野球太郎』『昭和40年男』などにスポーツネタ、野球コラム、人物インタビューを寄稿。テレビ・ラジオのスポーツ番組で構成作家を務める。2022年5月『日本野球はいつも水島新司マンガが予言していた!』(ごま書房新社)を発売。

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