一時、「人的補償でソフトバンクから西武に移籍」と報じられたベテラン投手の和田。球団の功労者なだけに、ファンの間に衝撃が走った 一時、「人的補償でソフトバンクから西武に移籍」と報じられたベテラン投手の和田。球団の功労者なだけに、ファンの間に衝撃が走った

FA権を行使し、西武からソフトバンクに移籍した山川穂高の「人的補償」は、1月11日に甲斐野 央が移籍することで決着。しかし同日の一部報道では、ソフトバンクを長く支えてきた和田 毅の名前が挙がり、波紋を呼んだ。

FAで選手が抜ける球団は、移籍先の球団から選手をひとり獲得できるが、その対象にならないように28人の選手を選んだ非公開のプロテクトリストがある。そのため、「そこに和田が入っていないのか」「リストの情報が漏れている」という指摘や、「人的補償は必要なのか」という声も上がった。

この問題について、かつて大洋(現DeNA)などで活躍し、現在は野球解説者やYouTubeでも活動する高木 豊氏に聞いた。

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――今回の人的補償を巡る騒動について、率直な感想をお聞かせください。

高木 豊(以下、高木 不快感しかないですし、「どこかで情報が漏れているんだろう」という脇の甘さを感じました。事態が二転三転し、和田や甲斐野の心中は穏やかではないはず。プロテクトリストが秘密厳守なのは、選手にそういったショックを与えないためなのですが......。

移籍が決まった後の、甲斐野の「ホークスには本当にお世話になり、感謝しかありません」というコメントは立派でした。ただ、もし彼が不満を口にしていたら、より騒ぎになっていたと思いますよ。

――一部の報道のとおり、和田投手がプロテクトリストから外れていたとしたら、和田投手はどういった気持ちになるでしょうか。

高木 42歳という年齢を考えると、和田ならまだプレーできるかもしれませんが、一般的には現役生活もあと1、2年といったところ。

そう考えると、多少は「リストから外されるだろうな」と考えていたと思いますが、実際に外れていることを知ったら、「まさか自分が......」とショックを受けるでしょうね。人的補償という見返りを求めるこの仕組みは、そういう危険性をはらんでいます。

――人的補償という仕組みは必要だと思いますか?

高木 まったく必要ないと思います。FAは、それを行使した選手が所属する球団、他球団の評価も聞いた上で、最も高く評価してくれる球団に移籍する制度ですよね。それに対して、「放出する側の球団になんの見返りがいるんだ」という話ですよ。

その見返りを、現有戦力から出すのも疑問です。それなら、FAでAランクの選手(球団内の年俸が上位3位の日本人選手)を獲得した球団が、選手を放出した球団に対して翌年のドラフト1位の指名権を譲渡するとか、Bランクの選手(球団内の年俸が4~10位の日本人選手)の場合はドラフト2位の指名権を譲渡するとか......。

そのほうが公平性を保てるはず。なぜユニフォームを着て頑張ってきた選手が、ほかの選手の権利行使に巻き込まれないといけないのかと思います。

――人的補償制度が定められた理由は、FAで選手を放出したチームの一方的な戦力低下を防ぐため、というものです。これについては?

高木 戦力の偏りをなくすということであれば、ドラフトを完全ウェーバー制(最下位の球団から順に独占指名権が与えられる)でやらないと。なぜ、くじ引きで決められなきゃいけないのか。

それと、広島からオリックスにFA移籍した西川龍馬の人的補償で、ルーキーイヤーを終えたばかりの19歳の投手、日髙暖己(あつみ)が指名されました。

確かに素晴らしい素材ですが、1軍での実績はありません。それは、「一方的な戦力低下を防ぐ」という人的補償の趣旨とはかけ離れている。そういう観点からも人的補償はナンセンスです。

――人的補償では、実績のあるベテランや中堅の選手が選ばれる一方で、まだ実績がない若手が指名されるケースも見られます。日髙投手は後者ですが、それに対してはどう思いますか?

高木 広島が日髙のポテンシャルを買ったんでしょう。オリックスとしては、将来的に先発ローテーションを担うピッチャーとして考えていたはずですが、プロテクトできる選手はたったの28人。

それでは主力を含む1軍の試合に出ている選手たちを守るだけで精いっぱい。少なすぎます。オリックスだって将来有望な日髙を手放したくなかったはずですし......。やっぱり人的補償は必要ないんですよ。

――確かに、各方面から「制度を見直すべきだ」という声が上がっています。

高木 当然そうなるでしょう。前提として、秘密をつくってはいけません。特に今は、誰もがさまざまなことを調べられる時代ですし、スポーツは本来クリーンであるべきもの。

例えば、これまで球団間でやりとりをしていたプロテクトリストをNPBにも共有してもらうとか、とにかくファンが納得できるような透明性のある制度を作り、それを守れない場合の罰則もしっかり定めるべきだと思います。そうでなければ、今回の騒動のようにさまざまな臆測が飛び交うことになります。

また、先ほど「人的補償ではなく、FAで選手を放出した球団にドラフトの指名権を譲渡すればいい」という話をしましたが、ドラフトの指名権を渡したくないのであれば、その球団はFA権を行使した選手を獲らなければいいだけの話です。

――不起訴となったものの、女性への強制性交疑惑で議論を呼んだ山川選手の人的補償ということもあって、世間の目はよりシビアでした。

高木 約1年も球団に迷惑をかけ、働いていなかった選手がFA権を行使でき、十何億円の契約ができるという制度はおかしい。不起訴ということを考えれば、「そこまでの処罰が必要なのか?」という声もあるかもしれませんが、メジャーの場合はそういう問題に対してすごく厳しいじゃないですか。

今回の騒動も、山川のFAが伏線になっているわけですが、人的補償も含め、いろいろな問題が置き去りになっています。

日本の野球界は面倒がらずに、そうした問題に向き合ってしっかりとしたルールを定めて、透明性の確保に尽力するべきです。そうでなければ、また同じような問題が起きると思いますよ。