2戦目のイラクに敗れた後のピッチに選手を集め、必死の形相で言葉をかける森保監督(中央)。日本は3大会ぶり5度目の優勝が有力視されていたが、暗雲が垂れ込めている 2戦目のイラクに敗れた後のピッチに選手を集め、必死の形相で言葉をかける森保監督(中央)。日本は3大会ぶり5度目の優勝が有力視されていたが、暗雲が垂れ込めている

どうした、森保ジャパン! 「史上最強」の前評判も、アジア杯(カタール)のグループリーグで大苦戦。いよいよ決勝トーナメントの戦いが始まるが、3大会ぶりの優勝、そして、次のW杯でのベスト8以上を目指すためにクリアすべき課題とは!?

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■経験不足が露呈した「正GK問題」

カタールで開催中のアジア杯で、森保ジャパンが予想外の苦戦を強いられている。

アジア杯とは、日本が過去4度も優勝トロフィーを掲げた〝アジア王者決定戦〟。今大会も、戦前の予想では日本が断トツの優勝候補だった。

昨年の6月以降、敵地でドイツを下すなど国際Aマッチ9連勝で本番に臨んだ森保ジャパンは、FIFAランキング(2023年12月21日発表)でも目下アジアトップの17位。21位のイラン、23位の韓国、25位のオーストラリアといったアジアのライバルたちを上回っている。

しかも、11年大会以来の優勝を目指す森保一監督は、26人のメンバー登録枠のうち、欧州クラブ所属の選手を21人招集した。

今冬に移籍の可能性を残している一部の選手を除く、現状のベストメンバーを編成。決勝トーナメント以降の戦いを見据え、大会前に負傷を抱えていた三笘 薫(ブライトン/イングランド)、久保建英(レアル・ソシエダ/スペイン)、冨安健洋(アーセナル/イングランド)といった主力もメンバーに加えた。

まさに「死角なし」の態勢でカタールに乗り込んだが、グループリーグで予想外の展開が待っていた。初戦のベトナム(世界ランキング94位)戦は、最終的に4-2で勝利したものの、セットプレーからあっさり2ゴールを決められて一時はリードを許す〝らしくない〟試合運びに。

続くイラク(世界ランキング63位)戦では、1-2でまさかの敗戦。開始から相手の勢いにのまれて足をすくわれ、グループ首位通過の可能性が消滅する事態に陥った。

日本がチームを立て直し、最後に優勝トロフィーを勝ち取る可能性はある。しかし、森保ジャパンが掲げている最大の目標は、「26年のW杯でベスト8以上の成績を残すこと」。それを考えると、この2試合で見えた課題をあぶり出しておく必要がある。

不安定な守備を見せたGKの鈴木(右)。控えの前川、野澤も含めて国際大会の経験が乏しく、正GK問題の解決には時間がかかりそうだ 不安定な守備を見せたGKの鈴木(右)。控えの前川、野澤も含めて国際大会の経験が乏しく、正GK問題の解決には時間がかかりそうだ

森保監督にとっての最大の誤算は、2試合で4失点を喫した不安定なディフェンスだろう。中でも、正GKに抜擢された鈴木彩艶が経験不足を露呈。プレー選択の判断が甘く、自らはじいたボールが相手に渡り、失点に直結するミスを2試合連続で犯した。

その鈴木は、将来を嘱望される身体能力の高い若手GKで、今夏のパリ五輪の主軸と目される素材だ。まだ21歳ながら、現在はベルギーのシント=トロイデンで正GKを務めるなど実力は申し分ない。だからこそ森保監督は、パリ五輪も視野に入れて今大会の正GKに指名した。

ただ、代表キャップ数が1桁(大会前までに4試合)の若手にとって、優勝がノルマの国際大会は荷が重かった。

しかも、今大会に招集されたほかのGKは、代表キャップ1の前川黛也(ヴィッセル神戸)と、代表での出場経験がない野澤大志ブランドン(FC東京)という国内組2人。鈴木以上に経験がないだけに、大会中に正GKを代えるにしても、イチかバチかの賭けになってしまう。決勝トーナメントは鈴木の奮起に期待するしかない。彼が巻き返しのキーマンになる。

カタールW杯以降の日本代表GKは、負傷のため今大会に招集できなかったサンフレッチェ広島の大迫敬介、この冬にベルギーのヘントに移籍したばかりのシュミット・ダニエル、あるいはポルティモネンセ(ポルトガル)でプレーする中村航輔らで争ってきた。

だが、いずれも決め手を欠いたため、そこに将来性のある鈴木が割って入ってきたというのが実情だ。そういう意味でも、今大会であらためて浮き彫りになった「正GK問題」は、喫緊の課題としてとらえるべきだろう。

■日本の強みを生かす「ワントップ」が不在

GK同様、選手層に不安を抱えているのがストライカーだ。森保ジャパンの基本布陣で言うならば、「ワントップ」でプレーする人材である。

今回、森保監督がワントップでプレーする戦力として招集したのは、前田大然(セルティック/スコットランド)、上田綺世(フェイエノールト/オランダ)、浅野拓磨(ボーフム/ドイツ)というカタールW杯メンバーと、パリ五輪世代の細谷真大(柏レイソル)の合計4人。

セルティックの古橋亨梧も有力候補だったが、なかなか代表で結果を残せず、アジアカップのメンバーからは外れた。

ワントップにはカタールW杯組の前田(左)、上田(右)らが起用されているが、日本の強みである2列目の選手たちの力を引き出すような選手はまだ見当たらない ワントップにはカタールW杯組の前田(左)、上田(右)らが起用されているが、日本の強みである2列目の選手たちの力を引き出すような選手はまだ見当たらない

そんな中、まずベトナム戦で先発した細谷が期待されたようなパフォーマンスを見せられず、後半から上田を起用すると、ダメ押しの4点目をマーク。しかし続くイラク戦では、やはりスタメンを飾った浅野が持ち味を出せないまま後半に上田と交代し、上田もいいところがなく不発に終わった。

前田はイラク戦の後半途中から左ウイングでプレーしたが、こちらもチャンスの場面で決められず。4人とも決定力を欠き、第1次森保ジャパン時代の大迫勇也(ヴィッセル神戸)のような〝不動のワントップ〟が存在しない状態が続いている。

対照的に森保ジャパンの強みは、人材が豊富な4-2-3-1の「3」にあたる2列目だ。現代表の切り札的存在となっている伊東純也(スタッド・ランス/フランス)を筆頭に、三笘、久保、南野拓実(モナコ/フランス)、堂安 律(フライブルク/ドイツ)、そして代表5試合連続ゴールも記録した左ウイングの中村敬斗(スタッド・ランス)ら、クオリティの高い選手がひしめいている。

要するに、ワントップのレギュラーに定着するためには、「誰が出場しても遜色のない、2列目のタレントたちとのコンビネーション」が最大のカギとなるということだ。

しかしながら、組み合わせという部分において、まだワントップの最適解は見つかっていない。とりわけ2列目の選手たちが前を向いてプレーする状況を演出するためには、最前線で起点となってボールを収める能力が絶対的に必要だが、今回招集された4人は相手DFラインの背後を狙うプレーを得意とし、かつての大迫のようなポストプレーは習得できていない。

今回のアジア杯優勝はもちろん、次のW杯を見据えても、このワントップ問題が今後の課題として残されることは間違いない。森保監督としては、アジア杯期間中に最も攻撃が機能する組み合わせを見つけ、解決策につながる感触だけでも得ておきたいところだ。

■目標達成に必要なローテーション起用

W杯でベスト8以上の成績を狙うために、今大会でもうひとつ実験しておくべき課題もある。それは、「多くの選手に出場機会を与え、途中でチームが息切れすることがないように決勝戦まで勝ち上がる」というミッションだ。

前回のアジア杯(19年)では、森保監督はレギュラーを固定して決勝まで辿り着いたが、最後の最後でカタールに敗れて準優勝に終わった。選手たちに疲労が残ったまま決勝を戦ったことも敗因のひとつとしてささやかれた。

また、出場枠が32ヵ国から48ヵ国に拡大された次回のW杯では、グループリーグを勝ち上がった後、ベスト32から決勝トーナメントがスタートする。

これまでは決勝トーナメント1回戦(ラウンド16)に勝利すればベスト8に進出できたが、次大会からはグループリーグを勝ち上がった後に2試合勝たなければ、目標の準々決勝に辿り着くことができなくなった。

5試合連続得点中だった中村はイラク戦で出番なし。出場国、試合数も増える次回のW杯を、疲労をためずに勝ち抜く起用法も確立したい 5試合連続得点中だった中村はイラク戦で出番なし。出場国、試合数も増える次回のW杯を、疲労をためずに勝ち抜く起用法も確立したい

W杯ベスト16の壁を突き破れずにいる日本は、これまではレギュラーと控えを明確に分けて戦っていたため、どうしてもレギュラー組に疲労が残ってしまい、決勝トーナメントで息切れしてしまう傾向があった。

今回のアジア杯に向け、森保監督も自身のチャレンジ項目として「選手のローテーション起用」を公言し、実際にグループステージではそうした采配を見せた。そして、決勝トーナメントでも引き続き有言実行と勝利の両方が求められる。

果たして森保監督は、今回のアジア杯でこの3つの課題を克服するきっかけをつかめるのか。決勝トーナメントの戦いぶりに注目だ。