ボクシング転向3戦目の那須川天心（左）は、積極的な攻めで試合を最後まで支配。3ラウンド終了後にロブレスが棄権し、TKO勝ちを収めた
「マジで!?」
突然の試合終了に、那須川天心（帝拳）はリング上で驚きの表情を浮かべた。1月23日に行なわれた、キックボクシングからボクシングに転向した天心の3戦目は、3ラウンド終了後、対戦相手のルイス・ロブレス（メキシコ）の棄権によって決着。転向後初のKO（TKO）勝利を思わぬ形で手にした。
試合は天心が持ち前のスピードで圧倒し、右のジャブや左のボディブローを効果的にヒットさせていたが、進化したポイントはどこなのか。現役時代にKOの山を築いた元WBA世界スーパーフェザー級スーパー王者、〝ノックアウト・ダイナマイト〟内山高志氏に聞いた。
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――今回の天心選手の戦いぶりをどう見ていましたか？
「過去2戦に比べて内容も良かったですし、今回が最も大きな進化が見られた試合だと思います」
――具体的に進化したポイントはどこですか？
「重心が低くなりましたね。フットワークを減らしてどっしり構えて、一発一発のパンチに力強さを感じました。
特に右のジャブが良く、リズム良くジャブを突いてプレスをかけていた。積極的にジャブを出すことで見合っている時間がなくなり、相手に休む暇を与えませんでした。タイミング、距離感も素晴らしかったです」
――加えて、左のボディブローも印象的でした。
「うまかったですね。右のジャブを伸ばした後に左のボディ。ロブレスはまったく反応できなかったですし、効いていました。左ボディが入るから、相手は下に意識がいく。そうなると上のパンチも入るようになる。パンチの散らし方も良かったですね」
――結果は相手の棄権による3ラウンドTKO勝利となりましたが、普通にKOできそうな予感もありましたね。
「あのまま続けていたら4、5ラウンドでKOしていたかもしれません。ロブレスは右足首のケガによる棄権とのことですが、気持ちが折れたように見えました。天心が試合を支配していた上にダメージも与えていましたから」
――一方で、フットワークをあまり使わなかった影響は？
「今までの天心は打った後に、サイドステップやバックステップで相手のパンチが届かない距離まで外していました。だから追撃する際に、もう一度ステップインする必要があった。それは安全ではありますが、相手にディフェンスする時間を与えることにもなります。
しかし今回は、最短距離で外したり、スウェー（上体を後ろに反らしてパンチをかわす技術）やブロッキングでディフェンスしていました。防御に重きを置いた戦い方から、オフェンス重視へと変わった感じがします。
距離が近くなれば、もちろん被弾リスクは高まりますが、自分のパンチのリターンも早くなります。もともと天心は反応が速くて目もいいので、近い距離でもパンチをもらいません。紙一重でかわして攻撃に転じることができるので、今後も同じような戦い方をしていけば、KO勝利も増えていくと思います」
ノックアウトシーンは見られなかったが、転向3戦目で初のKO（TKO）勝ち。試合前に宣言した「KOする詐欺はしない」を有言実行した
――今回の試合でも、相手のパンチをまったくもらっていませんでしたね。
「体の使い方がうまいんですよ。自分がイメージしたとおりに体を操っている感じ。相手が打とうとしたときに危険な位置にいない、あるいは瞬時に外すことができる。これは天性のものもありますし、キックボクシング時代からの経験値も大きいと思います」
――天心選手は練習でシャドーをする際に、動きのイメージを徹底して反復練習しているそうですね。
「それは、僕が現役のときもそうでした。常に試合を想定して動く。拳もしっかり握って全力でやっていましたから、シャドーが終わると1㎏くらい体重が落ちていました。シャドーをアップでやる選手もいますから、どちらが正しいということではありませんが、イメージして練習することは大事だと思います」
――内山さんは2021年12月公開の自身のYouTubeチャンネル『内山高志KOチャンネル』で、天心選手のミット打ちを経験していますね。マススパーリングもやっていましたが、その頃と印象は変わりましたか？
「やはりあのときは、足を使って動くほうに比重を置いていた気がします。すでにうまさはありましたが、『相手に与える怖さ、圧力はこれからかな』という印象でした。今回の試合で、それが出てきたと思いますね」
――内山さんは以前から「KOにこだわる必要はない」とおっしゃっていますが、天心選手がよりKO勝利を目指すなら、どこがポイントになりますか？
「『パンチをまとめること』ですね。相手が効いてきたところで一気に畳みかける。世界戦になると最長12ラウンドを戦うことになりますが、軽く打って離れるという戦い方だとKOにつながりにくい。
確実にダメージを与えるという点だけでなく、『ヤマ場をつくる』という意味でも、ここぞというときにはパンチをまとめることが大事です」
――階級をスーパーバンタム級からバンタム級に落とすことについては？
「骨格からして、バンタム級のほうがマッチしそうですね。ここまでの3戦の相手は全員がバンタム級の選手でしたから、階級転向を見越してのマッチメイクもあったと思います。技術も体つきも、ボクシングにアジャストしてきたということでしょう」
――あらためて、転向3戦目を終えた時点のプロボクサー・那須川天心の印象は？
「順調な成長曲線を描いていると思います。今後、主戦場とするバンタム級はタレントがそろっていますからね。天心が入ることによってまた面白くなるでしょう。個人的には、同じくキックボクシングから転向した武居由樹（8戦全勝8KO）との試合も見てみたいです」