オグマナオトおぐま・なおと
1977年生まれ。福島県出身。雑誌『週刊プレイボーイ』『野球太郎』『昭和40年男』などにスポーツネタ、野球コラム、人物インタビューを寄稿。テレビ・ラジオのスポーツ番組で構成作家を務める。2022年5月『日本野球はいつも水島新司マンガが予言していた!』(ごま書房新社)を発売。
2月、12球団一斉に春季キャンプが始まり、プロ野球の新たな一年がスタート! 昨季を盛り上げた関西2球団は今季も強いのか? 追いかけるのは盟主復権に燃える伝統球団なのか? 12球団の最新情報をもとに徹底分析する。
ついに始まったプロ野球春季キャンプ。例年以上にストーブリーグが盛り上がったオフを経て、今年はどんなシーズンになりそうか? 本誌おなじみの野球評論家・お股ニキ氏に、昨季との戦力比較、現時点での各球団の期待度を考察してもらおう。
まずは優勝争いについて。セ・リーグもパ・リーグも、優勝候補大本命と対抗馬が同じ構図になりそうだ。
「キャンプ、オープン戦を見ずに予想を立てることは難しいですが、普通に考えれば、昨季独走でリーグ優勝した阪神とオリックスが今年も優勝候補の本命です。この関西2球団に対抗するのが、数年前まで『球界の盟主』だった巨人とソフトバンク。共に復権を目指すシーズンになりそうです」
巨人とソフトバンクはさまざまな点で共通項が多い。
「阿部慎之助と小久保裕紀という、かつての主将&主砲を新監督に抜擢(ばってき)。そして、野手の顔ぶれはそろっているものの、ベテランが多い点。投手陣に課題が多い点も一緒です」
その新監督ふたりの評判も、現段階では似た傾向にある。
「ふたりとも厳しい姿勢を打ち出しているため、一部ファンから叩かれています。でも、どんな野球をするかは実戦で見なければわからない。
昔ながらの厳しさや感覚と、現代の理論が融合するかもしれない。阿部監督は現役時代の優れた野球観を、監督としても発揮するのでは。どのような野球を志向するのか、まずはキャンプ、オープン戦を見ていきたいですね」
では、セ・リーグから各球団の今季の特徴を見ていこう。
●阪神
「オフは目立った補強はありませんでしたが、流出もなく、戦力は現状維持。昨季後半に活躍した森下翔太が春先から同じ打棒ならば、戦力的にプラスです」
なんといっても、12球団一の盤石投手陣が最大の武器だ。
「昨季ブレイクの大竹耕太郎が同様の成績を残せるか。先発陣で誰かしら調子を落としても、その代わりに昨季序盤で不調だった西勇輝と青柳晃洋が再起すれば2桁以上勝つ力はある。髙橋遥人も復帰するはず。
救援陣も湯浅京己(あつき)が一昨年くらい投げることができれば、岩崎優(すぐる)の状態が仮に悪くてもマイナス分を補えます」
では、昨季、メンバー固定が話題になった野手陣は?
「戦力面で大幅な上積みがないからこそ、主力がケガをせずに状態を維持できるか。万が一、1~5番の誰かが長期離脱すると苦しい。昨季も近本光司が死球負傷で1ヵ月近く抜けて苦労しましたが、近本以上に代えが利かないのは中野拓夢。次が木浪聖也。この二遊間が阪神の生命線です」
●広島
「昨季の広島は得失点差がマイナスなのに2位だった。これは新井貴浩監督と藤井彰人ヘッドコーチの手腕が大きい。だからこそ、FAで西川龍馬が抜けたのが惜しい。西川が抜けなければ、阪神、巨人と争う力はあったと思います」
●DeNA
「バウアー次第です。もし再契約できれば、マイナスはメジャー移籍の今永昇太だけになる。戦力外から獲得した中川颯(はやて)、森唯斗、堀岡隼人らが働いてくれれば、今永の穴は完全にふさげなくても、Aクラス争いには踏みとどまれる。ただ、守備が良くならないと厳しいとは思います」
●巨人
「課題は明白で、走塁と救援陣。野手の主力は走れない選手が多く、リリーフは運用の悪さもあって機能不全に陥りました。戸郷翔征や昨季後半戦の防御率が1点台だった赤星優志(ゆうじ)らの先発は頑張っただけにもったいないです」
実際、救援防御率はリーグ最下位。本来抑えの大勢をはじめ、故障者も多かった。
「このオフは現役ドラフトで馬場皐輔(こうすけ)、トレードで泉圭輔と高橋礼、近藤大亮(たいすけ)を獲得。さらに、ストレートで勝負できる救援タイプがいなかったため、阪神の抑えも務めたケラーを獲得しました。これで昨季復活の中川皓太、昨季ケガに苦しんだ大勢がまともに投げられれば、懸念の救援陣も充実します」
●ヤクルト
「村上宗隆は昨季、大谷翔平を目の当たりにしてショックを受けた。それでも31本塁打はさすが。WBCもない今季は自分としっかり向き合い、昨季以上に打つのでは」
その村上以上のキーマンが、昨季ケガで51試合出場にとどまった塩見泰隆だ。
「塩見の負担軽減のためにも、センターからレフトにコンバートするのもひとつの案です。塩見、村上といった主力打者がしっかり打てば、上位進出もありうる球団です」
●中日
「ビシエドの外野起用が物議を醸しているようですが、実際、長打力を上げないことには話にならない。中田翔との併用を考えれば、おかしい話ではないと思います」
その上で、頼みの綱はやはり投手力となる。
「中継ぎ陣は充実している上に、2年目の松山晋也はかなりいい。あとは大野雄大が戻ってくれば先発の駒はそろうので、相手からすればやりにくいチームになるでしょう」
チーム成績とは別に、セ・リーグ勢で活躍を期待したい選手、ブレイク候補は誰か?
「阪神の19歳、門別啓人には岡田彰布監督も期待しているようです。岡田監督は昨季も村上頌樹(しょうき)と石井大智がいいと開幕前から公言して、実際にふたりとも活躍。その目利き力も含めて注目の逸材です」
同じ19歳で、オリックスからFAの人的補償で広島に移籍した日髙暖己(あつみ)にも注目する。
「次から次に投手が出てくるオリックスで、次のブレイク候補と思っていたのが日髙。台湾でのウインターリーグでもいい投球をしていました」
広島ではもうひとり、3年目の末包昇大(すえかね・しょうた)が注目株だ。
「広島は伝統的に左打者を育てるのがうまい半面、右打者がなかなか出てこない。そんな中、鈴木誠也以来の右の大砲候補です。20本塁打くらい打ってくれるとチームの順位にも影響しそうです」
将来のメジャー移籍もにらみ、さらなる爆発を期待したいのが巨人・岡本和真と阪神・佐藤輝明の両主砲だ。
「佐藤は昨季前半戦は打率2割台前半と苦しみましたが、8月、9月は3割台と上り調子に。このオフは大谷翔平も通ったアメリカの『ドライブライン』で自主トレを積み、その成果が楽しみ。岡本もメジャーでやれる力はあります」
ベテランでは巨人の顔、坂本勇人と菅野智之に注目する。
「坂本はサードを守ることで打撃に専念できる。昨季中盤以降の打ち方は本当に良く、30本以上打つ可能性もある。菅野は昨季後半に155キロを計測。一部でリリーフ転向説も出ましたが、もってのほか。まだ先発で2桁勝てることを証明してほしいです」
続いて、パ・リーグ勢の今季の特徴を見ていこう。
●オリックス
昨季15.5ゲーム差の独走優勝も、今季は3年連続沢村賞で、3連覇に貢献した山本由伸が抜けてしまった。
「164イニング、16勝の由伸だけでなく、130.1イニング、11勝の山﨑福也(さちや)も流出。勝ち星以上にこの約300イニングの穴埋めが大変。西川龍馬獲得のプラスがあるといっても、戦力ダウンは否めない」
過去には前田健太が抜けた翌年に優勝した広島、ダルビッシュ有が抜けた翌年に優勝した日本ハムなど、大エースが抜けても優勝したケースはある。だが、今回のオリックスは左右の二枚看板が抜けるという大流出だ。
「新たな左右の主軸は宮城大弥と山下舜平大。特に山下は素晴らしい才能を秘めています。ただ、ふたりとも昨季も活躍しているので穴埋めにはならない。中嶋聡監督が管理してきた投手陣の連続性が問われるシーズンです」
そこで、お股ニキ氏は今季の台頭を期待する3人の投手を挙げてくれた。
「まずは高卒2年目の齋藤響介。由伸が『響ちゃん』と呼んでかわいがり、後継者に指名した投手です。由伸同様に上背はないものの、セット時に球速が落ちず、変化球もいいものを持っています」
続けて名前を挙げたのは、2年目の曽谷(そたに)龍平と3年目の椋木(むくのき)蓮のドラ1コンビだ。
「曽谷はボリュームのある左腕。椋木は1年目にトミー・ジョン手術を受けて復活を期すシーズン。手術前のデビュー2戦目で9回2死までノーヒットピッチングをした逸材です。齋藤とこのふたりで300イニング投げてほしいです」
●ロッテ
「昨季も、戦力以上に戦術で勝っていたチーム。ソフトバンクが100ある潜在能力のうち80くらいしか生かし切れていないのに対して、ロッテは85ある戦力のうち82~84くらい出し切っている感覚です。今季もソトが加入したとはいえ、吉井理人監督の投手運用を軸に、いかに持っている力を出し切るかが重要です」
そのためには、佐々木朗希のフル回転が必須になる。
「潜在能力はプロ野球史上でも断トツ。あとはケガをしないかどうか。契約問題によるマイナスイメージを払拭するためにも、規定投球回数に到達してほしい。そうすれば、おのずと投手成績は軒並み1位になると思います」
●ソフトバンク
「昨季は千賀滉大の穴を埋められず、先発防御率が楽天に次ぐワースト2位。問題はオリックスと違い、若手が思うように伸びていないこと。だから、モイネロを前で使いたいようですが、有原航平、石川柊太、東浜巨(なお)、大関友久ら実績組に2桁勝ってもらわないと厳しい」
お股ニキ氏が期待するのは、3年ぶりに復帰する倉野信次投手コーチの存在だ。
「倉野コーチが退団してからチーム防御率が徐々に悪化。メジャーで学んだ最新理論と、日本の昔からの伝統や長所を融合した投手運営を期待したい。野手は山川穂高、ウォーカーを獲得しただけに、倉野コーチも先発をどうにかできれば優勝できるもくろみだと思います」
●楽天
「先発陣をいかに強化するか。期待値ほど伸びていない早川隆久、藤平尚真、2年目の荘司康誠らの奮起に期待したいです」
新たにクローザーを務める則本昂大はどうみるか?
「優秀なローテ投手ではあったので、配置転換は賛否両論あります。今江敏晃新監督の手腕は未知数ですが、楽しみに見たいと思います」
●西武
「髙橋光成(こうな)、今井達也、平良海馬の先発3本柱は魅力的で、阪神並みに先発6番手争いが熾烈(しれつ)。中継ぎ陣も豊富で、中継ぎローテも組めそうな陣容です。それなのに、ドラフトでも投手中心に補強し、FAの人的補償で甲斐野央(ひろし)も獲った。これほどまでに投手偏重の編成がどう転ぶか」
内野手でメジャー通算114本塁打のアギーラを獲得したものの、問題は手薄すぎる外野手だという。
「内野の主力だったマキノンに加えて、外野の愛斗も流出。宮川哲とトレードでヤクルトから元山飛優を獲得したのに続き、豊富な投手陣を元手にトレードを仕掛けたほうがいいと思います」
●日本ハム
「山﨑福也、バーヘイゲンを獲得したものの、上沢直之とポンセが抜けたことを考えるとプラマイゼロ。それでもポテンシャルのある若手投手が多く、どれだけ成熟できるか」
同様に、野手と監督にも「成熟」を期待したいという。
「野手が育ってきているとはいえ、三振が多く、守備も悪い。若手がいかに研ぎ澄まされて洗練されていくか。新庄剛志監督もいかに奇をてらわずに普通の采配ができるか。ひとまずの目標はAクラス。長い目で見れば数年後に全盛期が来るかもしれません」
最後にパ・リーグで今季の活躍を期待したい選手やブレイク候補を見ていこう。野手ではソフトバンクの3年目、野村勇に注目したいという。
「"ポスト今宮健太"を考えなければいけない現状で、能力を生かし切れていないのが野村です。1年目に10本塁打を放った逸材なのに三振が多く、引っ張りすぎを懸念されて2年目は出番が半減。
でも、小久保監督だって現役時代は引っ張りタイプの打者でした。多少の粗さは大目に見て、ポテンシャルの高い選手の良さを引き出してほしいです」
投手では、前述したオリックスの齋藤、曽谷、椋木に加え、西武の191㎝左腕・羽田慎之介、173㎝右腕で昨季育成から支配下登録された豆田泰志の凸凹コンビに注目する。
「羽田は手足が長く、"和製ランディ・ジョンソン"にもなれる逸材。あとは変化球が良くなるかどうか。豆田は昨季、打者62人に対して被安打8、防御率0.59。地味だけどいい投手です」
3年連続で山本由伸が独占していた投手タイトルを狙うのは、西武の髙橋光成だ。
「髙橋は今季、ストレートの握りから見直すなど、かなり意識的に取り組んでいます。佐々木朗希が万全かどうかにもよりますが、髙橋本人も『圧倒的な成績を出してメジャーに行きたい』と公言しているので楽しみです」
まだまだキャンプはここからが本番。今季はどんなシーズンになるのか。思いを巡らせながら球春を追いかけたい。
1977年生まれ。福島県出身。雑誌『週刊プレイボーイ』『野球太郎』『昭和40年男』などにスポーツネタ、野球コラム、人物インタビューを寄稿。テレビ・ラジオのスポーツ番組で構成作家を務める。2022年5月『日本野球はいつも水島新司マンガが予言していた!』(ごま書房新社)を発売。