最初にお知らせです。この連載がなんと100回を迎えました。パチパチ。記念日っていいですよね。誕生日に結婚記念日......。人生ってどんどん記念すべき日が増えていきます。生きていくって歴史を重ねるということなんですよね。ということで今回は、メモリアルな記録についてお話しさせてください。
先日に知人と、東京ドームにある「野球殿堂博物館」の話をしました。日本でも有数の規模を誇る博物館で、WBC優勝を記念したトロフィーや、大谷翔平選手(ロサンゼルス・ドジャース)が実際に着用したスパイクなどを目の前で見ることができます。その中で私が特に感動したのは、歴代の有名選手・関係者たちの偉業をたたえる展示でした。
以前、私がお邪魔したのは、野球観戦のついでだったと思います。それまで存在は知っていたものの、初めて行った時は本当に感動しました。過去の記録は昔の話かと思いきや、刻まれた数字を見ていたら、ペナントレースの延長にあると気がついたからです。我らがヤクルトの村上宗隆選手が日本選手シーズン最多本塁打記録(56本)を達成した際のグッズも展示されており、応援する球団の選手の足跡があることに胸が熱くなったのでした。
野球に関する記念館は、規模を問わないのであれば日米問わずいたるところに存在します。取材でお邪魔したMLBのシアトル・マリナーズの本拠地にも記念施設はありました。
その中に、特別な空間があったんです。取材ということで特別に入室を許可された小さな部屋は、マリナーズで大活躍した"レジェンド"イチローさんの展示室でした。セーフコ・フィールド内の会議室を改装した部屋の壁には、引退時のコメントが一面に書かれたスポーツ新聞などが貼られています。真ん中の机はガラス張りになっていて、バットやスパイクが置いてありました。
私は無神論者ですが、この部屋に入った瞬間、特別な空気を感じました。古くからある神社を訪れた時のような、背筋が伸びる感じがしたんです。あの部屋は、マリナーズにとってイチローさんがいかに偉大な選手であったのかを教えてくれました。
野球は記録のスポーツです。だからこそ、過去の記録と今の記録を比べることができます。プロ野球の公式ホームページでHR記録を見ると、1位の王貞治さん、2位の野村克也さん、3位の門田博光さんと並びます。その中で12位にランクインしている現役選手が、西武の中村剛也選手。それを見ても、歴史はがつながってることを実感します。
「球史」と言いますが、野球選手が残した記録は未来永劫残されていきます。私が名前を知らない往年の選手たちが残してきた記録を見ていると気分が高まります。
ただ、数字だけを見ていても、わからないことがあります。たとえば、分業制が確立した現代では絶対になしえない記録も。投手の「200勝」は、昔の名球界入りの基準でした。金田正一さんは400勝を達成していますが、今後破られることがない記録でしょう。現役投手で200勝に近づいているヤクルトの石川雅規投手は現在185勝ですから、ぜひとも達成してほしいです。
決して破られない記録もありますが、更新されていくのが記録の常。大谷選手は記録と共に歴史を塗り替えています。歴史を作る現場に立ち会っているのかと思うと興奮しますよね。
大谷選手が記録を更新するたび、名前が挙がるのが"野球の神様"ベーブ・ルースです。大谷選手と比較されることも多いのですが、過去の偉大な選手に光が当たるってすごいと思いませんか? ベーブ・ルースは100年も前にプレーしていた、いわば歴史上の人物。大谷選手が活躍するたびに過去の偉人もスポットライトを浴び、その偉大な成績と共に、それを乗り越える記録を残そうとしている選手の偉業にも注目が集まる。数字のスポーツである野球ならではですね。
選手が記録を残すと、後世の人は振り返りやすくなります。記録を達成した選手はみんなでお祝いしますが、試合中に花束が贈呈されるシーンはいいものですよね。その瞬間だけは、敵・味方関係なく拍手をします。とてもいい光景だと思います。
記念日は人それぞれ。みなさまにとって毎日が記念日でありますように。それではまた、101回目でお会いしましょう。
★山本萩子(やまもと・しゅうこ)
1996年10月2日生まれ、神奈川県出身。フリーキャスター。野球好き一家に育ち、気がつけば野球フリークに。
2019年から5年間、『ワースポ×MLB』(NHK BS)のキャスターを務めた。愛猫の名前はバレンティン