アジア杯で浮き彫りになった課題をフカボリ! アジア杯で浮き彫りになった課題をフカボリ! 不動のボランチとしてジュビロ磐田の黄金期を支え、2006年開催のドイツワールドカップには、日本代表の中心メンバーとして出場。日本サッカーが世界水準へと飛躍していく瞬間をピッチの中央から見つめていた福西崇史。

そんな福西崇史が、サッカーを徹底的に深掘りする連載『フカボリ・シンドローム』。サッカーはプレーを深掘りすればするほど観戦が楽しくなる!

第89回のテーマは、アジアカップ全体の振り返り。開催国カタールの大会2連覇で幕を閉じたアジアカップ2023。残念ながらベスト8敗退となった今大会の日本代表の課題を福西崇史が解説する。

 * * *

AFCアジアカップ2023は開催国カタールの大会2連覇で幕を閉じました。日本代表のベスト8敗退が残念な結果であったこと、なぜイラン戦に苦戦を強いられたのかは前回述べました。今回は改めて、グループリーグから日本代表の戦いを振り返りたいと思います。

まず今大会は決勝に進んだヨルダンをはじめ、アジア全体のレベルが飛躍的に上がっていることを示した大会になったと思います。

そうした大会で、日本はグループリーグ全体として守備の不安定さが目立ちました。冨安健洋のコンディションが間に合わなかったり、GK鈴木彩艶のように経験の浅い選手を起用したりと、チャレンジな部分はありました。

その中で守備ラインをどのように上げ、全体のラインの距離感をどうコントロールするのか。そこの部分でコミュニケーションであったり、約束事であったり、事前にチームとしてどうするのかを詰めきれていなかったことが不安定さにつながっていたと思います。

初戦のベトナム戦は結果的に4-2と勝利はしましたが、セットプレーで守備の隙を狙われました。1点目はコーナーキックからnニアサイド、2点目はフリーキックからファーサイドと、いずれも日本はやられたエリアの予測、察知ができず、相手に先に触られて狙った通りに得点を奪われました。

2点目はGK鈴木がもっと対処のしようがあったのではとも言われますが、彼に足りないところはあったとしても、まずはその前のところで簡単にやられているし、カバーする味方もいませんでした。格下だからと油断があったわけではないと思いますが、受け身にはなっていたと思います。

いずれにしても、大会の初戦という重要なゲームで先制点を許すというのは、これがW杯ならば致命的になりかねなかったでしょう。大会の入り方として課題があったと思います。

2戦目のイラク戦は相手の高いモチベーションと、ロングボール主体のサッカーに押し切られました。ああいったサッカーに日本が苦戦することはこれまでもありました。そこに対処するためには自分たちのペースに持っていくことが必要ですが、それが今大会はできませんでした。

相手がロングボールを蹴り込んできて、こぼれ球に対して相手が常に来ているということは、相手のセンターバックと中盤の間はスペースが空いているということです。日本はそのスペースをうまく活用できず、ビルドアップで苦しむことになりました。

また、相手がこぼれ球の意識があれだけ高いことはやっている中でわかることなので、そこで日本もこぼれ球に対してもっと早く立ち位置を作っておく必要があります。実際はボールがこぼれてから動いたり、意識していても相手に取らせないやり方ができていなかったり、足りない部分が多くセカンドボールでも相手に優位を取られました。

それから前回も述べましたが、日本の右サイドバックの裏のケアがチームとして足りていませんでした。DF菅原由勢は積極的に前のポジションを取り、攻撃面で多くの選択肢を与えてくれますが、一方で高い位置に上がるがゆえに、裏のスペースを狙われがちです。

そこはチームとして承知のことなので、左SBの伊藤洋輝が早めに中に絞り、守備ライン全体が早めにスライドすることでカバーできたと思います。実際は間に合わずに裏を突破され、アイマン・フサインに2点を叩き込まれました。

ここもチームの事前準備もそうだし、選手たちもどこが一番危険なのかという予測や意識、察知するセンスが足りなかったと思います。

ラウンド16のバーレーン戦ではDF毎熊晟矢のミドルシュートから得点も生まれていますし、日本の右SBは武器になりつつあるので、そこをこれからも生かすために弱点になりうるところをチームでどうカバーするかは今後改善していく必要があります。

そのバーレーン戦の失点シーンは、今大会で多くの批判に晒されることになってしまったGK鈴木の混乱を象徴するような形になりました。もちろん、彼の準備の遅さ、経験不足というのはありましたし、それによって守備の不安定さを招いたことも少なからずありました。

ただ、そういうときにチームでどれだけ助けられるか。GK鈴木を助けられるように相手のシュートコースやサイドを限定できていたかとか。チームでやっている以上、みんなで守るということがもっと必要だったと思います。

この経験でGK鈴木自身がどうレベルアップにつなげ、チームとしてどんな改善案が出て取り組んでいくか。もちろん、GK鈴木だけではないです。1トップ、トップ下、ボランチコンビに誰を据えるのか。また、板倉滉もコンディションが良い時はスーパーだけど、悪い時にどうするのか。

今大会はチーム全体としては、ロングボール主体のチームには脆さを露呈することが改めてはっきりとしたことも含め、日本の弱点が洗い出された大会になりました。

日本にとってアジアカップは優勝を狙いつつ、どうチームを作っていくかという大会でもあります。そういった意味で結果は出なかったけれど、これがW杯予選ならば敗退で本大会に出られないということもあったわけで、ある意味これがアジアカップでよかったと思うところもあります。

ただ、今後はW杯予選の対戦国は、日本がどんなサッカーに弱いかがよくわかったと思います。まずはそういう展開に持ち込ませないこと、そういう展開になったときにどう対応するのか。チーム、個人として、今大会の経験、課題を日本代表チームがどう生かして、さらに成長、発展させていくのか注目したいと思います。

★『福西崇史 フカボリ・シンドローム』は毎週水曜日更新!★

福西崇史

福西崇史ふくにし・たかし

1976年9月1日生まれ 愛媛県新居浜市出身 身長181cm。1995年にジュビロ磐田に入団。不動のボランチとして黄金期を支える。その後、2006年~2007年はFC東京、2007年~2008年は東京ヴェルディで活躍。日本代表として2002年日韓ワールドカップ、2006年ドイツワールドカップにも出場。現役引退後は、サッカー解説者として数々のメディアに出演している

福西崇史の記事一覧