リーグ4連覇に挑む中嶋監督。巧みな采配はナカジマジックとも称される リーグ4連覇に挑む中嶋監督。巧みな采配はナカジマジックとも称される

昨季、2位に15.5ゲーム差をつける大独走でリーグ3連覇を達成した中嶋オリックス。今季も優勝候補の筆頭に挙げられる〝パの絶対王者〟に死角はないのか?

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■山本&山﨑の穴を埋めるのは誰だ!?

昨季、1990年代の西武黄金期以来となる「パ・リーグ3連覇」を果たしたオリックス。しかも、2位に15.5ゲーム差をつけての独走優勝だった。その栄華は今季も続くのか。『週刊プレイボーイ』本誌おなじみの野球評論家・お股ニキ氏と共に考察していきたい。

今季、広島からFA加入した西川。新天地でもヒットを量産できるか 今季、広島からFA加入した西川。新天地でもヒットを量産できるか

まずは現有戦力の確認。このオフはFAで打者の目玉、西川龍馬を広島から獲得。しかし、昨季164イニング、16勝の山本由伸はドジャースへ、昨季130.1イニング、11勝の山﨑福也は日本ハムへ移籍。左右のエースが同時に抜けた影響は計り知れない。

「過去にはダルビッシュ有が抜けた翌年の日本ハム、前田健太が抜けた翌年の広島など、大エースが抜けても優勝できたケースはあります。ただ、今回のオリックスのように主力2枚以上が抜けるのは、和田毅がメジャーに移籍し、杉内俊哉とホールトンが巨人に流失した2012年のソフトバンク以来かもしれません」

このシーズン、ソフトバンクは前年の日本一から3位転落の憂き目を見ている。

「3枚抜けた12年のソフトバンクとの単純比較はできませんが、山本は球史に残る投手であり、去年も一昨年もペナントレース終盤の大事な試合で圧巻の投球を見せたこと、山﨑は同じパ・リーグの日本ハムへ移籍したことを加味すると、それなりに厳しい戦いになるのは必至です」

今季、投手の補強は外国人投手3人を除くと、トレードで吉田輝星、現役ドラフトで鈴木博志、そして、ドラフト加入の新人のみ。ドラフト下位で即戦力の社会人を獲得したとはいえ、上位指名は素材型の高校生中心。となると、従来戦力の奮起を期待するしかない。主軸候補は宮城大弥と山下舜平大だ。

3年連続2桁勝利の宮城。大エース山本が抜けた今季はこれまで以上に期待がかかる 3年連続2桁勝利の宮城。大エース山本が抜けた今季はこれまで以上に期待がかかる

昨季は開幕投手を務め、新人王にも輝いた山下。「バーランダー級のポテンシャル」(お股ニキ氏) 昨季は開幕投手を務め、新人王にも輝いた山下。「バーランダー級のポテンシャル」(お股ニキ氏)

宮城といえば3年連続2桁勝利を記録し、まさに3連覇に貢献したひとりであり、お股ニキ氏も「彼は天才」と認める逸材。だが、それ以上に注目なのが、昨季、高卒3年目で開幕投手を務め、9勝、規定投球回未到達ながら防御率1点台を記録した山下だという。

「今季はすさまじい体つきになり、さらにレベルアップ。すでに佐々木朗希(ロッテ)や髙橋宏斗(中日)ら、次のメジャー移籍有力投手たちと同格。それどころか、バーランダー(アストロズ)級のポテンシャルを持っています」

バーランダーとは、現役最多257勝、サイ・ヤング賞3度獲得の大投手。サッカーでたとえれば、リオネル・メッシやクリスティアーノ・ロナウド級の〝生きるレジェンド〟だ。

「21歳にしてレジェンドと比較できるレベル。ケガさえなければ、相当期待できます」

こう語るお股ニキ氏だが、同時に「宮城・山下のふたりは、山本・山﨑の穴を埋める存在ではない」とも念を押す。

「宮城も山下も昨季の主力投手であり、少し成績を伸ばしたくらいでは上積みにはなりません。特に、山本と山﨑ふたり合わせた『約300イニングの穴』は、昨季活躍していなかった投手の台頭で埋める必要があります」

高卒2年目右腕の齋藤響介。山本由伸2世との呼び声も高い 高卒2年目右腕の齋藤響介。山本由伸2世との呼び声も高い

大卒2年目左腕の曽谷。昨季のウエスタン・リーグ奪三振王 大卒2年目左腕の曽谷。昨季のウエスタン・リーグ奪三振王

そこでお股ニキ氏が期待するのは、高卒2年目右腕の齋藤響介。さらに、大卒2年目左腕の曽谷龍平と大卒3年目右腕の椋木 蓮という〝ドラ1コンビ〟にも注目する。

「彼ら3人に加え、育成出身ながら、昨季覚醒して6勝0敗の東晃平。彼らが今季も成長して通年働けるか。だからといって、去年ブレイクした阪神の村上頌樹のように、いきなりMVP級の活躍をしてほしいという話ではありません。

シーズンを通して安定して投げ、7勝前後できれば、山本と山﨑が抜けた穴を埋めるのも不可能ではないと思います」

では、リリーフ陣はどうか? 昨季40試合以上投げたのは、抑えの平野佳寿(42試合)、中継ぎの宇田川優希(46試合)、阿部翔太(49試合)、山﨑颯一郎(53試合)の4人。充実のラインナップは今季も健在だ。

「オリックス救援陣の強みは個々の力量もありますが、首脳陣のマネジメント力のおかげで戦力の連続性があること。昨季の50試合以上登板は山﨑颯一郎だけで、使い潰しを避けている。これは素晴らしいです」

確かに、投手運用に長けている印象のあるロッテの吉井理人監督でも、50試合以上登板は3人もいた。

「このあたりのバランスの良さがオリックスらしさ。他球団の場合、酷使が響いたり、大事に使っても結局故障して単年だけの活躍になったりしがち。かといって、昨年のソフトバンクのように救援陣に過剰に人員をつぎ込んで先発不足になる、ということもありません」

不安な点を挙げるとすれば、来月40歳を迎える平野の衰えか。

「平野も〝劇場型〟といわれつつも、相手の打ち気を利用しながら最後は抑えるのだから、さすが。それでも、年齢的なことも考慮した上でクローザーをどうしていくのか。中嶋(聡)監督のマネジメント力が問われます」

■画一的な育成方針で〝メジャー級〟が続々

オリックスの強さは、選手個々の力量だけにあらず。その選手を目利きし、育て上げる〝球団力〟も大きな要因だ。

「親会社も体力はあるが、目先の結果のために大金をかけることなく、堅実経営で大きく間違えることがない。他球団からすれば、力のあるチームが的確に動くため、とてもいやらしいです」

改革のきっかけは14年、わずか2厘差で優勝を逃した悔しさではないか、とお股ニキ氏は分析する。

「あの年以降、ドラフトの指名傾向が変わり、1位選手を中心にどんどん活躍するように。その選手たちが20年代になって主力となった。10年代に隆盛を誇ったソフトバンクがピークを過ぎ、覇権が入れ替わったんです」

近年、特に徹底しているのが〝育成重視〟の姿勢だ。

「ドラフト戦略も的確だし、大阪・舞洲に最新のファーム施設をつくり、指導陣には中嶋監督、中垣征一郎巡回ヘッドコーチら日本ハムの日本一を支えたスタッフを招聘した上で、確かな方法論で育成。次々と戦力に育て上げています。

山本も吉田正尚も、指名当初はメジャーにポスティング移籍するほどの選手に成長すると思っていた人は、ほとんどいなかったでしょう」

画一的な指導により、野手も投手も同じようなスタイルの選手が多い、とお股ニキ氏は語る。

「投手は剛腕タイプが多く、球速があってフォークが良いので三振を奪える。つまり、自力でアウトが取れる。結果として、守備への影響が小さくなります。

キレや球筋、配球など、総合的な投手力を求めるのが阪神だとすると、オリックスはメジャー的な〝球の質自体を重視する投手力〟を追求しています。その上で、捕手の若月健矢の配球も洗練されていて、投手の能力を最大限に引き出せています」

実際、前述した山下や齋藤響をはじめ、若手投手が毎年のように台頭するのも、オリックスの好循環を支えている。

「西川の人的補償で広島に移籍した日髙暖己も、今季のブレイク候補。そんな選手がプロテクト漏れするほど層が厚いといえます。今季も、育成の川瀬堅斗が支配下登録されて1軍で活躍する可能性があると思います」

そんな逸材たちを運用する中嶋監督の手腕も改めて確認しておきたい。

「山本でも開幕直後は無理に中6日で使わない。山下がケガなら日本シリーズで使わない。中継ぎは役割を完全固定せず、年間50試合以上をほぼ投げさせない。野手も調子を見極めて使うなど、目先の1勝に固執せず、長期的視点が徹底できる監督です」

一方、短期決戦では気になる点もあるという。

「去年の日本シリーズでは宇田川を起用すべき場面で温存し、結局、その後に投げさせたものの後手に回って負けた試合もありました。ペナントレースでは確実に計算できるので、素晴らしい監督であるのは間違いないですが、短期決戦も勝ちきるにはペナントとは違った戦い方も必要になる。その手腕に期待したいです」

中嶋監督といえば、昨季も135通りの打順を組んだ〝猫の目打線〟でも有名だ。

「投資と一緒で、センスや感情を排除して、一定のルールで機械的にこなしていくやり方でも結果は出る。ただし、本当に大きな結果を出すのは、自分の感覚やセンスを基にその場その場の判断ができる人。中嶋監督はまさにこのタイプ。

加えて、ちゃんと2軍戦もチェックしている。いいと思ったらすぐに1軍に上げて起用する点も素晴らしいです」

調子がいい選手をすぐに使うことは、なかなかできないことだという。

「他球団ではレギュラーを固定しすぎた結果、せっかく調子がいい選手を1軍に上げてもずっとベンチに置き、かえって試合勘が鈍る、なんてこともあります。でも、オリックスは信賞必罰と実力主義を徹底。昨季序盤もショートの紅林弘太郎の状態が良くないとみると、野口智哉を起用。紅林の発奮を促しました」

そして、「本物であれば、抜擢されたら結果で示すはず」とお股ニキ氏は続ける。

「山本がいなくなるのはチームとしては大ピンチだけど、選手にとっては大チャンス。もし齋藤響ら若手が本物なら、この機会を大投手への足がかりにするはずです」

■強みが一転、弱みになる?

改めて整理すると、先発陣のマイナスをカバーできれば、西川獲得で野手はプラス要素があるだけに、大幅戦力ダウンではなさそうだ。

「総合値では若干のマイナスでしょうか。対して、ライバルになるはずのソフトバンクは野手でウォーカーと山川穂高を獲得。さらに、10年代の黄金期を支えた最強投手陣の立役者、倉野信次コーチが復帰。投手陣もしっかり整備し、的確な運用をするはずで、プラス要素が大きい。

となると、オリックスが去年のように2位に15.5ゲーム差をつけて独走するのはさすがに難しくなります」

それでも、リーグ3連覇中の王者が今季も優勝候補であることには変わりない。他球団がつけ入る隙はどこにあるのか。実はここまで触れてきた〝画一的な指導〟が、オリックスの弱点に転じる可能性もあるという。

「良くも悪くも、メジャー的な選手が増えているのが今のオリックス。メジャーリーガーの打者は基本的にどんな相手でも自分のスイングを貫くため、ハマらない球はとことん苦手という傾向がある。オリックス打線もこれに当てはまります」

今季、レイズとマイナー契約を結んだ上沢。日本ハム時代には対オリックス12連勝を記録 今季、レイズとマイナー契約を結んだ上沢。日本ハム時代には対オリックス12連勝を記録

昨季、山本と投げ合って3勝1敗だった有原。日本ハム時代の2019年には対オリックス4戦全勝を記録 昨季、山本と投げ合って3勝1敗だった有原。日本ハム時代の2019年には対オリックス4戦全勝を記録

実はオリックス打線がここ数年、苦手にしている天敵がいる。上沢直之(レイズマイナー)と有原航平(ソフトバンク)だ。

上沢は日本ハム時代の18年から昨季途中まで、対オリックス戦でなんと12連勝。有原は日本ハム在籍時の19年の対オリックス戦が4戦全勝。昨季は3勝3敗だったが、勝った3戦はすべて山本と投げ合っての勝利、という価値あるものだった。

「上沢、有原はどちらも小さめにボールを動かし、速いスプリットを得意とする投手。このタイプの投手をぶつける戦略もアリだと思います」

オリックス視点に立てば、そんな苦手な相手にどう対処していけばいいのか?

「昨季は森 友哉、今季は西川と、球界随一のバットコントロールを持つ選手を補強しました。昨季、首位打者を獲得した頓宮裕真は森から積極的に教えを受けていたようです。

球団としても、画一的になりすぎないように外部の才能を取り入れ、その選手自身が活躍するのはもちろん、ほかの選手にも何か影響を与えてほしい、と考えているのかもしれません」

果たして、オリックスの黄金期は今後も続くのか。それともほかの球団が待ったをかけるのか。開幕が待ちきれない。

オグマナオト

オグマナオトおぐま・なおと

1977年生まれ。福島県出身。雑誌『週刊プレイボーイ』『野球太郎』『昭和40年男』などにスポーツネタ、野球コラム、人物インタビューを寄稿。テレビ・ラジオのスポーツ番組で構成作家を務める。2022年5月『日本野球はいつも水島新司マンガが予言していた!』(ごま書房新社)を発売。

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