お股ニキおまたにき
野球評論家、ピッチングデザイナー。さまざまなデータ分析と膨大な量の試合を見る中で磨き上げた感性を基に、選手のプレーや監督の采配に関してSNSで活動。その理論を取り入れる選手が急増し、オンラインサロンに40人以上のプロ選手が加入。プロ、アマ問わず、千賀滉大、藤浪晋太郎(共にメッツ)に次いでMLBや甲子園を目指す投手の個人指導を行なう。
公式X【@omatacom】
2月にもかかわらず夏日が続いた、南国・沖縄。セ・リーグの覇権を争う"東西の名門球団"の春季キャンプを現地視察した週プレ本誌おなじみの野球評論家、お股ニキ氏が投打の仕上がり具合、復活を期すエースの状態、注目を集める若き新戦力などを詳報する。【"セ・リーグ優勝候補"阪神・巨人沖縄キャンプリポート①】
那覇市内から車で1時間ほどの距離にある、バイトするならエントリー宜野座スタジアム(宜野座村[ぎのざそん]野球場)。那覇市内の都心部でキャンプを張る巨人とは異なり、ゆったりとした空気が流れていた。球場、室内練習場、ブルペンなどがコンパクトに配置されており、移動が楽で、選手とファンの距離も近い。
阪神のキャンプは本当にレベルが高い。選手層が分厚く、日本一になっても浮かれることはまったくない。1軍クラスだけでなく、育成まで含め、体形が良く、鍛え上げられている選手が多い。
どの選手も、「少しでも気を抜いたら、居場所がなくなる」という意識があるのだろう。それぞれが自分のやるべきことに集中し、黙々と練習していた。
ブルペンで投手陣を見たが、糸を引くようにビシッと来る球筋の投手が多く、意図を感じる投球内容だった。投手陣からの信頼が厚い捕手の坂本誠志郎も間近で見ることができたが、フレーミング技術が素晴らしく、球筋や球の強度など、投手に対して一球一球しっかりと伝えていた。球の質や配球を重視するこのような姿勢が、阪神の強力投手陣をつくり上げている。
練習を終えた選手に話しかけると、温和な雰囲気で気さくに応じてくれた。昨季の優勝で"勝者のメンタリティ"を手に入れ、今季はさらにもう一段階レベルが上がった。リーグ優勝候補の筆頭だろう。
今回、以前から意見交換をしている青柳晃洋と、1時間超も話すことができた。
2021年から2年連続最多勝に輝き、2022年には投手3冠を獲得。昨季は自身初となる開幕投手の大役を務めたものの、シーズン途中で調子を落とし、不本意な成績に終わった青柳。私が宜野座を訪れた日はたまたま別メニュー調整だったため、じっくりと話すことができた。
まず、ひと目見てわかるほど変わったのが体形だ。オフにビルドアップし、体重も5~6㎏ほど増え、ひと回り大きくなった。昨季は体のコンディションが整わず、思うように動けなかったのが不調の要因だったが、今季は鍛え直し、体を大きくした上で動けるように仕上げてきた。
開幕まで1ヵ月以上ある時期にしては、球速がかなり出ていたし、すべての球種を思いどおりに操れていた。今季は、オールスター前に11勝を挙げた2022年前半のような投球を期待できそうだ。
青柳はどちらかといえば、ボールを動かすタイプだが、今季は球速やライジングするようなストレートにも注目してほしいようだ。
阪神投手陣の中で、このキャンプで最も期待されているのが高卒2年目左腕の門別啓人だ。私も高校時代から注目しており、実際に見るのを楽しみにしていた。何よりも驚いたのが、大卒2年目といわれてもおかしくない体つき。球にもキレと強さがあった。
そんな門別以上に目立っていたのが、大卒3年目右腕の岡留英貴。このオフには2年連続で青柳の自主トレに参加し、リリースのタイミングや力の入れ方を体得した。
軽く投げても球が来ており、ストレートは浮き上がるような軌道で152キロを計測。フォークは140キロ台で鋭く落ち、ツーシームは149キロで微妙に動いて空振りを奪えていた。
昨季、セ・リーグのMVPと新人王をW受賞した村上頌樹も、青柳の自主トレに参加して覚醒したが、今季は岡留がブレイクするかもしれない。
阪神投手陣の先発ローテーション争いは昨季以上に熾烈を極めそうだ。
青柳、村上、伊藤将司、才木浩人、西勇輝までは確定だろうが、"6番手"は流動的になるはずだ。昨季ブレイクした大竹耕太郎は肩の調子が悪く、開幕直後は外れそうだが、そこに門別を抜擢する可能性が高い。
調子が上がれば、大竹やジェレミー・ビーズリーを起用するだろうし、夏頃には髙橋遥人の復活、ドラ1右腕の下村海翔(かいと)のデビューもあるかもしれない。
リリーフ陣の競争もハイレベルだ。確定といえるのは、左ではクローザーの岩崎優(すぐる)、昨季ブレイクした桐敷拓馬、火消しの島本浩也。右では石井大智、加治屋蓮、そして、ブレイク候補の岡留。岡留は"桐敷の右バージョン"のように使っても面白い。最終的には右の勝ちパターンの一角にまで食い込んできそうだ。
ベテランの岩貞祐太も立場は保証されていない。キャンプでは、周りの快調な投球に力んでいる様子も見られた。
岡田彰布監督は「左4枚、右4枚」で考えているはずで、そうなると左のもう1枚には及川雅貴が食い込んでくるかもしれない。イニングをまたいで投げられるのが魅力で、キャンプでも状態が良かった。桐敷の負担を減らす意味でも期待したい存在だ。
一方、新外国人のハビー・ゲラも期待を集めており、1軍レベルで活躍できる投手が20人近くもいる。実績のある湯浅京己(あつき)と浜地真澄も状態が上がらなければ、なかなか1軍で投げられないだろう。キャンプで見たところ、浜地は球威が戻ってきていたが、湯浅の状態はまだまだだった。
野手は昨季のメンバーが中心になるだろうが、外野で確定はセンターの近本光司のみで、両翼は激しいレギュラー争いが繰り広げられそうだ。
昨季後半戦で好調だった森下翔太に期待がかかるが、育成から支配下登録された野口恭佑、春季キャンプの野手MVPに選ばれた前川(まえがわ)右京の状態が良く、うかうかできない。
一方、昨季は主に5番を打った佐藤輝明だが、今季はワンランク上がったかもしれない。もともと変化球はやや泳ぎながらも体を残し、バットのヘッドを返してボールを飛ばせるタイプで、速球は上から叩きすぎでややポイントが近く、点で捉えていたが、ボールの軌道に長く合わせられるスイングになってきた。
また、坂本、梅野隆太郎のハイレベルな併用が魅力の捕手陣だが、ケガ人が相次いでいる。坂本もさすがに試合に出ずっぱりだと疲労も蓄積し、配球の傾向も読まれやすくなる。坂本の負担を減らすためにも、キャンプでケガをした梅野、高卒3年目の中川勇斗(はやと)の早期回復が待たれる。
球団史上初の日本一連覇へ。それに挑戦するに値するチームに仕上がっている。
野球評論家、ピッチングデザイナー。さまざまなデータ分析と膨大な量の試合を見る中で磨き上げた感性を基に、選手のプレーや監督の采配に関してSNSで活動。その理論を取り入れる選手が急増し、オンラインサロンに40人以上のプロ選手が加入。プロ、アマ問わず、千賀滉大、藤浪晋太郎(共にメッツ)に次いでMLBや甲子園を目指す投手の個人指導を行なう。
公式X【@omatacom】