「チームの成績だけを見れば、Fリーグは2位で全日本選手権はベスト4と良かった。ただ、結局どちらもあと一歩のところで負けてしまい、今は悔しい気持ちが強い。来季はもっと得点やアシストに絡みたいですし、日本代表にもまた呼んでもらえるように頑張りたいです」
フットサル選手としての1年をそう振り返るのは、2023-24シーズンのペスカドーラ町田の新加入選手として奮闘した礒貝飛那大(23歳)である。
ペスカドーラ町田は昨年5月にスタートしたFリーグのレギュラーシーズンを首位で終えると、今年1月のプレーオフでリーグ6連覇中だった名古屋オーシャンズに勝ち点で並ばれて得失点差の末に初優勝こそ逃したが、最終戦まで優勝の可能性を残すなど充実のシーズンとなった。
2月下旬から3月上旬にかけて行なわれた全日本選手権でも準決勝で敗れたものの、チームを牽引した礒貝を含め、その戦いぶりは今後に可能性を感じさせるものだった。
礒貝はルーキーながら昨年末に日本代表に初招集され、今後が楽しみな選手のひとりであるが、彼に注目する理由はもうひとつある。古くからのサッカーファンであれば、「礒貝」という少し珍しい名字を見てピンと来たかもしれないが、Jリーグ創成期にガンバ大阪などで活躍した元日本代表MF、礒貝洋光の親戚でもあるのだ。
礒貝洋光といえば〝天才〟と称されながらケガなどがあって1998年に29歳の若さで現役を引退。その後はプロゴルファーへの転身が話題になったこともある。
ユニークなキャラクターに加え、一時は体重が130㎏近くまで増えるなど現役時代との見た目のギャップの大きさがメディアで紹介されたこともあった。そんな礒貝洋光と礒貝飛那大の父、公利さんがいとこの関係なのだという。
01年生まれの「飛那大」は幼少期、親戚の「洋光」が元Jリーガーであることを知らずに育ってきた。だが、09年に公利さんが、すでにサッカーを始めていた礒貝に「うちの親戚に元Jリーガーのすごい選手がいることをわかってほしい」と、関西の人気バラエティ番組『探偵!ナイトスクープ』(朝日放送)に協力を依頼し、一緒に番組に出演したことで交流が始まったそうだ。
「小学3年生のときでした。それまでは昔サッカーをやっていて、引退後はゴルフをやりながら遊んでいる親戚のおじさんがいるみたいなことは聞いていたのですが......。
番組内で好きな選手を聞かれても、ガンバ大阪(当時)の遠藤(保仁)さんって答えていましたからね(笑)。テレビに一緒に出たことで〝ヒロミツ君〟が昔はバリバリの選手だったということを知りました。それからは自分もサッカーを頑張ってきました」
中学時代はJFAアカデミー熊本宇城に通いながら、クラブチームのエスペランサ熊本でプレー。高校は新潟県の帝京長岡に進み、高3時には攻撃的MFとして全国選手権でベスト8進出を果たした。
城西大学ではサッカー部に所属しながら、3年時には特別指定選手としてFリーグ2部のヴィンセドール白山でプレーし、卒業後にペスカドーラ町田入り。シーズン当初は出場機会に恵まれなかったが、徐々に出番を増やし、先発の座を手にした。
「大学はサッカー部でしたが、小さい頃からフットサルは好きでした。町田に入ってからは順調すぎるというか、いい経験をさせてもらっています。
中高大と寮生活だったのでヒロミツ君とはしばらく会っていなかったのですが、サッカー関係者に『礒貝です』と自己紹介すると、だいたい『あの礒貝さんの......』となるのですごい選手だったのかなって感じています。
フットサル選手になったことでヒロミツ君に会う機会も増えて、今年の正月明けには焼き肉としゃぶしゃぶをごちそうしてもらいました。
最近は仙人みたいな姿になっちゃいましたし、たまに何を考えているのかわからないときもあります。でも、天才の話は中身がないようで深いというか(笑)。全日本選手権は試合も見に来てくれて、トラップや守備の仕方についてもLINEでアドバイスしてくれました」
サッカーでテクニカルなMFとしてプレーしてきた経験は、フットサルでも生かされている。
「右利きですが、左足も使いますし、パスとキックの精度は自分の売り。全体のバランスを見てプレーすることはチームでも評価してもらえていると思う。課題は得点とアシストの数。来季は得点、アシスト共に2桁を目指してチームの勝利に貢献したい」
昨年12月、アルゼンチンとの親善試合で日本代表に初招集されたが、コートに立つことはできなかった。フットサルは今年9月にW杯(ウズベキスタン)を控えており、4月17日から28日にかけてタイで行なわれるW杯予選を兼ねたアジア杯(4位以上がW杯出場権獲得)も迫る。
「まずはアジア杯でのメンバー入りが目標です。前回の代表招集時には初めて会う選手ばかりで緊張も大きかった。ただ、みんなフレンドリーに接してくれて、練習などを通じてたくさんの刺激を受けました。
町田はポスト役のピヴォを置く戦術で、ピヴォを置かずに選手がローテーションするクワトロシステムの代表とは戦術が違うので、不慣れな部分もあります。ただ、(代表の)木暮賢一郎監督からもその中で良さを発揮してほしいと声をかけてもらいましたし、できることをやっていければと思っています」
将来はフットサル選手として海外でのプレーも夢だと語る礒貝。来季は弟の琉ノ介(GK)も、ペスカドーラ町田の2軍にあたるアスピランチへの加入が決まっており、今後のふたりの活躍次第では「礒貝」という名前が再び日本中に広まるかもしれない。