年明けのアジア杯で優勝候補に挙げられながらも、いいところ少なくベスト8敗退となった森保ジャパン。中でも多くの批判にさらされたひとりが、全5試合にフル出場したGK鈴木彩艶(シントトロイデン)だ。
以来、所属クラブでも代表でもそのプレーに大きな注目が集まる21歳は今、何を思うのか。W杯2次予選を戦う日本代表に合流する直前、リモート取材を行なった。
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■「ミスをすれば批判されるのは当然」
身長190㎝の恵まれた体躯に加え、高い身体能力が魅力の逸材。世代別の日本代表の常連で、飛び級での選出も何度も経験してきた。ガーナ人の父と日本人の母を持ち、昨夏にはイングランドの名門マンチェスター・ユナイテッドからオファーが届くなど、鈴木彩艶のポテンシャルの高さは誰もが認めるところ。
だが、A代表での初の国際大会となった年明けのアジア杯で正GKに抜擢されると、ミスやアンラッキーが重なり、ネット上では〝戦犯〟のひとりとして批判を受けた。
――あらためてアジア杯を振り返っていただけますか。
鈴木 ひと言で言えば、非常に悔しい大会でした。優勝を目指していた中、自分のプレーがまったく通用せず、チームの力にもなれなかった。GKの役目はまず失点を防ぐこと。それなのに自分のミスが原因で失点につながってしまった場面も多かった。
どの失点を振り返ってもキャッチングやポジショニングなどの技術や判断の細かいミスでしたが、大きな大会ではあらためて細かな部分が大事だということを痛感しました。
11人で戦うサッカーにおいて、GKは最も経験が必要とされるポジション。ただ、アジア杯で日本代表に招集されたGKは鈴木のほか、前川黛也(ヴィッセル神戸/29歳)、野澤大志ブランドン(FC東京/21歳)もほとんど代表経験はなく、前川が1試合に出場していただけで鈴木の代表キャップ数4が最多だった。
――大会前は楽しみと不安、どちらが大きかった?
鈴木 不安は特になかったです。自分が試合に出るのがわかったのは初戦の前のミーティングでしたが、シントトロイデンで試合にずっと出ていましたし、楽しみしかなかったですね。
日本はベトナム(○4-2)、イラク(●1-2)、インドネシア(○3-1)、バーレーン(○3-1)、イラン(●1-2)を相手にした5試合すべてで失点。鈴木の経験不足を指摘する声も少なくなかった。
――大会中は短い間隔で試合が続きました。どんな気持ちで臨んでいたのですか?
鈴木 常に冷静でいることを心がけていました。試合が終わった後は、いつも反省作業をやっていましたが、(ミスの)原因はわかっていたので、眠れなくなったりとか、気持ち的に引きずったりすることもなかったです。
もちろん、頭で理解していても、次に絶対止められるかはわからないですし、すぐにすべてを改善できるわけではないのですが......。経験不足については、試合に出れば年齢は関係ないですし、言い訳にはなりません。
――失点シーンなどで「あの場面はこうしていたら」とか、特に印象に残っている場面はありますか。
鈴木 すべての失点シーンで、はじき方やポジショニングについて『ああしていれば良かった』というところはあります。ただ、GKをやっている限りはその連続で、失点を通して学ぶことも多い。
ひとつシーンを挙げるなら、そこまでフォーカスされませんでしたが、イラン戦の1失点目です。もともと自分のキックから始まったプレーですし、イランの20番(FWアズムン)のスルーパスを21番(FWモヘビ)に決められましたが、僕はもう少し長いスルーパスが出てくると予測して、少し前にポジションを取っていました。
結果的にスルーパスは想像より短く、シュートを左隅に決められてしまいました。あそこはポジションを前に取るべきではなかったなと。
――失点が続き、SNSなどで批判の声が上がりました。
鈴木 実際ミスはあったし、(批判は)受け入れていました。代表選手として試合に出る以上、ミスをすれば批判されるのは当然です。
――エゴサーチもした?
鈴木 自分で検索しなくても、普通のニュースを見ようとネットを見れば、嫌でもそういう情報は伝わってくるというか、目に入ってきますよね。
――中には過剰な批判もありました。
鈴木 過剰というよりは、GKを経験したことのある人と、そうでない人では着眼点が違うので、そこに目を向けるんだって思うものはありました。自分の中でこうすれば良かったと分析していたのに『えっ、そっち?』みたいな。
でも、アジア杯の失点は防がなければいけないものが多かったですし、何を言われても仕方ないと思っています。
――大会期間中、自らSNS上で人種差別的発言を受けたことを明らかにし、そのことについては「やめてほしい」と意思を表明しました。
鈴木 プレーに関してはいくら批判されても構わないです。でも、差別的な発言は別。控えてほしいです。
――ほかのフィールドプレーヤーと比べ、GKは損な役回りだとは思いませんか。
鈴木 GKはプレーしていれば失点に関わってしまうことはありますからね(苦笑)。ただ、逆に活躍すればヒーローにもなれる。難しさはありますが、それこそがGKの楽しさというか。今あらためてGKの難しさとやりがいを感じています。
――「なぜこんなに批判されるのか」とは思わなかった?
鈴木 それは思わなかったですね。そこはGKの宿命というか。選手としてはプレーでしか表現できないので、今後はもっと強くなって戻ってきたいです。
■大会後、森保監督に言われたこと
――キャッチングやパンチングなどゴールを守るという点でミスが出た一方、攻撃面では相手陣地深くまで届く飛距離のあるキックやスローイングからチャンスを演出する場面もありました。
鈴木 そこはいつも狙っています。ただ、いくら飛距離が出ても、その精度を上げないと意味はない。蹴るにしても、投げるにしても、仮に試合中に1本しかチャンスがなくても、そこでの精度は突き詰めなければと思っています。
21歳とまだ若いが、試合中にミスやファインセーブがあっても、顔色ひとつ変えずに常に淡々とプレーする姿も印象的だった。
――ピッチで表情を変えないのは意識してのこと?
鈴木 GKがミスしてショボンとしていたら、味方も心配になるし、相手からも狙われかねないですよね。だから、ピッチではどんなシチュエーションでも堂々と、常に同じマインドでいるようには心がけています。好セーブをしてガッツポーズをするGKもいますが、僕はそういうのは少ないですね。
鈴木は昨夏、浦和レッズからベルギー1部のシントトロイデンに移籍すると、ここまで正GKとして22試合に出場している。W杯2次予選の北朝鮮との2連戦でも引き続きA代表に招集されたが、4月にアジア最終予選(U-23アジア杯)を控えるパリ五輪世代でもある。
ただ、予選、本大会共に五輪では代表に拘束力はなく、海外組はクラブ事情もあり全員が参加できる状況にはない。
――今夏のパリ五輪出場も目標のひとつだと思います。
鈴木 (飛び級で招集された)東京五輪は試合に出場できなかったですが、悔しい経験をしたぶん、パリ五輪への思いはあります。ただ、クラブでの試合もありますし、どこでプレーするかは自分で決められることではない。僕的には選ばれたほうでプレーするだけだと思っています。
「真面目な性格」とは聞いていたが、どんな質問にも丁寧に受け答えする姿はまさに評判どおりだった。
――自身の性格については、どう分析されますか。今日お話を伺って、やはり真面目だなと感じました。
鈴木 真面目かどうかはわからないです(笑)。ただ、どんな物事に対しても冷静に考えられるほうだとは思います。
――21歳という年齢の割に落ち着いていますよね。
鈴木 ジュニアチームの頃から、サッカーだけでなく人としてどうあるべきかというところを教えてもらってきましたし、兄の影響で子供の頃から自分より上の学年に交ざることが多かったこともあって、誰に対しても、どんな場所でも、自然と物おじせずにいられるようになったのかもしれません。
――アジア杯での悔しい経験を、ぜひ今後に生かしてください。応援しています。
鈴木 森保(一)監督からも『この経験を無駄にするな』と言われました。アジア杯は自分のこれまでの人生でも、いろんな意味で一番大きなものになりました。この経験をどう生かすかは自分次第。将来、『あの失敗があって良かった』と言えるように毎日を大切に過ごしたいです。