北朝鮮戦をフカボリ! 北朝鮮戦をフカボリ!
不動のボランチとしてジュビロ磐田の黄金期を支え、2006年開催のドイツワールドカップには、日本代表の中心メンバーとして出場。日本サッカーが世界水準へと飛躍していく瞬間をピッチの中央から見つめていた福西崇史。

そんな福西崇史が、サッカーを徹底的に深掘りする連載『フカボリ・シンドローム』。サッカーはプレーを深掘りすればするほど観戦が楽しくなる!

第92回のテーマは、W杯アジア予選の北朝鮮戦について。アジアカップ後、初めての代表戦で、日本代表はアジアカップで浮き彫りになった課題を改善できていたのか。また、北朝鮮戦で見えた課題を福西崇史が解説する。

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3月21日に「FIFAワールドカップ26アジア2次予選兼AFCアジアカップサウジアラビア2027予選」の日本対北朝鮮が行われ、日本が1-0で勝利しました。結果として失点をゼロで抑えて、勝てたことはなによりだったと思います。

ただ、やはり課題もあったので、アジアカップでの課題の改善されたのかも含めて、北朝鮮戦で見えた課題を整理してきたいと思います。

前半立ち上がりから北朝鮮はロングボール主体ではなく、つなぎながらある程度プレッシャーを受けたら蹴るという戦い方を選択してきました。つないでくれると前線からの制限がしやすく、相手のトップや2列目の選手に対してケアができるので日本としてはリスク管理がしやすかったと思います。

そんな立ち上がりの前半2分という早い時間帯に田中碧が先制点を決めてくれました。自身が上げたクロスを堂安律が折り返し、南野拓実が空けた中央のスペースに「誰が入るのか」というところへ彼が良いタイミングで入ってゴールを決めました。

相手を押し込む展開になったときに、ボランチの選手がどれだけ攻撃に厚みを加えられるかという点に注目していましたが、田中が自身の強みである攻撃参加、決定力を立ち上がりから見事に生かしてくれたと思います。

田中は試合を通しても非常に良いパフォーマンスを見せてくれました。コンビを組んだボランチに守田英正がいてくれたこともあって、ビルドアップではライン間でうまくボールを受けることができていたし、ボールを失った瞬間の守備も非常に切り替えが早くよかったと思います。

アジアカップでの課題改善という点では、個人的に課題と感じていたビルドアップの部分で改善の意識は感じられました。選手の距離感はより近い距離を意識していたし、立ち位置の角度も改善され、そこへ差し込むパス、前への意識も高かったと思います。

一方ロングボールに対しては、北朝鮮があまり蹴ってこなかったとはいえ、後半はじめにロングボールから起点を作られ、ネットを揺らされました。結果的にオフサイドでしたが、たった一本でああいった場面を作られる危険性を感じました。

この試合の課題で見えた部分として、ビルドアップの改善が見られた一方でプレスに苦戦する場面もありました。

後半に入ってからビハインドの北朝鮮はかなりリスクを負って、積極的にプレスをかけてくるようになって、日本は苦戦を強いられました。それは日本がW杯でスペインやドイツという強豪相手にそうしたように、北朝鮮もリスクを冒して前から来る時間帯を作ってくるのは当然だと思います。

それに対して慌てるのではなく、ある程度余裕を持ってかわす場面はいくつかありましたが、もっと堂々としたプレーが必要です。

この試合は冨安健洋が招集外で、板倉滉と町田浩樹のコンビでしたが、やはりリズムやコンビネーションの部分でまだ難しい部分がありました。

板倉がラインコントロールをしていましたが、もっとラインを上げなければいけなかったし、その際の後ろの管理をどうするかはもっとやらなきゃいけなかったと思います。ただ、これは繰り返しやっていかなければいけない精度は上がらないものなので、一朝一夕でできることではありません。

解決策の一つとして3バックの採用も選択肢にあるといいと思います。この試合でも終盤に3バックにしたことで、ある程度守備を安定させ、ゲームを締めました。ただ、それだけでなく試合を通して安定した試合運びをするために、始めから3バックにすることも有効だと思います。

3バックにすることで、後ろに人数を割ける分、ビルドアップでより余裕が生まれるし、試合を通してもっと積極的に前へ潰しにいきながら後ろをカバーすることもできる。ロングボールに対してもより守備の安定感のある対応ができると思います。

それでもロングボールというのは一発があるので、3バックにしたところで完全に防げるものではありませんが、こういう試合で守備の選択肢が増えるのは良いことです。

もう一つの課題としてはビルドアップで、相手の中盤ラインを突破できた後の部分ですね。

サイドからの攻撃では、選手の距離感もよく、ボランチも追い越す動きを積極的にしていて、十分にトライしていると感じられました。ただ、そこから中に入っていくコンビネーションに物足りなさを感じました。

失敗してもいいので、ペナルティエリア角付近でもっと勝負する場面があっていいと思うし、ポケットを取る動きや流れてスペースを作る動きが必要だったと思います。

結果的に1-0で勝てたからいいものの、先ほど触れたようにワンチャンスをものにされる可能性もあったわけです。この試合でも2点、3点と追加するために、中盤ラインを越えた先のコンビネーションは今後の課題だと思います。

本来は26日にアウェイの試合があるはずでしたが、まさかの中止となり、3-0の不戦勝となりました。これによって日本は最終予選進出が決まりました。ピッチ外のところで不安な部分があったと考えると、結果的によかったのかもしれませんが、一方で代表活動という時間の限られるなかで1試合の機会損失は痛いですね。

ホームでは起用されず、アウェイで使うことを考えていた選手も多かったはず。まだまだアピールの足りない選手にとっては残念だったでしょう。6月のミャンマー戦、シリア戦はそうした選手たちの良いアピールの場として活用できればいいなと思います。

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福西崇史

福西崇史ふくにし・たかし

1976年9月1日生まれ 愛媛県新居浜市出身 身長181cm。1995年にジュビロ磐田に入団。不動のボランチとして黄金期を支える。その後、2006年~2007年はFC東京、2007年~2008年は東京ヴェルディで活躍。日本代表として2002年日韓ワールドカップ、2006年ドイツワールドカップにも出場。現役引退後は、サッカー解説者として数々のメディアに出演している

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