4月2日に行なわれたヤクルトvs広島の終了後、ヤクルトの高津臣吾監督が三塁ベースコーチの判断について「もうひとつ、うまい判断があるのかなと思います」と言及しました。

0-0の同点で迎えた3回表。1死一、二塁で西川遥輝選手がセンターにヒットを放ち、二塁ランナーの北村拓己選手が本塁を狙ったものの惜しくもタッチアウト。突入を決断したのは、三塁コーチを務めていた森岡良介コーチですが、試合後に「結果的にアウトだから僕の判断ミス」とコメントしました。

1点を追う8回表には、同じような場面で今度はランナーをストップ。どちらも微妙なタイミングで本当に判断が難しかったと思いますが、特に1点を争う場面では、三塁コーチの責任がより重くなるのでしょう。

さて、ここであらためて注目したいのは、「三塁コーチは、試合中にどんな仕事をしているのか」ということ。ランナーが本塁に突入する際に腕をグルングルンと回している人、という印象が強い方も多いかもしれませんね。

かつて、野村克也さんから「日本一の三塁ベースコーチ」と呼ばれたのは高代延博さんです。高代さんは選手として日本ハムなどでプレーし、現役引退後も多くのチームで内野走塁コーチとして活躍。2013年のWBCで三塁コーチを務めた際は、台湾戦で本塁を狙おうとする糸井嘉男選手を体を張って止めた"ファインプレー"が話題になりました。

三塁コーチが話題になることはそれほど多くないと思いますが、判断力に優れた高代さんは、落合博満監督が指揮を執る中日でコーチを務めていた2006年シーズンに、本塁憤死を1に留めてチームのリーグ優勝に貢献しました。名将たちがこぞって登用したことからも、高代さんの実力がわかります。

三塁コーチの仕事に話を戻しますと、まず重要なのが、ランナーの三塁への進塁や本塁突入の判断。ランナーは打球に背を向けて走っていることも多いので、三塁コーチの責任は重大です。

たとえば二塁にランナーがいる場面でライトにヒットが出たら、ライトの肩の強さや送球の正確さ、打球をキャッチしたタイミングなどを総合した上で「本塁にいけるかどうか」を決める。さまざまな情報を一瞬で処理する必要があります。相手の守備隊形なども確認しておく必要がありますし、ポジションを変えてランナーからよく見える位置に立って指示を出したりと、常に準備が欠かせません。

さらに、打者やランナーに対して、ブロックサインなどでベンチからの指示を伝達することもあります。コーチでありながら選手と近い位置にいて、その働きが勝敗を左右することもある。もはや「10人目の選手」と言ってもいいでしょう。

今夜の試合は三塁コーチに目がいくこと間違いなし......です! 今夜の試合は三塁コーチに目がいくこと間違いなし......です!

何より経験が必要なポジションだということがわかりますね。積極的に攻めるだけではなく、時には抑止することで信頼を積み重ねる。しかし、その信頼をひとつのミスであっという間に失いかねない、怖い仕事でもあります。

高校野球などでは、三塁コーチというと試合に出られない選手が担うイメージがあるかもしれません。しかし実際は、三塁コーチ専門の練習があるくらい、特殊かつ重要なポジションなのです。

今シーズンからエンゼルスで監督を務めるロン・ワシントン監督は、2010年から2年連続でレンジャースをワールドシリーズに導いた名将です。それゆえに、2016年10月にブレーブスの三塁コーチに就任すると発表された時は、驚いたファンも多かったようです。会社で言えば、大企業の社長として結果を残した方が、違う会社に部長として入り直すような感じでしょうか。

ただ、アメリカでは監督を務めた方が三塁コーチに就任することは珍しくないそうです。三塁コーチがどれだけ重要視されているかがわかりますね。

ランナーが本塁に突入してセーフになれば選手の手柄、アウトになったら三塁コーチの責任ともなりがちです。また、絶妙な判断でランナーにストップをかけても、そのファインプレーは記録に残りません。しかしその積み重ねによって、チームを勝たせることができる三塁コーチへと成長するのでしょう。

子供向けの職業体験型テーマパーク「キッザニア」で野球関連のアクティビティがあったら、私は三塁コーチを体験したいです。そして、判断の難しさなどを身をもって知りたい!

みなさんも次の試合は、三塁コーチの立ち振る舞いに注目してはいかがでしょうか。それでは、また来週。

★山本萩子(やまもと・しゅうこ)
1996年10月2日生まれ、神奈川県出身。フリーキャスター。野球好き一家に育ち、気がつけば野球フリークに。
2019年から5年間、『ワースポ×MLB』(NHK BS)のキャスターを務めた。愛猫の名前はバレンティン

★山本萩子の「6-4-3を待ちわびて」は、毎週金曜日朝更新!