オグマナオトおぐま・なおと
1977年生まれ。福島県出身。雑誌『週刊プレイボーイ』『野球太郎』『昭和40年男』などにスポーツネタ、野球コラム、人物インタビューを寄稿。テレビ・ラジオのスポーツ番組で構成作家を務める。2022年5月『日本野球はいつも水島新司マンガが予言していた!』(ごま書房新社)を発売。
パリ五輪出場権をかけた熱い戦いがいよいよ今週から始まる大岩ジャパン。大会の見どころ、勝ち抜くためのキーマン、大きな壁として立ちはだかる強敵など、さまざまな視点で分析する。
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今夏に開催されるパリ五輪出場をかけ、アジア最終予選を兼ねたU-23アジア杯(カタール)に挑む、われらがサッカー・U-23日本代表。
1996年のアトランタ五輪以降、7大会連続出場している日本は、今大会で3位以内に入れば、パリ五輪への出場権を獲得。4位となった場合は、アフリカ4位のギニアとの大陸間プレーオフに回ることになるが、今大会にはいくつもの不安要素があるため、〝史上最も過酷なアジアの戦い〟ともいわれている。
過去、日本が何度も辛酸をなめてきた中東が開催地であること。そして、宿敵・韓国をはじめ、中国、UAEという難敵ぞろいのグループリーグに入ったこと。
さらに、国際Aマッチデー期間外となるため、この世代を牽引してきたMFの鈴木唯人(デンマーク・ブレンビー)を筆頭に、欧州で活躍する選手の多くを招集できなかったことなど、さまざまな不安要素があるのだ。
そんな過酷な大会を勝ち抜く上でキーマンになるのは誰なのか?
まずは〝攻撃の軸〟について、サッカーライターの川端暁彦氏がこう語る。
「日本のポテンシャル的には五輪本大会でメダルを狙える可能性も十分にあります。だからといって、アジアの戦いが楽勝かといえば別もので、シビアな戦いが待っている。そこで攻撃の軸となるのは、フル代表の経験もあるFWの細谷真大(柏レイソル)です」
細谷といえば、今年1月に行なわれたアジア杯でA代表にも招集されたストライカーだが、その後に開幕したJリーグではこれまでノーゴールと結果を出せていない。
「調子が上がらないとはいえ、この世代のエースなので、細谷が軸になってくれないと。ちなみに、細谷はこれまで9番や11番を着けていましたが、今回は19番。スカウティング(相手チームの分析)を妨害する意図で背番号をシャッフルすることはあるので、攪乱させる意図もあるのかも」
同様に、細谷のストライカーとしての魅力を解説してくれるのは、戦術分析官としてYouTubeで人気を博し、クラブチームの監督も務めるレオザフットボール(以下、レオザ)氏だ。
「細谷は確かにまだ本調子ではないですが、相手にがっつりマークされたり、削られる場所でボールを受けたりしても、そこから強引に持っていける、今までの日本人選手にあまりいないタイプ。調子さえ戻れば、本当に頼りになります。
仮に細谷の調子が戻らなくても、藤尾翔太(町田ゼルビア)や荒木遼太郎(FC東京)など、能力が高く、信頼できる選手たちがいます」
MF陣では背番号10、ドイツ・ブレーメンでプレーする佐藤恵允を川端氏は推す。
「高校まで無名で、大学で花開いた選手。特に大岩剛監督がこの世代の指揮官になってから代表常連になりました。秘蔵っ子に10番を託したともいえるだけに、『おまえがやってくれよ』という期待感も大きいはずです」
レオザ氏は、現在J1首位を走る町田ゼルビアの主軸、平河 悠を「日本のエースになりうる存在」と語る。
「三笘 薫(ブライトン)や伊東純也(スタッド・ランス)のように局面を打開できる存在。ボールを預けたときに強引にシュートまで持っていく力、チャンスメーク力は、今回のメンバーで平河が一番高いと思っています」
続いて〝守備の軸〟について。くしくも川端氏、レオザ氏共に挙げたのはサイドバックの半田 陸(ガンバ大阪)だ。
「半田はセンターバックが裏を取られたりした場合でも、サイドから中央を助けることができる。さまざまな状況に対して頭を使って対応できる力があり、フル代表でも見てみたい選手です」(レオザ氏)
川端氏は加えて、半田の経験値を高く評価する。
「この世代のネックは、コロナ禍で2021年のU-20W杯などが中止となり、国際大会の経験が少ないこと。半田は、19年のU-17W杯予選でアジアを1位突破した経験があり、本大会でもベスト16まで進んだチームの主将を務めているので、非常に頼もしい選手です」
もうひとり、〝攻守の要〟としてレオザ氏が挙げたのは、昨季アジア年間最優秀ユース選手賞に輝いた20歳の松木玖生(FC東京)だ。
「メンタル的な柱は松木だと思います。理詰めでプレーできて感覚もよく、体も強い。言語化能力もある。頭の良さも含め、僕は〝ピッチ上の監督〟として期待しています」
2年4ヵ月にわたって指揮を執ってきた大岩監督の評価はどうなのか?
そもそも、レオザ氏が〝ピッチ上の監督〟の役目を重視するのは、大岩監督の物足りなさに起因している。
「鹿島の監督時代(2017~19年)から戦局が読めず、ディテールが詰められない。ある試合では、明らかに前線にボールが運べていないのに、手元の戦術ボードで前線の動きを必死に検証していて驚いたことがあります」
代表選手発表の会見で「ラッキーボーイが出てきてほしい」と発言したことも、「いかがなものか」と提言する。
「ラッキーボーイという考え方自体が大岩さんを表しています。監督とは本来、とことん準備を重ね、約束事をしっかりつくった上で、最後にほんの少し期待するのが〝運〟のはず。なのに、大岩さんのサッカーを分析すると再現性が低く、必要な細部を詰めず、ラッキー待ちに見えます。
日本は優秀な選手が多いのでなんとかなるときはありますが、そのなんとかする幸運(ラッキー)に頼ってしまっていることが代表コーチ陣の過失です」
先月敗れたU-23マリ代表との親善試合(●1-3)でも、その「約束事のなさ」が表れていたという。
「マリはロングボールを使ったり、フィジカルバトルが多くなる戦い方を選ぶこともありました。その際、本来であればボールの出どころをどう抑えるか、ディフェンスラインだけで対応できないなら中盤でどう挟み込むかが問われるのに、そういう動きはまったくなかった。
後ろからボールをつなぐときも、自分たちの配置が悪いのに、技術だけに頼るからボールを奪われやすい。守備の型も攻撃の型もつくっていない証拠です」(レオザ氏)
では、マリに敗れた直後に勝利したU-23ウクライナ戦(○2-0)、昨年のU-22アルゼンチン戦(○5-2)は何が良かったのか?
「相手が〝夢を追ったサッカー〟をしてくれると、日本にもチャンスが生まれます。カタールW杯もドイツやスペインがそうでした。アジアが相手だと日本が格上になるため、マリのように日本が嫌がるサッカーをする国が出てくる可能性はあります」(レオザ氏)
一方、川端氏は大岩監督の「鹿島時代からのアップデート」について言及する。
「大岩監督自身が『鹿島時代と今では、指導者としての考え方が違う』と言っていました。大岩監督が〝5人のゲームチェンジャー〟とよく表現するように、ここ数年、交代枠が5人になるなど、サッカーが変化しています。
『昔の自分は交代をちょっと我慢するタイプだったけど、今はゲームチェンジャーをどう使うか、最初からゲームプランを持っている』と言っています。その言葉を信じたいですね」
今大会は、中2日の過密日程での戦いが続く。まずはグループリーグ2位以上を決めて勝ち上がらなければ話にならないが、どんなチーム運用が求められるのか?
「大岩監督も『パワーが必要なグループ』と表現しています。要するに、グループリーグは7割ぐらいの力に抑え、決勝トーナメントから全力、というようなやり方が許されない強敵ぞろいです」(川端氏)
初戦の相手は中国だ。
「日本以上にコロナ禍での規制が厳しく、国際試合の回数が激減。日本代表スタッフも『情報がない』と話していました。そういった不気味さはありますが、中国の選手も必要な国際経験を積んでいないともいえます。出たとこ勝負になりますね」(川端氏)
第2戦はUAE。開催地カタールの隣国だけに、UAEからすればホームに近い感覚で戦えるだろう。
「中東で戦うUAEはいつも強い。技術のある選手もそろっていますし、簡単な試合にはならないはずです」(川端氏)
そして、最後に韓国との一戦が控えている。
「できれば韓国戦の前に2勝して、余裕を持って臨みたい。ただ、2連勝しても突破が決まらず、韓国戦がサバイバルマッチになる可能性もあります」(川端氏)
さらに、五輪出場のためには決勝トーナメントで3試合を戦い抜く必要がある。
「大岩監督も『6試合を戦い抜く意識で運用する』と言っていました。ただ、グループリーグを突破できなければ意味がない。日本は半分くらいメンバーを代えながら戦っていくはず。まさにチームの総合力が問われます。
ただ、日本代表のスタッフは中2日の連戦へのノウハウも持っています。むしろ、心配すべきは中東での長期滞在で、体調を崩してしまう選手がどうしても出てくること。臨機応変さが求められます」(川端氏)
ちなみに、決勝トーナメント初戦となる準々決勝で当たる可能性が高いのはカタール、オーストラリア、ヨルダンだ。
「ヨルダンが一番嫌ですね。開催国のカタールも嫌ですが、後ろからきっちりつなぐ理詰めのサッカーをしてくるので、日本は対応しやすい。オーストラリアも同様です。でも、ヨルダンは割り切って、日本が苦手な引いて守ってカウンター勝負という〝アジアの戦い〟をしてくるはずで、苦戦しそうです」(川端氏)
こう見ていくと、五輪出場へ不安要素ばかり、とも言える今大会だが、「だからこそ、これ以上ない面白い大会になる」と川端氏は話を続ける。
「本当に厳しい戦いですが、逆に言うと、負けたら終わりの緊張感の中で戦える環境は、近年のフル代表のW杯予選では味わえないシビアな要素であり、サッカーの醍醐味です。
その環境で戦うことで、若い選手たちは自信をつけてどんどん伸びていく。だからこそ、五輪出場がかかる準決勝や3位決定戦だけ見ればいい、という考えはもったいない。ぜひ初戦から追いかけてほしいです」(川端氏)
実際、過去にも五輪予選や五輪本大会での失敗や経験を糧に、さらなる成長につなげた選手がいる。リオ五輪主将だった遠藤 航(リバプール)が代表例だろう。
「あのときの代表には南野拓実もおり、『未来のリバプールの選手』がふたりもいたことになる。特に遠藤に関しては、『将来、リバプールでレギュラーになる』とは当時、誰も想像していなかったはず。今回の代表にも、未来のマンチェスター・シティの選手がいるかもしれません」(川端氏)
レオザ氏も、「若手選手たちのポテンシャルの高さを信じてほしい」と語る。
「監督のチームづくりが稚拙なチームでも、選手の力の総合値が〝相手選手の総合値×チームづくり〟を上回れば勝てます。つまり、選手の力だけで勝てるくらい日本が相手国を上回れば、五輪に出られる力があるということ。
皮肉ではなく、これが日本の現実なので、代表コーチ陣を生暖かく見守りながら、選手たちのことは熱く応援したいです」
パリ五輪出場に向け、絶対に負けられない熱い戦いがいよいよ幕を開ける。
1977年生まれ。福島県出身。雑誌『週刊プレイボーイ』『野球太郎』『昭和40年男』などにスポーツネタ、野球コラム、人物インタビューを寄稿。テレビ・ラジオのスポーツ番組で構成作家を務める。2022年5月『日本野球はいつも水島新司マンガが予言していた!』(ごま書房新社)を発売。