MF平河悠(左)とFW藤尾翔太(右)。初のJ1で首位スタートを切った町田の攻撃を共に牽引 MF平河悠(左)とFW藤尾翔太(右)。初のJ1で首位スタートを切った町田の攻撃を共に牽引

パリ五輪のアジア最終予選を兼ねたU-23アジア杯(カタール)。3.5の出場枠獲得を目指すU-23日本代表(以下、五輪代表)のキーマンとして期待されるのが、J1昇格1年目ながら堂々首位を走る(第7節終了時点)町田のMF平河悠とFW藤尾翔太のふたりだ。

50mを6秒台前半で走るスピードを生かしたプレーが持ち味の平河は、今年3月のマリ、ウクライナとの親善試合2連戦で招集メンバー中、最も長い出場時間を得ると、代表帰りとなったJ1の鳥栖戦(第5節)では自身初の1試合3アシストをマーク。

左右どちらも器用にこなすウインガーは、好調の町田で今季ここまで全試合に先発出場するなど、Jリーグ屈指の若手注目株といえる。

ただ、五輪代表の多くの選手がユース世代からエリート街道を歩んできているのに対し、平河はいわゆる"非エリート"。佐賀県内の強豪・佐賀東高校3年時にインターハイ出場経験はあるものの1回戦負け。山梨学院大学時代には2、3、4年と3年連続で得点王に輝いたが、関東3部相当に当たる東京都大学1部リーグでの話である。

2021年12月に発足した大岩剛監督率いるパリ五輪世代のチームに招集されたのも、昨年6月の欧州遠征時が初めて。それまで日の丸には縁がなかった。

「高校時代はプロになれるとは思ってなくて、(卒業後の)就職を考えていた時期もありました。大学でも(3年連続)得点王になりましたが、ドリブルでDFをかわすと、すぐにGKと1対1になれるようなリーグでしたから(笑)。

ただ、成長期が大学になってから来たというか、何か特別な練習をしたわけでもないのに急に足が速くなって、結果も出て、少しずつ自信がついてきたという感じです」(平河)

プロ1年目の昨季は終盤にスタミナ不足を露呈した試合もあったが、町田の黒田剛監督が辛抱強く起用し続けたことで急成長。初挑戦のJ1の舞台でも自慢のスピードを武器に躍動し、五輪代表でも欠かせない存在となった。

「去年の欧州遠征時に初めてパスポートをつくって、初めて海外に行きました。海外では気候も違うし、選手の体つきも違う。ただ、サッカーをする上ではそこまでギャップを感じていませんし、試合をやるたびに順応できている気はします。最終予選でもよけいなことは考えずに自分の力を100%出すだけだと思っています」(平河)

一方の藤尾も予選前最後のリーグ戦出場となった川崎戦(第7節)で決勝ゴールを挙げたほか、ここまでチームトップの3得点。五輪代表ではFWだけでなく、状況に応じてウイングもこなすなど前線のユーティリティプレーヤーとしての活躍も期待される。

代表歴の浅い平河に対し、大岩ジャパンの常連でもある藤尾は、2年前にU-23アジア杯を経験済み(日本はU-21代表が出場)。同大会では準決勝で地元ウズベキスタンに敗れ、3位で大会を終えるなどアジアで戦う厳しさを痛感している。

「(ベスト8で敗退した年明けの)A代表のアジア杯を見ても、アジアの戦いは簡単じゃない。そういう中で勝ち上がって出場権を手にするためには、やっぱり僕を含めたFW陣が点を取らないと......。逆に取れなければ苦しくなるし、少ないチャンスを決め切れるようにいい準備をして臨みたい」(藤尾)

世代別代表の経験も豊富な藤尾に国際試合を戦う際に心がけていることを聞くと、「やられる前にやること」とはっきり口にした。

「グループリーグで対戦する中国もUAEも韓国もバチバチに来るはず。相手にケガをさせるとかじゃないですけど、やっぱり弱気になったらやられる。だから、とにかくやられる前にやるっていうのは自分の中で決めています。まあ、それはJリーグの試合でも一緒ですけどね(笑)」(藤尾)

そんな藤尾はカタールに向かう前に、試合前のルーティーンとしてデジタルデトックスをして集中力を高めていることを明かしてくれた。

「試合前日はメッセージも見ないですね。スマホをずっと見ていると視野が狭くなる気がして......。夜8時半くらいにはベッドに入って、部屋を暗くしてアロマキャンドルを灯して、好きな音楽をかけて、眠くなったら寝るみたいな。

海外遠征中もスマホを見るよりも、部屋でコーヒーを飲みながらゆっくり外を眺めたりして、なるべくリラックスするようにしています」(藤尾)

平河と藤尾は共に昨季以降、町田で元青森山田高の黒田監督の指導を受け、選手としてひと皮むけた感があるが、代表での戦いに向けてはどんなアドバイスを受けているのかも気になる。

「戦ってこい、だけですね」(平河)

「特に何も言われてません(笑)」(藤尾)

攻撃力を売りにしながら、守備でも一切手を抜くことのないふたり。クラブと代表ではそれぞれ戦い方やシステムも異なるが、今季の町田で見せてきた献身性の高いプレーは、アジアを相手にした戦いでもチームの助けになりそうだ。

最終予選を突破してパリ五輪本大会に出られるか否かは、ふたりの今後の選手キャリアを考えても大きな分岐点になるだろう。

「今、代表で活躍されている方の多くは五輪経験者。自分も最終的にはA代表で活躍したいので、そのためにもまずは予選を突破したいです」(平河)

「アジアの戦いは何度やっても難しい。キャリアのことが大事なのはもちろん、自分自身の成長のため絶対にパリに行きたい」(藤尾)

かつてない厳しい戦いが予想される最終予選だが、絶好調の"町田コンビ"に期待したい。