■里崎と五十嵐、お互いの印象は?
――今回から始まる「ライフハックベースボール」連載。何を聞かれても何でも答えられるおふたりに、人生のこと、恋愛のこと、仕事のこと、人間のこと......、森羅万象、ありとあらゆる哲学的なことについて、野球と絡めつつ語り合っていただきたいと考えています。
里崎 人生相談、お悩み相談的なことですよね。大丈夫、任せてください!
五十嵐 僕が思っていること、普段考えていることは何でも包み隠さずお話します。まぁ、サトさんがいれば大丈夫ですよ。
――連載1回目ということで、まずはおふたりの関係性、それぞれの印象について伺いたいと思います。年齢は3歳違い、出身高校は徳島県の鳴門工業高校と千葉県の千葉敬愛学園高校、在籍していたチームはパ・リーグの千葉ロッテマリーンズとセ・リーグの東京ヤクルトスワローズということで、現役時代はほぼ接点はないですよね?
里崎 そもそも僕は他人と関わることがほとんどなくて、他球団の知り合いはほぼいないですけど、亮太との接点もゼロでした。せいぜい「確かに、言われてみたらキムタクに似ているな」という程度の印象。......あっ、2005(平成17)年のオールスターで全球フォークボールを投げられて、フォアボールだったという経験があるぐらいですね。
五十嵐 えっ、そんなことあったっけ? 全球ストレートならわかるけど、全球フォークなんて闇を感じますね。当時、何かで病んでいたのかな(笑)? 僕から見たサトさんの印象は、日本代表入りもしていたし、"打てるキャッチャー"という印象が強かったです。
里崎 むしろ、亮太が現役引退してからテレビで一緒になることが増えて、いろいろ話すようになった。そんな感じですかね。
五十嵐 僕が2020(令和2)年に現役引退したときには、すでにサトさんはメディアで活躍していたので、同じ現場で会う機会が多かったですね。映像で見ていた姿と、実際のサトさんがまったく一緒で、何もギャップがなかった。まったく嘘のない、裏表がない人なので「すげぇな」って思って見ていました(笑)。
■自分が絶対に勝てないレースでは勝負しない
――里崎さんから見て、実際に会ってみた五十嵐さんの印象はいかがでしたか? おふたりとも球界OBとして一、二を争うほどに仕事が殺到していますが、「評論家、コメンテイターとしてのライバルが現れた」と感じたり、「キャラ被りによるポジションの奪い合い」みたいに思ったりしたことはなかったですか?
里崎 僕に言い返してくれる人って少ないんですよ。でも、亮太はいろいろと言い返してくる。意見を言ってくれないと、その人が何を考えているのかわからないし、議論も成り立たない。だから亮太といると楽しいし、新しい発見もあるから、こちらとしても「もっとしゃべろうか」という気になってきますよね。ライバル視することもなかったですよ。僕、そもそも他人に関心がないから(笑)。
五十嵐 僕も他人の目は気にならない。ただ、「元プロ野球選手」という肩書きは一緒でも、仕事をもらえる人・もらえない人っているじゃないですか。その点で、仕事をいただけているうちは「自分がやってきたことは間違いじゃないんだな」と思いますよね。あくまでも"自分"なので、その点でもサトさんのことをライバル視することはないですよ。
里崎 普段生活していても、アラブの石油王のことを「大金持ちでうらやましいな」なんて思わないじゃないですか。だって、自分とはまったく関係のない世界のことだから。たとえそれが自分に関係のある世界であっても、あくまでも自分は自分で、他人のことを気にしてもしょうがないでしょ。
五十嵐 メディアに出てしゃべる仕事が増えているけど、結局は「自分が思ったことをしっかり言葉にして発信すること」、これが大事なわけで、「自分をカッコよく見せたい」と嘘をついたり、見栄を張ったりするのはカッコ悪いこと。その点、サトさんは嘘をつかない人だから信用できるよね。
里崎 「他人」ということで言えば、僕が意識しているのは「自分が勝てるレースで勝負する」ということですね。たとえば、地上波のテレビ局が「キャッチャー出身の評論家をゲストに呼ぼう」と考えたときに、真っ先に名前が挙がるのは古田敦也さん、谷繫元信さんでしょ。そこで勝負したら僕は絶対に勝てないから、同じレースでは戦わない。だったら、自分が1位になれるレースを自分で作ります。
五十嵐 とはいえ、そのレースの土台となるのはやっぱり「野球」だと思うから、サトさんが言うほどまったく別のレースだとは僕は思わないな。ただ、こうやって自分の手の内をさらけだすというか、ハッキリと「僕は絶対に勝てない」と言うところにサトさんの強さ、カッコよさがあるんだと思いますね。
■僕は「球界の『ドン・キホーテ』」(里崎)
里崎 僕は『ドラゴンクエスト』で言うと、レベルが低いんですよ。
五十嵐 そんなことないよ、サトさん。
里崎 いや、レベルはそんなに高くない。だから、いい武器を買って装備しなくちゃいけない。古田さんがレベル50だとしたら、僕はせいぜいレベル20程度。だから、自分のYouTubeでは誰もやらない、いや、やりたがらない「全試合総チェック」をやったりするんです。レベル50の人がやらない仕事をすることで、生きていくしかないから。
五十嵐 でも、誰もが「いい武器を持ちたい」と思いながら持つことができないのに、自分のYouTubeという武器を持って、12球団の全試合を解説するという強いコンテンツを持てているんだから、やっぱりサトさんのレベルも高いんですよ。
里崎 いや、YouTubeなんて誰でも開設できるでしょ。全試合チェックにしても、時間はかかるけど、やろうと思えば誰でもやれる。手間をかければいいだけだから。でも、自分ではそれを「大変だ」とか「面倒だ」とは思わないですけどね。
五十嵐 その気持ち、すごくよくわかる。僕らが共通しているのは「仕事を仕事と思っていないこと」じゃないのかな? イヤな仕事ってほとんどないもん。だから、「仕事を失う恐怖」もないからね。心がけているのは、さっきも言ったように「自分の感じたことを、嘘をつかずに誠実に伝える」ということぐらい。嘘がないからつらさを感じることもないですね。
里崎 僕の場合、「頼まれた仕事は何でも受ける」ということを心がけているけど、同時に「できない仕事は受けない」のも大事にしていますね。だから、僕は自分のことを「球界の『ドン・キホーテ』」って言っているんです。そこに行けば何でも売っている。でも、エルメスみたいな高級品は売っていない。そんなスタイルでやってます。
五十嵐 そこもサトさんの強みだよなぁ。やっぱり、僕はエルメスのバーキンを売りたいもん(笑)。
里崎 僕だって、売れるものなら売りたいけど、僕にはバーキンの仕入れルートがない。だったら、それにこだわっているんじゃなくて、別のものを売ったほうがいい。実現しない理想をいくら追い求めても無駄なんだから、現実を見たほうがいいでしょ。
――「まずは自己紹介から」と考えていたのですが、いきなり初回から仕事論や人生観の様相を呈してきました(笑)。では、次回からはテーマを決めて、本格的に連載スタートとしましょう。
里崎・五十嵐 わかりました。次回もよろしくお願いします!
(第2回に続く)
【プロフィール】
●里崎智也(さとざき・ともや)
1976年5月20日生まれ、徳島県出身。鳴門工(現鳴門渦潮)、帝京大を経て1998年のドラフト2位でロッテに入団。正捕手として2005年のリーグ優勝と日本一、2010年の日本一に導いた。日本代表としても、2006年WBCの優勝に貢献し、2008年の北京五輪に出場。2014年に現役を引退したあとは解説者のほか、YouTubeチャンネルなど幅広く活躍している。
公式YouTubeチャンネル『Satozaki Channel』
●五十嵐亮太(いがらし・りょうた)
1979年5月28日生まれ、北海道出身。1997年ドラフト2位でヤクルトに入団し、2004年には当時の日本人最速タイ記録となる158キロもマークするなど、リリーフとして活躍。その後、ニューヨーク・メッツなどMLBでもプレーし、帰国後はソフトバンクに入団。最後は古巣・ヤクルトで日米通算900試合登板を達成し、2020年シーズンをもって引退した。現在はスポーツコメンテーターや解説として活躍している。