プロ野球の「主役」は? その答えは「選手」で間違いないと思います。

では、それ以外は「脇役」なのでしょうか。今日は「縁の下の力持ち」について考えたいと思います。

そもそも、縁の下の力持ちの意味は何でしょうか。辞書を引くと「人には見えないところで力をつくし、苦労すること(人)のたとえ。脚光を浴びていないが、陰で重要な役割を果たす者のたとえ」とあります。

野球における主役はもちろん選手である、と先ほど言いましたが、選手のなかでも注目を浴びることが多いエースや4番だけが主役かというと、そんなことはありません。リリーフや下位打線の選手だってヒーローインタビューを受けるシーンは多々ありますし、どんな選手も主役になれる瞬間があるのが、野球の素晴らしいところだと思います。

それでは、選手以外はどうでしょう。試合中、コーチ陣にスポットライトが当たることはありませんし、マネージャーや広報さん、トレーナーさんなどは中継に映る機会さえありません。これぞまさしく、縁の下の力持ちだと思うのです。

これはテレビ番組の現場と似ています。たとえば、私がキャスターとして画面に映るから、その番組の主役かといえば、決してそんなことはありません。あくまで番組を作る製作者のひとりだと思っています。

番組が作られるまでに、多くのスタッフさんが関わっています。そのほとんどの方が画面に映ることはありませんが、現場にはカメラ、音声、照明、演出などを担当するスタッフさんたちがいます。放送する際には編集という作業も入りますね。

彼らはそれぞれの専門分野のプロフェッショナルで、それぞれの仕事を高いレベルで遂行するからこそ、クオリティーが高いものが生まれます。一見、プロの仕事は地味に感じられることもあるかもしれません。しかし、個々の力が組み合わさったときに、より素晴らしいものが生まれます。

まだ4月末だというのに、すでに真夏のような服装をしている山本です。夏本番は何を着るやら...... まだ4月末だというのに、すでに真夏のような服装をしている山本です。夏本番は何を着るやら......

雑誌をイメージしていただけると、よりわかりやすいかもしれませんね。文章を書く、写真を撮る、それらを並べる。「それだったら、自分でもできるよ」という方もいるかもしれません。スマホでテキストを打ち、スマホのカメラで写真を撮り、それらをレイアウトすれば"雑誌のようなもの"ができあがるでしょう。

しかし雑誌は、文章を書くプロ、写真のプロ、デザインのプロがいて、それぞれが高いレベルで仕事をした結果、「お金を出してもほしい」と思えるものができあがります。「できる→お金をもらえる」という域に達するには、時間と経験、多大な努力が必要であるということですね。

私の旦那さんは、地元の愛媛県でレギュラー番組を持っているのですが、「ロケでいつものベテランカメラマンさんがいると安心する」と言っていました。私も取材でシアトルに行ったとき、現地でMLBを専門にしているカメラマンさんとロケをしたことがあり、細かく指示を出してくれたのでとてもやりやすかったです。画面には映らないけれど、スタッフさんの質は番組の仕上がりに大きな影響を与えていると実感しました。

野球も、プロの仕事の積み重ねです。

2021年、エンゼルス時代の大谷翔平選手がオールスターに出場した際、ホームランダービーで獲得した賞金をスタッフに贈呈しました。そのように裏方さんに恩返しをするのは、日米を問わず根づいている文化です。自分たちがいかに支えられているか、選手たちもわかっているんでしょうね。

そうやって他人に感謝できる選手こそ、長くプロで活躍できるのかもしれません。裏方のみなさんも、そんな選手が最高のパフォーマンスを発揮してくれるのは、きっとうれしいに違いありません。

最後になりますが、この原稿を通じて言いたいのは、「いろいろな、プロの姿がある」ということです。

私たちの社会生活も同じかもしれません。華やかな職場とそうでない職場。希望した職と、そうでない職......。しかし、どちらが主役でどちらが脇役、という話ではありません。それぞれが自分の役割をまっとうし、時に力を合わせるその先に、充実した毎日があるように思います。

私も、「自分はプロである」と胸を張れる人生を送れるように頑張ります。それではまた。

★山本萩子(やまもと・しゅうこ)
1996年10月2日生まれ、神奈川県出身。フリーキャスター。野球好き一家に育ち、気がつけば野球フリークに。
2019年から5年間、『ワースポ×MLB』(NHK BS)のキャスターを務めた。愛猫の名前はバレンティン

★山本萩子の「6-4-3を待ちわびて」は、毎週金曜日朝更新!