U-23アジアカップをフカボリ! U-23アジアカップをフカボリ!
不動のボランチとしてジュビロ磐田の黄金期を支え、2006年開催のドイツワールドカップには、日本代表の中心メンバーとして出場。日本サッカーが世界水準へと飛躍していく瞬間をピッチの中央から見つめていた福西崇史。

そんな福西崇史が、サッカーを徹底的に深掘りする連載『フカボリ・シンドローム』。サッカーはプレーを深掘りすればするほど観戦が楽しくなる!

第94回のテーマはU-23アジアカップについて。見事アジアカップを優勝し、パリ五輪への切符も勝ち取ったU-23日本代表。カタールでの激闘を福西崇史が振り返る。

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先日、カタールで開催された「AFC U23アジアカップ カタール2024」で日本がアジアチャンピオンとなり、3位以内に入ったことで8大会連続12度目の「パリ2024オリンピック」への出場権を勝ち取りました。五輪出場権獲得だけに満足せず、日本として4大会ぶりの優勝を成し遂げたことは本当に素晴らしい結果だったと思います。

グループリーグ初戦の中国戦では、開始8分でMF松木玖生が早々と先制しましたが、17分にDF西尾隆矢が一発退場となるアクシデントがありました。早い時間帯で10人となる想定外のことが起こりながらよく我慢をして勝ち切ったことは非常に評価できると思います。

今大会はVARの介入で退場処分となる試合が多く、西尾の退場はその後の試合に臨むにあたって判定基準に気をつけなければいけないと教訓になる試合だったと思います。

第2節のUAE戦は、ある程度力の差があるなかで日本が圧倒し、2-0で確実に勝ち点3を獲得しました。UAEが日本をリスペクトして守りに入ってくれたおかげでリスク管理もしやすく、内容的にはもっと得点を奪えてもよかったと思います。

2連勝したことでグループリーグ突破を決めることができましたが、首位通過を狙う第3節の韓国戦では0-1で敗れました。内容的には勝たなければいけない試合だったと思うし、最終的に差を生んだのがセットプレーだったというのは日本がまだ本当に強いチームになりきれていないと思わせるものでした。

準々決勝のカタール戦は気持ち的に一番追い込まれた試合だったと思います。負けたら終わりというプレッシャーのなかで堅い試合になると予想していましたが、開始2分に相手のミスからMF山田楓喜のスーパーゴールで先制しました。

この先制点で日本が優位に試合を進められると思いましたが、FWアーメド・アル・ラーウィーのヘディングで追いつかれました。

そして41分にGKユセフ・アブドルラハマン・バリヤディが一発退場となって日本が一人多くなったにもかかわらず、49分にセットプレーで逆転を許しました。日本に油断があったとは思いませんが、往々にしてこういうことがあり得るというサッカーの怖さだったと思います。

そんななかで、67分というまだ余裕のある時間帯にCKからDF木村誠二のゴールで追いつけたことはよかったと思います。これがもっと遅い時間帯であれば、よりリスクを冒して点を取りにいかなければならず、難しい展開になっていたと思います。

一人多いということで延長戦になれば疲労度的に優位なのは日本。そのなかでFW細谷真大とDF内野航太郎のゴールできっちりと勝ち切りました。

勝てばパリ五輪出場権獲得という準決勝のイラク戦は、相手がかなりリスペクトして積極的にプレッシャーをかけてくるのではなく、構えてくれたおかげで日本としてはかなり楽な序盤からの展開だったと思います。

そんな展開から前半28分にMF藤田からのパスで抜け出したFW細谷が鮮やかなトラップからターン、そして冷静に流し込んだシュートで先制しました。普段の細谷ならば振り抜いたシュートを打ちそうな場面でしたが、カタール戦でゴールを決めたことで肩の力が抜けたのか、まるでゴールにパスをするようなフィニッシュは見事でした。

後半にイラクが点を取ろうと前から積極的にきた時間帯にバタバタしたので、日本としては始めからそうしてこなかったことは助かりました。いずれにしても五輪出場が懸ったプレッシャーの大きな大一番で、最後まで落ち着いて勝てたことはよかったです。

決勝のウズベキスタン戦は、相手は失点ゼロで勝ち上がってきただけあり、非常に組織だったチームでした。立ち上がりから相手の積極的なハイプレスに日本はビルドアップで苦労し、とくに前半はうまくゲームを運ぶことができませんでした。

拮抗したゲームが続いたなかで、後半アディショナルタイム1分にMF山田が決勝ゴールを決めました。カタール戦に続いて、山田が武器である左足のキックを見せつけてくれました。プレッシャーのなかで決め切る見事なクオリティだったと思います。

そして後半アディショナルタイム10分、ウズベキスタンに献上したPKをGK小久保玲央ブライアンがPKストップ。スピードもコースも決して甘くなかったボールを見事に読み切ったスーパーセーブで、日本の窮地を救ってくれました。

パリ五輪出場、アジアチャンピオンを勝ち取った今大会のU-23日本代表は、各ポジションに控えも含めて質の高い選手が揃い、大会を通して右肩上がりにまとまっていった好チームだったと思います。

今大会の正GKとなった小久保は、中国戦ではややキャッチングの不安定さがあったものの、その後は試合を重ねるごとに安定して、抜群のセービングで存在感と安定感を示しました。この大会で非常に成長した選手の一人だと思います。

初戦で西尾が退場になったことで、DF高井幸大とDF木村誠二が主なCBコンビとなりましたが、高さと互いのカバーリング意識の高さ、足元の技術もある良いコンビでした。両サイドバックのDF関根大輝とDF大畑歩夢も攻守に質の高さと積極性、安定感がありました。

中盤はMF藤田を中心にMF松木玖生やMF山本理仁、MF川﨑颯太、タイプの異なるMF田中聡など層の厚いメンバーが揃っていて競争力があって、チームの強みであり、軸だったと思います。

またMF平河は町田でも存在感を示しているようにサイドで勝負できる突破力は、今大会でも効いていました。うまくいかないときでもスピードを生かして打開してくれる存在は貴重でした。

右サイドのMF山田は準決勝、決勝のゴールはもちろん、中国戦のアシストも左足のクオリティはさすがの一言。中へ絞ったときのアイディアもあったし、DF関根とのコンビネーションも試合を重ねるごとによくなっていったと思います。

今大会もっとも印象に残ったのは、大会MVPにも輝いたMF藤田です。もともとこれくらいやれる選手ではありましたが、大会を通して別格の存在感だったと思います。アンカーでの捌(さば)きはもちろんですが、前に上がったときの起点作り、リズムの変化が抜群でした。

ライン間でボールを積極的に受け、独特のタッチで相手を飛び込ませずに前を向く、あるいは逆を突くワンタッチパスやドリブルで相手のリズムを崩すプレーはMF藤田が一番効果的にやっていました。イラク戦でのMF藤田のワンタッチからMF荒木のゴールはそれを象徴するようなシーンだったと思います。

変化をつけるというところでは、MF荒木も次に印象に残る選手でした。カタール戦のFW細谷、決勝のMF山田へのアシストなどがまさにそういったプレーで、狭いライン間でもパスを受けることができて、そこからのパスのアイディアが相手の守備組織やリズムを崩してくれました。

今大会のメンバーは23人でしたが、パリ五輪では18人に絞られます。さらにオーバーエイジの3人を加えるとなると、15人しか本大会のチームには選ばれません。チーム事情で今大会には呼べなかった選手たちもいるので、15人に残るのはかなり厳しい競争になります。

それでもできれば今大会のチームをベースに、パリでも戦ってほしいと思います。それくらいチームがまとまっていたし、応援した人たちも思い入れのあるチームになったと思います。パリ五輪の初戦は7月25日で残り2ヶ月半くらいしかありません。アジアチャンピオンを引っ提げて日本がどのようなメンバーで臨むのか、今から楽しみです。

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福西崇史

福西崇史ふくにし・たかし

1976年9月1日生まれ 愛媛県新居浜市出身 身長181cm。1995年にジュビロ磐田に入団。不動のボランチとして黄金期を支える。その後、2006年~2007年はFC東京、2007年~2008年は東京ヴェルディで活躍。日本代表として2002年日韓ワールドカップ、2006年ドイツワールドカップにも出場。現役引退後は、サッカー解説者として数々のメディアに出演している

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