オグマナオトおぐま・なおと
1977年生まれ。福島県出身。雑誌『週刊プレイボーイ』『野球太郎』『昭和40年男』などにスポーツネタ、野球コラム、人物インタビューを寄稿。テレビ・ラジオのスポーツ番組で構成作家を務める。2022年5月『日本野球はいつも水島新司マンガが予言していた!』(ごま書房新社)を発売。
ドジャースの大谷翔平がいよいよ乗ってきた! 5月に入って一段とギアを上げ、今季初となる週間MVPを受賞。打撃専念のシーズンで、いったいどんな記録を残すのだろうか!?
※成績は現地時間5月7日時点。
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本塁打(11本)、打率(.370)、OPS(1.139)、長打率(.705)など、打撃10部門でリーグ1位につける大谷翔平(ドジャース)。開幕直後に起きた元通訳との電撃決別、今季1号が出るまでメジャー移籍後最長となる41打席を要するなど、紆余曲折はあったが、「10年契約1000億円の男」の実力はやはり別格だ。
このままシーズンが進めば、どんな成績を残すのだろうか?
キャンプでのバッティングを見て、「平成の三冠王、松中信彦さん(元ソフトバンク)の全盛期のように打率が残るスイング。打率.330、50本塁打、40盗塁を目指してほしい」と今季の活躍を予見していた野球評論家のお股ニキ氏に中間審査をしていただこう。
「今季は打率型のスイングだとはわかっていましたが、ここにきて本塁打を連発しているのはさすが。打者に専念すればこれだけの成績を残すのか、というのが第一印象です。
忘れがちですが、大谷は昨年秋にトミー・ジョン手術を受けました。リハビリ中の投手が4月からこれだけ活躍していることに、もっと驚くべきです。
また、名門ドジャースでDHを独占できていることも、チームからいかに信頼されているかの証しです。例年、大谷は6月、7月に無双モードに入る傾向があるので、楽しみは尽きないですね」
イチロー(元マリナーズほか)以来となる日本人首位打者も十分狙える今季の大谷。その「打率が残せるスイング」に関して、もう少し詳しく解説してもらおう。
「去年よりスイングが横振りです。バットを縦に振り上げすぎないため、ミート力が上がって打率が残せている。トータルで見ると、今年のほうが相手からすると怖い打者でしょう。
キャンプでのスイングから『打率.330は期待できる』と予想しましたが、今の状態ならば、打率.350以上、かつ、首位打者を目指してほしい。理想は打率.358、43本塁打、123打点、48盗塁です」
打者専念のシーズンだからこそ注目したいのが盗塁だ。
「現在、9盗塁。キャンプでは走塁を重視した練習をしていたので、もっと積極的に走るかと思っていました。大谷の前を打つムーキー・ベッツがリーグ1位の出塁率で塁が埋まっており、後ろを打つフレディ・フリーマンも好調なのであまり動くべきではない、という判断なのかもしれないですね」
「40本塁打&40盗塁」なら史上6人目、「50本塁打&50盗塁」なら史上初の快挙だけに、盗塁数も気になるところだが、お股ニキ氏は「もっと目指すべきものがある」と提言する。
「〝史上最高のDH〟エドガー・マルティネス超えを目指してほしい。今季の大谷はマルティネスのキャリアハイである、1995年シーズンの活躍ぶりに似ています」
マルティネスとは、マリナーズひと筋で1990年代を中心に活躍した超レジェンド。現役を引退した2004年以降、最優秀DH賞は「エドガー・マルティネス賞」に名称変更されるほど、インパクトを残した選手だ。
キャリアハイとされる1995年シーズンは、打率.356で首位打者を獲得。さらに、出塁率(.479)、OPS(1.107)でメジャー1位に輝いた。
「私自身、大好きだった打者で、とにかく技術があって勝負強く、警戒されながらも出塁率が高かった。たとえるなら、シーズン得点圏打率の日本記録を持つ落合博満さん(元ロッテほか)が、MLBの広い球場で全盛期を過ごした感じ」
特に目を引くのは、長打率+出塁率ではじき出されるOPSの高さ。日本以上にMLBで重要視される指標で、0.900を超えれば一流打者といわれるが、1995年のマルティネスが残した1.107はDH専任打者として歴代最高記録。現在、大谷はその数字を上回る1.139を叩き出している。
「OPSを高めるためには三振を減らし、四球をしっかり選んで長打を重ねる必要があります。本塁打王を獲得した昨季のOPSは1.066。十分すごい数字ですが、今の大谷はより穴のない選手になっている証拠でもあります」
今季の大谷といえば、二塁打の数が異様に多いことも特徴のひとつ。現在14二塁打で、MLBシーズン記録の67二塁打に迫るペースだ。
ちなみに、マルティネスも二塁打が多かった選手として知られ、1995年、1996年は2年連続で52二塁打を記録。そもそもシーズン50二塁打以上は極めて難しく、昨季のフリーマンが59二塁打で「87年ぶりの60二塁打ならず」とニュースになったほどだった。
「シーズン60二塁打以上を記録したのは過去6人だけで、いずれも1930年代以前。球場やボールが変わった現代野球でこの数字を意識できるのはとんでもないこと」
目指すは、勝負強く、二塁打も多く、OPSが高いマルティネス超え。そのための課題はなんだろうか?
「まずは得点圏打率の低さ。現在の得点圏打率は.225で、チャンスやサヨナラの場面で打てていません。昨季までチャンスに弱かったわけではなく、今季は完璧を求めすぎるがゆえの〝力み〟が原因だと思います。
大谷といえども、人の子です。超大型契約のプレッシャーはあって当たり前で、ないほうがおかしい。その上で、『自分が試合を決めてやる』とチャンスで意気込みすぎずに打ってほしいです」
お股ニキ氏は続けて、例年苦手にしている左投手への対応について指摘する。
「対右投手に比べて、対左投手の打席ではオープンに構えるべきですが、今は少し開きすぎています。ソフトバンクの柳田悠岐やかつての松中さんくらいのバランスがベスト。ただ、現地時間5月5日のブレーブス戦では、左投手から2発打ちました。だんだんと良くなってきています」
ちなみに、〝史上最高のDH〟マルティネスでも実現できなかったのは、シーズンMVP受賞だ。両リーグでのMVPとなれば史上ふたり目、DH専任でMVPを受賞した例は過去に一度もない。前人未到の頂へ、大谷のバットから目が離せない。
1977年生まれ。福島県出身。雑誌『週刊プレイボーイ』『野球太郎』『昭和40年男』などにスポーツネタ、野球コラム、人物インタビューを寄稿。テレビ・ラジオのスポーツ番組で構成作家を務める。2022年5月『日本野球はいつも水島新司マンガが予言していた!』(ごま書房新社)を発売。