里崎智也×五十嵐亮太のライフハックベースボール! 日本を代表するレジェンドプレイヤーの2人が、野球からの学びをライフハックに翻訳、「生き抜く知恵」を惜しげもなく大公開。連載の第3回は、「運をつかめる人、つかめない人」について語り合った!
■「運がいい人、悪い人なんていない」の真意とは?
――連載開始早々から話題騒然の「ライフハックベースボール!」。前回のラストでは「運」について話題が出ました。世の中には「運がいい人、悪い人」、あるいは「運をつかめる人、つかめない人」がいますが、その差はどこから生まれてくるのでしょうか?
五十嵐 運をつかめるかどうかというのは、「常にセンサーを張りめぐらしているかどうか?」ということに尽きるんじゃないのかな? せっかくチャンスが訪れても、それに気づかない人もいる。「常に敏感であるかどうか?」ということが大事だと思うし、僕もサトさんも、いつもアンテナは立ってると思いますね。
里崎 極論から言えば、僕は「運のいい人、悪い人なんていない」と思っていますね。
五十嵐 確かに極論だ(笑)。でも、どういうこと?
里崎 結局、「結果を出した人が運のいい人、結果を出せなかった人が運の悪い人」というだけなんです。でも、仮に「運がいい人、悪い人」がいるとすれば、それはとても簡単なことで、運がいい人はどんなささいなことであっても、「オレは運がいいな」って思える人のことなんですよ。
五十嵐 同じ環境、境遇にあっても楽しそうな人もいれば、不幸そうな人もいるからね。目の前のことを「幸せだ」と思うか「不幸せだ」と思うかは、その人の考え方次第っていうところも確かにあると思うな。
里崎 例えば、仕事に行く前にテレビを消そうとした時に、時刻表示が「12:34」で、「1、2、3、4で今日はいい流れだな」って思えたり、コンビニで買い物したら「777円」だったり、その程度のことでも僕は「今日は運がいい日だ」って思える。だけど、自分のことを「オレは運が悪いな」と思っている人って、でっかいことしか見てないんですよ。
五十嵐 運を求める人ってささいなことではなく、「宝くじで一等が当たった」とか、大きなことを求めがちだよね。
里崎 生きていて、そうそう大きなチャンスがあるわけじゃないのに、そこに気づかずに「オレにはチャンスが来ない」とか言うけど、運というのは小さいことの積み重ね。目の前の日常を喜べる人こそ、「運がいい人」って言えるんじゃないのかな? ......でも、僕自身はそもそも「運のいい人、悪い人なんていない」って考えですけどね(笑)。
■チャンスを逃がさないために気をつけること
――よく、「幸運の女神には前髪しかない」と言いますよね。「チャンスはその場で捕まえないとすぐに逃げてしまう」という意味で使われますけど、チャンスを逃さないために意識すべきことはありますか?
里崎 それも簡単なことで、目の前のチャンスをつかむことができる人は、陸上競技で言うと「常にクラウチングスタートで構えている人」なんです。号砲が鳴ったら、いつでも飛び出すことができる人。で、スタートしてから、「そのままゴールまで目指そう」と思ったり、「あれ、思っていたことと違うから棄権しよう」と考えることができるんです。
五十嵐 いつもクラウチングスタート状態だと疲れそうだけどね(笑)。でも、それが当たり前の状態になっていると、何の苦もなく、いつでもスタートを切れるようになりますよね。
里崎 逆に、運の悪い人は「これからレースが始まるぞ」っていうときに、「どうしようかな、スタートしようかな?」と考えるんです。もうレースは始まっているのに。だから出遅れるんですよ。僕のYouTubeも、常にクラウチングスタートで待機しているから、ニュース速報に対してすぐに対応できるんです。
五十嵐 そうなると、世の中の流れに敏感かどうかということも大事になってきますよね。僕もワイドショーに出ることがあるけど、「野球以外」のことも知らないといけないし、世の中の流れと野球を関連づけてバランスを取りながらしゃべることを意識してます。その際には、他人に不快感を与えない言葉、比較的多くの人に受け入れてもらえる言葉をチョイスしようと思ってます。
里崎 いつあるかわからない「よーい、ドン!」の合図を聞き逃さず、号砲と同時にダッシュする。それを意識するだけで、「スタートしようか、どうしようか?」と悩んでいる人に比べて、大きな差がつくと思いますよ。
五十嵐 サトさんのYouTubeは、その日のニュースをその日にアップしたり、速報性が強いのも、そういうスタンスでいつも準備しているからなんでしょうね。
■「弁護士と検事と、両方できる準備をする」(里崎)
――生まれながらに家柄がいいとか、金持ちだとか、いわゆる「親ガチャ」が話題になっています。特に強みがない「持たざる者」はどうやって運をつかんでいけばいいでしょうか?
里崎 自分なりのブランドであったり、付加価値であったりというのは自分自身で作っていくしかないわけだから、まず意識するのは「人と違うことをしよう」ということでしょう。それは難しいことではなく、意外と簡単なことですよ。
五十嵐 それはサトさんだから「簡単だ」って言えるんじゃないの?
里崎 簡単だよ、世の中の流れや大多数の人の意見の逆張りをすればいいんだから。例えば、10人中9人が「Aだ」と言うのなら、わざと「絶対にBだ」と逆張りすればいい。常に僕は、AとB、どちらの答えも持つようにしています。どっちでもいけるように。
五十嵐 自分から「逆張りしている」とカミングアウトするのもすごいけど、「実はAでも、Bでも答えられる」と、自分の手の内を明かしてしまうのもスゴイよ(笑)。でも、サトさんの場合はタネも仕掛けもバレているのに楽しめる手品のような面白さがあるよね。
里崎 だから、自分としては「弁護士と検事と、両方できるように準備しておこう」という思いはありますよ。被告を守ることも、責めることもできる(笑)。
五十嵐 でも、たまに「ちょっと、その理屈には無理があるよ」とか、「サトさん、いったい何を言ってるの?」ってこともあるけど、それ自体がサトさんの魅力だったり、面白さだったりになっていますからね(笑)。だけど、やっぱりそれはサトさんだからできることだとは思いますよ。
里崎 いや、誰でもできる(断言)。その代わり、「世の中を敵に回してもいい」という根性が必要だけど(笑)。
五十嵐 前回も「やるか、やらないかという覚悟の問題だけ」って言っていたけど、覚悟を決めるとか、根性を見せるとか、「自分次第でどうにでもなる」というのがサトさんの基本スタンスだよね。
里崎 そんなにたいした覚悟や根性でなくても、「世の中の大半の人は自分の生活には無関係なんだ」と思えるだけで、あまり周りの人のこととか、世間の目とか気にならなくなると思いますけどね。
五十嵐 僕自身はサトさんのような覚悟を持てないし、積極的に「オレもマネしよう」とは思わないけど、「やろう」と覚悟を決めれば、僕にもできると思いますね。さっきの「AかBか?」で言うと、本心ではBだと思っているのに、「Aだと思う」と言うことはできない。それは僕の中ではウソになってしまうから。でも、それは「サトさんはウソつきだ」ということではなくて、世の中をうまく進んでいくためのライフハックなんだと思いますね。
――さて、ちょうど時間となりました。次回は今、五十嵐さんが口にしたように「これだけは譲れない」という「マイルール」について伺いたいと思います。
里崎・五十嵐 了解でーす。ぜひ、次回もよろしくお願いします!
(連載第4回に続く)
【プロフィール】
●里崎智也(さとざき・ともや)
1976年5月20日生まれ、徳島県出身。鳴門工(現鳴門渦潮)、帝京大を経て1998年のドラフト2位でロッテに入団。正捕手として2005年のリーグ優勝と日本一、2010年の日本一に導いた。日本代表としても、2006年WBCの優勝に貢献し、2008年の北京五輪に出場。2014年に現役を引退したあとは解説者のほか、YouTubeチャンネルなど幅広く活躍している。
公式YouTubeチャンネル『Satozaki Channel』
●五十嵐亮太(いがらし・りょうた)
1979年5月28日生まれ、北海道出身。1997年ドラフト2位でヤクルトに入団し、2004年には当時の日本人最速タイ記録となる158キロもマークするなど、リリーフとして活躍。その後、ニューヨーク・メッツなどMLBでもプレーし、帰国後はソフトバンクに入団。最後は古巣・ヤクルトで日米通算900試合登板を達成し、2020年シーズンをもって引退した。現在はスポーツコメンテーターや解説として活躍している。