野茂、黒田博樹に続く史上3人目の「日米通算200勝」を達成したダルビッシュ 野茂、黒田博樹に続く史上3人目の「日米通算200勝」を達成したダルビッシュ

昨年のオフシーズンから今季開幕後の現在まで、MLBの話題はドジャース・大谷翔平が中心だが、ほかの日本人選手たちも目覚ましい活躍を見せている。今、知っておくべき注目ポイントを一挙紹介!【日本人メジャーリーガー大奮闘ワイド①】

■サイ・ヤング賞に最も近づいた日本人

ダルビッシュ有(パドレス)の功績を語る適任者は、本誌おなじみの野球評論家、お股ニキ氏をおいてほかにいない。2015年、まだ無名だったお股ニキ氏にダルビッシュがSNSを通じて意見交換したエピソードは、"お股ツーシーム"という球種と共に、当時大きな話題を呼んだ。

「2015年はトミー・ジョン手術を受けて休んでいた時期。それまでの3年間は毎年2桁勝利を挙げ、スライダーを駆使して三振の山を築いていました。四球が多く、粗い投球も目立つものの、ポテンシャルを感じさせる内容で、2013年は277奪三振でリーグ1位。サイ・ヤング賞選考では2位の高評価でした」

トミー・ジョン手術後はシーズンごとに投球フォームやスタイルを変えるなど試行錯誤。2019年前半には「ダルビッシュ史上最悪のスランプ」を乗り越えて、同年後半に覚醒。2020年はコロナ禍による短縮シーズンではあったものの、日本人投手史上初の最多勝(8勝)に輝くなど全盛期を迎えた。

「2019年7月から21年4月をひと区切りと考えると、32試合で15勝8敗、202.1イニング、266奪三振、防御率2.45。サイ・ヤング賞に最も近づいた日本人投手です」

こうした成績と共にお股ニキ氏が感服するのは"先駆者"としての生きざまだ。

「MLBの扉を開いた開拓者は野茂英雄さんですが、昨今の日本人選手の活躍につながる道を整備したのはダルビッシュ。その根底にあったのは、『ダルビッシュだからできたと言われるのではなく、日本人だからできたと言われたい』という意気込みです」

トレーニングの方法論を追求し、積極的に発信し続けたことで"後輩たち"の意識は自然と高まっていった。

「日本人はフィジカルが弱い、という課題に向き合いました。ダルビッシュも最初は試行錯誤し、まずは目いっぱいに体重を増やしたり、筋トレをいろいろ試したりしていました」

ブレーブス戦で力投するパドレス先発のダルビッシュ有 ブレーブス戦で力投するパドレス先発のダルビッシュ有

現在、大谷翔平(ドジャース)を筆頭に、MLBでフィジカル負けしない選手が出てきたことは、ダルビッシュのトライ&エラーのおかげともいえる。

「一番重かった時期より、今は5、6㎏ほど痩せています。自分が実験台になることで、効率的に筋肉をつけるメソッドや、ちょうどいいバランスを見つけていきました」

書籍『ダルビッシュ有の変化球バイブル』(ベースボール・マガジン社)をはじめ、投球データなどの情報公開にも積極的だ。

「変化球の握りや投げ方を公開しましたが、『手の内を見せるなんて』と当時は批判されました。今ではオープンソースが当たり前の時代ですが、当時のダルビッシュは10年先を歩んでいたといえます」

そんな先駆者だからこそ、今も常に変化し続けている。

「ここ2年はスイーパーも増やしていましたが、変化量が大きいと打者も対応しやすいと実感したのか、私が昔から推すスラッターに原点回帰したのもいい傾向です。

いろいろ試すのはいいけど、最終的には本当にいいものを理解してやり込み、使いこなすことが大事。多くの選手に見習ってほしいです。

ただ、ポテンシャルを考えれば、まだまだできることはあるはず。契約は42歳まで続きますし、老け込まずに250勝を目指してほしいです」

*成績は現地5月27日時点

オグマナオト

オグマナオトおぐま・なおと

1977年生まれ。福島県出身。雑誌『週刊プレイボーイ』『野球太郎』『昭和40年男』などにスポーツネタ、野球コラム、人物インタビューを寄稿。テレビ・ラジオのスポーツ番組で構成作家を務める。2022年5月『日本野球はいつも水島新司マンガが予言していた!』(ごま書房新社)を発売。

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