福西崇史ふくにし・たかし
1976年9月1日生まれ 愛媛県新居浜市出身 身長181cm。1995年にジュビロ磐田に入団。不動のボランチとして黄金期を支える。その後、2006年~2007年はFC東京、2007年~2008年は東京ヴェルディで活躍。日本代表として2002年日韓ワールドカップ、2006年ドイツワールドカップにも出場。現役引退後は、サッカー解説者として数々のメディアに出演している
不動のボランチとしてジュビロ磐田の黄金期を支え、2006年開催のドイツワールドカップには、日本代表の中心メンバーとして出場。日本サッカーが世界水準へと飛躍していく瞬間をピッチの中央から見つめていた福西崇史。
そんな福西崇史が、サッカーを徹底的に深掘りする連載『フカボリ・シンドローム』。サッカーはプレーを深掘りすればするほど観戦が楽しくなる!
第98回のテーマはUEFAチャンピオンズリーグ2023-24決勝について。ドルトムントを2-0で破り、レアル・マドリードが通算15回目の優勝をかざったCLファイナルで、勝負を分けたポイントを福西崇史が解説する。
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現地6月1日(土)にUEFAチャンピオンズリーグ2023-24決勝、ドルトムント対レアル・マドリードが行われ、2-0でレアル・マドリードが通算15度目のCL制覇を成し遂げました。決勝トーナメントの勝ち上がり方もそうでしたが、決勝でもレアル・マドリードの勝負強さが際立った試合だったと思います。
前半はレアル・マドリードが非常に苦戦しました。ドルトムントが守備時にシステムを4-1-4-1のような形になり、中を締めたことでマドリードは陣形の外側でボールを回すことになりました。
うまく制限をかけたドルトムントは、奪ったボールを素早く縦に動かし、前線のFWカリム・アディエミやFWジェイドン・サンチョのスピードを生かしながら鋭いカウンターを仕掛けてチャンスを作っていきました。
逆にドルトムントがボールを保持したときに、マドリードは2トップでボール保持者に制限をかけることができず、あるいは流動的な攻撃の立ち位置から守備に切り替わる際の隙を突かれ、DFニコ・シュロッターベックやDFマッツ・フンメルスからライン間へ縦パスを通され、簡単に中盤ラインの突破を許していました。
それによってマドリードは後手に回って後ろ向きの守備を強いられたり、ライン間でボールを受けたユリアン・ブラントなどが、アディエミやサンチョが追い越していく時間をうまく作り、守備ラインの裏へスルーパスを通すなど、狙い通りに崩すシーンがいくつもあったと思います。
しかし、組織的な守備、ビルドアップでドルトムントが優勢にゲームを進めながらGKティポ・クルトワのビッグセーブに阻まれながら決定機を決められず、前半をスコアレスで折り返してしまったのは、結果的に勝敗を分けたひとつのポイントでした。
後半になると、マドリードは守備時に4-4-2から4-5-1に立ち位置を変えて、前半に散々通されていた縦パスをシャットアウトしました。けれど、1トップでは前からのプレスが効かないので全体的に下がらざるを得なくなり、ドルトムントがペースを握っていたと思います。
マドリードは相手の力をリスペクトして、こうした割り切ったポジションチェンジをスムーズに行えるところが、マンチェスター・シティやバイエルン・ミュンヘンも打ち破ってきた要因の一つです。このレベルでどんな戦い方にも対応できるのはチームとしての能力の高さを物語っていると思います。
攻撃では、前半から脅威だったヴィニシウス・ジュニオールの単独の突破力を軸にしつつ、フンメルスやシュロッターベックがギリギリでカバーして、膠着(こうちゃく)した状態が続いていました。
その膠着状態を破ったのは、やはりセットプレーでした。後半38分にMFトニ・クロースのCKからニアでDFダニエル・カルバハルが合わせてマドリードが先制。このシーンの前にもいくつかCKがありましたが、クロースのキック精度がとにかく高く、蹴るたびに微調整をしてタイミングやポイントがどんどん合ってきていました。
先制後にも同じようにCKからDFナチョへピタリと合わせていて、まるで精密機械のようなキックでした。
そして先制点から10分後にDFイアン・マートセンの横パスをMFジュード・ベリンガムがカットし、最後はヴィニシウスが冷静に決めて2-0。ヴィニシウスのシュートは狙ったものかはわかりませんが、バウンドさせるようなキックでGKグレゴール・コベルはタイミングを外されて反応が難しくなりました。
ああいったボールをやや上から叩いてバウンドさせるキックは、マドリードのOBでもあるメスト・エジルが得意としていましたが、あれを利き足とは逆の左足で意図してやったとしたらとんでもないスーパーゴールだと思います。
マートセンのパスミスはベリンガムの位置が見えていなかったのかもしれませんが、それにしてもマドリードを相手にあれだけの致命的なミスをすれば、失点は免れません。終盤の2失点目は痛恨でした。
先制してからマドリードは相手が出てくるのに合わせてやり方を変え、ペースを握っていったので試合巧者ぶりはさすがのひと言。それでもドルトムントは先制されたあとから攻撃のカードを次々に切って攻勢に出て、オフサイドにはなったものの一度はネットを揺らしたので、ファイナリストとしての意地や力は見せていたと思います。
勝負をわけた先制点のCKのキックの質はもちろんそうですが、全体を通してクロースのクオリティはMVP級でした。ビルドアップではセンターバックの脇に下りてボールを引き取り、ドルトムントのハイプレスを効果的な縦パスやサイドチェンジのパスを織り交ぜて、難しい展開をうまくコントロールしていました。ボールの回し方、味方へボールを渡すタイミングは本当に見事でしたね。
クロースに並んでベリンガムのクオリティも際立っていました。中盤でボールを受けて起点を作れるし、そこからパサーにもなれるし、突破をすることもできる。それから2列目から裏へ飛び出して高さを生かしたフィニッシャーとしても脅威でした。ゴールにはなりませんでしたが、後半24分のヴィニシウスのクロスからベリンガムが飛び出して合わせにいったのは、まさに彼が得意とする形でした。
大会を通じてマドリードの勝負強さは驚異的でしたが、準々決勝や準決勝の前にはリーグで余裕を持ってターンオーバーができる状況だったことは、シティ戦やバイエルン戦で優位に働いたところもありました。いずれにしても通算15回の優勝は圧倒的な数字で、改めてこの大会の盟主であることをマドリードが見せつけた今大会だったと思います。
1976年9月1日生まれ 愛媛県新居浜市出身 身長181cm。1995年にジュビロ磐田に入団。不動のボランチとして黄金期を支える。その後、2006年~2007年はFC東京、2007年~2008年は東京ヴェルディで活躍。日本代表として2002年日韓ワールドカップ、2006年ドイツワールドカップにも出場。現役引退後は、サッカー解説者として数々のメディアに出演している