笹生が全米女子オープンを制したのは、フィリピン籍だった2021年に続いて2回目。パリ五輪は日本代表として期待がかかる 笹生が全米女子オープンを制したのは、フィリピン籍だった2021年に続いて2回目。パリ五輪は日本代表として期待がかかる

LPGA女子ゴルフツアーの五大メジャーのうち、最も古い歴史と伝統を持つ全米女子オープン。第79回となる今年のトーナメントを制したのは、最終日に3打差を逆転した笹生優花だった。

自身2度目の栄冠だが、19歳だった前回(2021年)は、母親の母国であるフィリピン籍での優勝。その後、父親の祖国である日本の国籍を選択し、今回のチャンピオンズカップは日本の旗の下で勝ち取った。

日本国籍の選手が全米オープンを制するのは男女通じて史上初。メジャーでの優勝も、樋口久子(1977年、全米女子プロ)、渋野日向子(2019年、全英女子オープン)、松山英樹(2021年、マスターズ)に続く4人目の快挙だ。

高い身体能力と練習量でジュニア時代から頭角を現していた笹生は、自らの「アイドル」と公言する男子プロのローリー・マキロイを模したパワフルなスイングと、飛距離を武器にしてきた。そんな笹生のメジャー2勝目の勝因を、プロゴルファーで解説者のタケ小山氏はこう分析する。

「今年のコースセッティングを見ると、笹生は勝つべくして勝ったと言っていいです」

大会が行なわれたランカスターカントリークラブはアップダウンがあるコースで、フェアウェーの傾斜もきつい。ラフの芝は密集して長く、グリーンは速い上に硬さが際立っていた。

メジャーにふさわしいハードなセッティングで、最終的に4日間をアンダーパーで回ったのは、笹生と、2位に入った渋野のふたりだけだった。

「あのラフはパワーヒッターでないと対応できません。さらにコースに高低差があり、打ち上げのショットで硬いグリーンを狙うには、スピンだけでは止まらない。高いボールが要求されます」(小山氏)

飛距離の優位性を持つ笹生(最終日、ティーショットの飛距離は全体1位)は、常にほかの選手より短いクラブ、高いボールでグリーンを狙っていくことができた。

圧巻は、最終日の16番パー4。1オンを狙わせるように、距離が短い232ヤードのセッティング。すでにトーナメントリーダーに立っていた笹生は、安全策でフェアウェーに刻んでもよかったが、ちゅうちょなくスプーン(3番ウッド)を手にした。

グリーンに止まりやすいスライス回転をかけたハイボールを放ち、ピンの右に落下。それがウイニングショットとなった。小山氏も「攻撃力、勝負強さも勝因のひとつ。また、我慢するところは我慢するといった〝ゲーム巧者〟の面も見えました」と話す。

アメリカツアー専念を決めて以降、成績の低迷とともに影を潜めていたシブコスマイルだが、全米女子オープンでは全開だった アメリカツアー専念を決めて以降、成績の低迷とともに影を潜めていたシブコスマイルだが、全米女子オープンでは全開だった

我慢を続け、2位のシルバーメダルを首にかけることができたのは渋野だった。トータル1アンダー、3日目にはトップの4アンダーを出し、4日間のバーディ数17は笹生を抜いて全体1位。メジャーでは必ず注目の的になる〝スマイリング・シンデレラ〟が戻ってきた。

渋野は19年にメジャーチャンピオンになって以降、なかなかそれを次へのステップにつなげられなかった。期待が集まるほど悩みは増え、スイングの大幅な改造も行なった。メジャーでのトップ10、国内ツアーでの優勝もあり、22年からアメリカツアーに専念したが......世界ランキングは下降を続け、昨季は米ツアーのシード権も失った。

今季も低迷が続いていたが、ランカスターの週末は見違えるようだった。これで「復活」したといってよいだろう。

小山氏は「パッティングが良かった。パーパットも含め、大事なところで決めていました」と言う。最終日も、最難関の12番パー3でのこと。グリーン奥からバーディを狙うが、グリーン手前にはクリーク(小川)が流れ、強く打つとボールが川に落ちるのは確実。

それでも渋野は、カップに向かって大きくスライスするラインを読み切り、ジャストタッチでバーディを決め、ガッツポーズが出た。

「ショットもこれまでのように、ミスをした後にスイングを気にして、素振りを重ねるシーンはありませんでした。スイングの形より、目の前のワンストロークに集中させられるハードなセッティングでしたから」と小山氏は話す。

「1試合だけで期待するのは性急ですが、渋野の本来の持ち味である『ゲームを楽しむ』ことはできていました。これにショット力がつくと、再びメジャーでトップ争いをする可能性は十分にあります」

コースの中でも、記者会見の場でもスマイルが絶えなかった渋野は、ひと組前を回る笹生のプレーに拍手を送り、彼女の優勝が決まると「マジで強いわ」と繰り返し伝え、笑顔でハグを求めた。

その笹生&渋野のワンツーだけでなく、6位タイに古江彩佳、9位タイに小祝さくらと竹田麗央が入り、トップ10のうち5人を日本勢が占めた。

予選を通過したのも、史上最多の14人。その躍進の要因について、小山氏は「JLPGAの小林浩美会長が進めている、国内ツアーでの、海外で勝てる選手の育成、強化の成果だ」と語る。

13年から始まったツアー強化は、米ツアーと同じ4日間大会を増やし、コースも距離からグリーンの速さ、ピンの位置など、海外を想定したセッティングを行なっている。

「もうひとつは、米ツアーのレベルを肌で感じられるようになったこと」(小山氏)

笹生も渋野も国内ツアーを経て渡米した。彼女たちと一緒にプレーした選手は、今の自分の力量と米ツアー、メジャーとの距離感がわかっている。技量が整えば、「海外に出ていきたい」と思う選手は増えるだろう。

笹生の強さに圧倒されたランカスターだったが、次のメジャーは全米女子プロ。そして、セントアンドリュースで行なわれる全英女子オープン、8月には笹生が日本代表に当確しているパリ五輪も控える。笹生、渋野をはじめ、レベルの上がった日本選手が躍動する舞台は残っており、今後も期待せずにはいられない。