里崎智也×五十嵐亮太のライフハックベースボール! 日本を代表するレジェンドプレイヤーの2人が、野球からの学びをライフハックに翻訳、「生き抜く知恵」を惜しげもなく大公開。連載の第9回ではおふたりの「お金」に関する考え方に迫ります!

「金銭感覚が狂ってしまう人」について語った五十嵐亮太氏(左)と里崎智也氏(右) 「金銭感覚が狂ってしまう人」について語った五十嵐亮太氏(左)と里崎智也氏(右)

■里崎&五十嵐が考える「お金との上手なつき合い方」

――人生を生きていく上で欠かせないのが「お金」です。お金と上手につき合える人もいれば、反対に人生を狂わされてしまう人もいます。今回からしばらくの間、お金に対するおふたりの考えを伺っていこうと思います。まずは幼少期の頃からお尋ねしますが、おふたりはそれぞれどんな家庭で育ったのですか?

五十嵐 うちは、裕福でもなく、貧しくもなく、平均的な家庭だったと思います。野球道具も何不自由なくそろえてもらったし、必要最低限のことは普通にやらせてもらっていたと思いますね。

里崎 裕福かどうかというのは、明確な基準があるわけじゃないからハッキリとは言えないけど、子どもながらにお小遣いはたくさんもらっていましたね。両親が共働きだったので、子どもの頃は月火水木金の平日5日間、毎日100円もらっていたから、月に2000円以上はもらっていて、近所の駄菓子屋でいつも買い物していました。

五十嵐 それだけあれば、駄菓子屋で豪遊できるよね(笑)。だけど、小学生で月に2000円以上ももらっている子はそんなにいなかったでしょ?

里崎 それだけじゃなくて、日曜日には親と一緒に買い物に出かけて、さらに1000円を自由に使うこともできたので、お小遣いは多いほうだったと思います。あと、僕らが子どもの頃は、ファミコンの出始めだったから、「ゲームカセットをどれぐらい持っているのか?」というのも、裕福かどうかのバロメーターだったよね。

五十嵐 子どもの頃は、そういうわかりやすい基準があったけど、今から考えてみると「ファミコンソフトをどれだけ多く持っているか?」で、お金持ちかどうかが決まるわけではなくて、結局は「どこにお金をかけるか、どんなことにお金を使うか?」という、その家庭それぞれの哲学や考え方で、見え方は大きく変わってきますよね。本当に裕福な家庭の子どもって、きちんと教育を受けていたり、身だしなみがしっかりしていたり、そういうところに現れている気がするな。子どもの頃は気がつかなかったけど。

里崎 僕なんか、徳島で過ごした少年時代はずっとジャージーで過ごしていました。普段着用とお出かけ用の2種類のジャージーを使い分けて(笑)。

五十嵐 僕は10歳ぐらいまで北海道で過ごしていたけど、小学校4年生のときに千葉に引っ越してきて、みんな小ぎれいな格好していることに驚いたな。「わっ、ポロシャツだ!」みたいな(笑)。この頃、母親に「ジャージーじゃなくて、ジーパンがほしい」って言った記憶がありますね。

■プロの評価基準は「お金」がすべて

里崎 そう考えると、子どもの頃ってそんなに貧富の差を感じることはなかったかもしれない。それに、うちは徳島の田舎だったので、多くの家庭が第一次産業の従事者だったんです。要は農業、漁業、林業に従事している家庭が多かった。他にも、運送屋さんや美容師さんがいて、うちの父は大工だったし、「誰のお父さんが何の仕事をしているのか?」ということもほぼ知っていた。それも、あんまり貧富の差を感じなかった理由なのかもしれない。

五十嵐 うちもそうだったけど、僕の周りはサラリーマン家庭ばかりだったから、「誰のお父さんがどんな仕事をしているのか?」なんて考えたこともなかったし、気にしたこともなかったな。

里崎 高校時代になると野球が忙しかったし、大学で上京してからもずっと野球漬けで、お金を使うとしても、せいぜいコンビニに行ったりカラオケしたりする程度。ハッキリとお金を意識し始めたのは、やっぱりプロ入りのときになるのかな?

五十嵐 僕の場合も、さっきも言ったように平均的な家庭だったと思うので、「うちは裕福だ」「貧乏なんだ」とか、特にお金のことを意識することなく育った気がします。僕もサトさんと同じで、プロ入りのときに契約金や年俸を手にして初めて、お金のことを意識するようになったと思いますね。

里崎 まず、入団時に契約金で1億円もらって、源泉徴収で2000万円引かれて、他の税金や母校への寄付もあって、手元に残ったのは5000万円くらいかな? で、このときに約1300万円のベンツを買って、残りはそのまま今でも銀行に残っているはず。

五十嵐 サトさん、ホントに細かく覚えているよね。いつも思うけど、サトさんは金額までハッキリとお金の話をするけど、そこに抵抗はないの?

里崎 日本人はお金について言いたがらないけど、プロ野球選手は契約金や毎年の推定年俸が表に出るじゃないですか。そもそも、それが一種の評価基準となっているわけだから。だから、お金について隠す土壌がないんです。

■大切なのは「身の丈に合うかどうか?」

五十嵐 確かに、他の業種と比較すれば隠す土壌はないかもしれないけど、それにしてもサトさんはぶっちゃけすぎ(笑)。僕の場合は、契約金で親に家を買いましたね。もちろん、親も払っているんだけど、僕自身もかなり負担しました。そもそも、税金で半分ぐらいなくなるし、この時点ですでに「あぁ、お金って気づいたらすぐになくなってしまうものなんだな」っていうことを悟った気がしますね。

里崎 大学生がいきなり1億円という契約金を手にすることになったわけだけど、僕自身は「金銭感覚が狂った」とは思わなかった。亮太はどうだった?

五十嵐 「狂ったか、狂ってないか?」で言えば、若干狂っていたとは思いますね。20歳ぐらいで、ハイブランドのアイテムを身につけたり、派手な車を買ったりしていたから。サトさんは狂わなかったんですか?

里崎 僕はたぶん、これまでの人生で一度も金銭感覚が狂ったことはないと思います。例えば、100万円でも1000万円でもいいけど、「高価なモノを買った=金銭感覚が狂っている」ということにはならないでしょ? 手持ちのお金の範囲内でやりくりしている限りは。

五十嵐 人から借金したり、むやみにローンを組んだりしないで、予算の枠内、残高の範囲内で買い物しているのなら、どんなに高価なものでも「金銭感覚がおかしい」ということにはならないですよね。

里崎 自分の年収の範囲内で、自分なりの生活スタイルと将来設計を描けていて、自己破産しない範囲内でやりくりできているのであれば、それは決して「金銭感覚がおかしい」とは言えないよね。

五十嵐 それって、実はかなり大事なことで、お金で失敗する人って「自分の身の丈に合っていない人」が多いと思うんです。僕自身も、見栄を張ったり背伸びをしたりして、身の丈以上の生活をしたり、お金を浪費してしまったりしたこともありました。だけど金銭感覚が狂ってしまった人というのは、結局は自分の身の丈に合っていない生活を選んでしまった人のことなんじゃないのかな?

里崎 でもそれって、自分自身の理想や人生設計をきちんと持っていないと、そもそも身の丈を知ることもできないわけだから、「なりたい自分」というものをきちんと思い描くことも大切になると思う。僕の今までの人生で一番高い買い物は家だけど、僕が初めて家を買ったのは現役を引退してからだから。

五十嵐 えっ、現役中はずっと賃貸だったの?

里崎 僕は以前から「家は引退後に買え!」という哲学を持っていたから。

五十嵐 えっ、それってどういう......。

――スミマセン、話が盛り上がってきたところですが、ちょうど時間となりました。この続きは、ぜひ次回に伺いたいと思います。

里崎五十嵐 了解です。ではまた次回も、よろしくお願いします!

(連載第10回に続く)

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里崎智也

里崎智也さとざき・ともや

1976年5月20日生まれ、徳島県出身。鳴門工(現鳴門渦潮)、帝京大を経て1998年のドラフト2位でロッテに入団。正捕手として2005年のリーグ優勝と日本一、2010年の日本一に導いた。日本代表としても、2006年WBCの優勝に貢献し、2008年の北京五輪に出場。2014年に現役を引退したあとは解説者のほか、YouTubeチャンネルなど幅広く活躍している。
公式YouTubeチャンネル『Satozaki Channel』 

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五十嵐亮太

五十嵐亮太いがらし・りょうた

1979年5月28日生まれ、北海道出身。1997年ドラフト2位でヤクルトに入団し、2004年には当時の日本人最速タイ記録となる158キロもマークするなど、リリーフとして活躍。その後、ニューヨーク・メッツなどMLBでもプレーし、帰国後はソフトバンクに入団。最後は古巣・ヤクルトで日米通算900試合登板を達成し、2020年シーズンをもって引退した。現在はスポーツコメンテーターや解説として活躍している。

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長谷川晶一

長谷川晶一はせがわ・しょういち

1970年5月13日生まれ。早稲田大学商学部卒。出版社勤務を経て2003年にノンフィクションライターとなり、主に野球を中心に活動を続ける。05年よりプロ野球12球団すべてのファンクラブに入会し続ける、世界でただひとりの「12球団ファンクラブ評論家(R)」。主な著書に、『詰むや、詰まざるや 森・西武 vs 野村・ヤクルトの2年間 完全版』(双葉文庫)、『基本は、真っ直ぐ──石川雅規42歳の肖像』(ベースボール・マガジン社)、『いつも、気づけば神宮に 東京ヤクルトスワローズ「9つの系譜」』(集英社)、『中野ブロードウェイ物語』(亜紀書房)、『名将前夜 生涯一監督・野村克也の原点』(KADOKAWA)ほか多数。近刊は『大阪偕星学園キムチ部 素人高校生が漬物で全国制覇した成長の記録』(KADOKAWA)。日本文藝家協会会員。

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