後半戦への期待を込めて佐藤輝明に注目する 後半戦への期待を込めて佐藤輝明に注目する

阪神2連覇の鍵を握るのが、佐藤輝明。5月に2軍落ちを経験し、さまざまな変化が見られたというが、具体的にどう変わったのか? 後半戦への期待を込めて、この男に注目する。

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■2軍落ちの本当の理由は?

阪神の2連覇〝アレンパ〟への後半戦に向けて重要なキーマンとなりそうなのが、サトテルこと佐藤輝明。

昨年、不動の4番として阪神の日本一に貢献した大山悠輔の不調で陰に隠れている印象だが、彼もまた悩んでいるようだ。

5月14日までの1軍での成績は35試合の出場で打率.209、3本塁打、17打点。本塁打が止まっている打席数も自己最長記録を更新。

守備面でも不安が。5月14日の中日戦でリードしていた8回、キャッチャーからのバント処理の送球を落球。オールセーフとなり、このプレーをきっかけにチームは逆転負けしただけでなく、首位からも陥落した。

試合を決めるエラーをした佐藤はこの時点でリーグ最多タイの6失策を記録。守りの野球を掲げる岡田彰布監督の我慢も限界に達したのか、翌日から2軍落ちとなった。

長年、阪神を取材し続けている全国紙の記者はこう語る。

「誰もが認める主軸の選手となりチームを引っ張っていくのか、このままダメになっていくのか、まさに剣が峰に立たされている状況です」

5月14日の中日戦でバントの送球を落球し、敗戦につながった。この時点で6失策を記録 5月14日の中日戦でバントの送球を落球し、敗戦につながった。この時点で6失策を記録

まずは打撃の不調面について、記者が語る。

「佐藤のバッティングの課題はインハイを攻められると打球が前に飛ばないことと、速球にからっきし弱いこと。

岡田監督はその原因のひとつとして、グリップをヘルメットのてっぺんあたりの相当高い位置で構えているからだと昨シーズンから指摘していました。これだと振り遅れるので、速球もインハイの球も打てない。ですが、なかなか直すことはなかったんです。

しかし、今シーズンオフにアメリカでフォーム改造に着手。グリップの位置がヘルメットのてっぺんあたりから、耳の横あたりまで下がり、岡田監督が昨年から指摘していたフォームのとおりに直った。当然、監督も佐藤に昨年以上の活躍を期待していました」

ところが、ふたを開けてみると。

「インハイや速球は相変わらず打てないまま。さらに打撃に迫力がなくなったのか、ホームラン数も激減しています。打っても前に飛ばずにファウル。カウントを悪くして、最後は落ちる球で空振り三振がパターン化しています。

試合前のフリーバッティングを見ていると、ホレボレするほど飛ばすんですよ。でも、試合になったらなぜか前に飛ばない。不思議なくらいです」

一方の守備面についてもこう語る。

「今年のキャンプでは、佐藤だけコーチがつきっきりで、1日おきか、3日に1回かで特守(守備の特訓)をやっていました。たぶん、ほかの選手の2倍、3倍と守備練習をやってきたんです。

それでもうまくならないということは、練習に気持ちが入ってなかったんだと思います。コーチは一生懸命なんだけど、佐藤本人がその重要性を汲み取れなかった。

例えば、いろんな評論家からエラーが多い理由のひとつは腰が高いことだと指摘されるんですが、試しに低くしてみようとか、そういうことをしないのが佐藤なんです。

入団当時の矢野燿大監督がよく言ってたんですが、『佐藤は無駄なことをしない。あえて無駄なことをやって確かめていかないと、本当に大切なことはわからないぞ。と言ってるんだけど......』と。もっと言うと、泥くさいことをなるべくしないでおこうとするタイプなんですよね」

記者は、こうした態度が2軍落ちの原因になったのだろうと推測する。

「致命的なエラーが重なったときに2軍落ちしたので、守備が悪いから、打てないから落とされたと思われるかもしれませんが、岡田監督はそれだけで主力選手を2軍に落とすようなことはしないでしょう。

エラーは出るもんだということで、それ自体を責めるようなことはない。それよりも監督が一番気にしているのが佐藤の野球に取り組む姿勢です。

エラーをした結果自体は責めなくても、そのためにどんな準備をしてきたのか、どんな取り組みをしているのか。その過程や姿勢をすごく重視する監督です。

また、佐藤は打てなかったり、エラーをしても悔しそうな様子を見せない。淡々と何もなかったように振る舞う姿勢も問題に感じたのでしょう。

さらに、成績を残している大山、近本(光司)らはみんな試合のあるときでも朝から顔を出して練習をしてます。佐藤がそんなことをしているのは聞いたことがなく、球場入りも遅い。成績を残している選手は練習の裏づけがちゃんとあるんですよね」

■2軍落ちで明らかな変化が

かくして、2軍落ちした佐藤。鳴尾浜球場(阪神の2軍球場)では女性ファンから「こんなとこ(2軍)で練習してても意味ないやろ! うまくならへんで!」ときついヤジまで飛ぶ始末。

ただ、2軍でもがいている6月5日に、大山が自ら申し出る形で2軍降格というニュースが飛び込んできた。そこで、7日に突然、佐藤の1軍昇格が決まったのだ。前出の記者が語る。

「監督はもちろんあのタイミングで上げる気はなかったはずです。大山があんな形で2軍に行ってしまったので、背に腹は代えられないということで、やむをえず佐藤を上げたというのが実情でしょう。大山が本来の姿なら今も2軍にいたと思います」

ところが、2軍落ち効果なのか、ここから少しずつ変わってきたという。

「1軍に上がった日の取材で、監督から『起爆剤になってくれ』と言われたことについて質問すると、本人から『やる気満々です』と返ってきました。

2軍に落ちる前は自分からそんなことを言う選手じゃなかった。『チームの悪いムードを俺が変えてやる』という気持ちが強かったんだと思います。それを記者の前で堂々と口にしたのは佐藤としては珍しかったです」

さらに、守備や姿勢に関しても変化が見られた。

「フットワークは2軍に落ちる前よりうんと良くなっています。それにヘッドスライディングで本塁に突入する姿勢。泥くさいことをやろうとしない佐藤がユニフォームを泥まみれにして突っ込んだ。これまでの佐藤では考えられないプレーでした。

こういう闘志あふれるプレーは監督や首脳陣にしっかり伝わったと思います。そもそも岡田監督はそういう気持ちの入ったプレーをする選手をすごく評価します」

打撃もまだはっきりとした数字には表れていないが、上向きだという。

「6月16日のソフトバンク戦の第1打席は、課題である速球を見事に打ち返したヒットでした。追い込まれた後、粘って粘って速球をライト前に打ち返した。あんな速球を引っ張ってヒットにすることなんてあまりなかったんです。

それまでは、スピードの落ちた変化球を拾ったヒットばかりで、あまり見たことのないバッティングでした。何か復活のきっかけでもつかんだのかもしれません」

記者が今後の期待を込めてまとめてくれた。

「岡田監督が2軍落ちさせた真意を受け入れ、肝に銘じることができるかが、今後の野球人生を変えていくことになると思います。今のところ、岡田監督をはじめ、周りの意見を聞き入れる雰囲気が見られますし、自分を変えていこうと試行錯誤している感じがします。

また、大山の不調など、チームの状態が悪いですから、自らが変わることで引っ張っていく姿勢を見せることができたら、本人も自信につながるでしょうし、周りの佐藤を見る目も違ってくるはずです。実際、先頭に立ってアップの声出しをするなど少しずつ変わってきてるようです。

問題はこれが今後ずっと続くかどうか。ファンもそうでしょうけど、首脳陣やチームメイトもみんな佐藤の変化が本物かどうか、注目しているところです。それが後半戦の阪神の成績の鍵になるでしょうね」