オグマナオトおぐま・なおと
1977年生まれ。福島県出身。雑誌『週刊プレイボーイ』『野球太郎』『昭和40年男』などにスポーツネタ、野球コラム、人物インタビューを寄稿。テレビ・ラジオのスポーツ番組で構成作家を務める。2022年5月『日本野球はいつも水島新司マンガが予言していた!』(ごま書房新社)を発売。
今、プロ野球で最も旬な男、水谷 瞬(日本ハム)。昨季オフの現役ドラフトで加入し、交流戦でいきなり大爆発。果たしてこの勢いは本物なのか? そもそも、水谷 瞬とは何者なのか? プロ2年目の段階でその潜在能力を見抜いていた野球評論家のお股ニキ氏に選手としての特徴を解説してもらった。
※成績は6月24日時点。
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昨季オフにソフトバンクから現役ドラフトで日本ハムに加入し、交流戦でプロ初ホームランを放ったかと思えば、交流戦歴代最高となる打率.438で首位打者に輝き、満場一致で交流戦MVPに選出された水谷 瞬。
『週刊プレイボーイ』本誌おなじみの野球評論家、お股ニキ氏は、ソフトバンク時代から水谷には注目しており、2021年には「すぐに出てくるというわけではないが、ポテンシャルが高い」とスポーツ紙で論評していたが、どのような観点でその潜在能力を見抜いたのか、解説してもらおう。
「身長193㎝というサイズや身体能力の魅力はもちろんありましたが、プロ2年目の20年頃から打ち方がだんだんと良くなって打球も飛ぶようになり、2軍でホームランが増え出したんです。昨季も2軍では83試合に出場し、8月以降は打率3割超えと結果を出していました」
では、なぜその逸材はソフトバンクで一度も1軍出場の機会がなかったのか?
当然、選手層が厚いということもひとつの要因ではあるが、お股ニキ氏はソフトバンクならではのチーム事情にも言及する。
「昨季、2軍監督として水谷を指導していた小久保裕紀監督もその潜在能力は認めていましたが、打つだけでは出られないのがソフトバンク。なんでもできることが求められます。水谷の場合、守備は肩や足といった身体能力頼みでまだまだ課題が多く、2軍暮らしが続いたのでしょう」
また、ソフトバンクは以前から右打者の育成が決して得意ではない、とお股ニキ氏は話を続ける。
「ソフトバンクは柳田悠岐を筆頭に、栗原陵矢や柳町達ら左の好打者を育てるのがうまい。一方、右打者として活躍したのは内川聖一さんや李大浩、アルフレド・デスパイネ、ジュリスベル・グラシアル、そして今季から加わった山川穂高ら他球団から獲得した選手が多い。水谷もどう伸ばしていいのか、うまくビジョンが描けなかったのかもしれません」
では、今季から移籍した日本ハムではなぜこれほど打ちまくっているのか?
「ひとつは、万波中正がブレイクした流れを踏まえ、次のブレイク候補として新庄剛志監督の期待を受けたことが大きい。4月の1軍初昇格の際は結果が出なかったものの、その後は2軍で本塁打1位(8本)と無双し、交流戦前の再昇格に成功。期待に応えました」
チャンスを生かせたのは、もちろん打撃技術の向上もあったはず。ソフトバンク時代との違い、現在の打撃フォームを掘り下げていこう。
「ソフトバンク時代は少し前かがみの構えでしたが、今は背筋がスッと伸びて、古田敦也さん(元ヤクルト)やMLB首位打者3度のホセ・アルトゥーベ(アストロズ)のような構えになり、バランスがグッと良くなりました」
また、スタンスの狭さも特徴的だという。
「脚が長く高重心ですが、スタンスが以前よりも狭くなり、コンパクトな回転でスイングできるようになった。でんでん太鼓のようなイメージです。
レジェンドの張本 勲さん(元巨人ほか)もよく指摘していますが、スイングを安定させるためにはスタンスは狭いほうがいい。3度の三冠王の落合博満さん(元中日ほか)もスタンスは狭かったです」
こうした構えのバランスが良くなったことに加え、「水谷の魅力はスイング軌道」とお股ニキ氏は語る。
「スイング軌道がとにかく抜群。速いストレートに押され気味でも、ポイント近くでしっかりととらえることができる。そして、手首を返すタイミングもいいので、変化球には泳ぎかけながらも体勢を残し、左手一本でも飛距離を出せる。ミートポイントに奥行きがあるから、打率と長打の両立が可能なんです」
変化球のさばき方に関しては、ソフトバンク時代に師事した松田宣浩さんの影響もあるのではないか、と考察する。
「松田さんもあえて前に出されかけながらも、体勢を残してさばくことができる打者でした。松田さんは統一球問題のあった11年に、48本塁打を記録した中村剛也(西武)に次ぐ25本塁打を放ちましたが、今季の飛ばないボールにも適した打ち方といえます。
その上で、水谷はコンパクトなスイングができるので、松田さんよりも打率を残せるんです」
実際、水谷はどのコースでも満遍なく打つことができ、穴がない。
「水谷は基本的にハイボールヒッターですが、低めに落ちる変化球を打つのが抜群にうまい。パ・リーグの打者はフォークやスプリット系の落ちる変化球が苦手なタイプが多い中、水谷は異質な存在です。
だからといって、スピードボールに弱いわけではなく、ストレートの打率も高いですし、スライダー系の変化球も苦にしません。ストレート待ちでも変化球に反応できるから穴が少ない、といえます」
まさに破竹の勢いの水谷だが、この好調ぶりは一過性ではなく、7月以降も続くのだろうか?
「交流戦が出来すぎだったのも否めませんが、高低もコースも苦にせず、コンパクトな回転で対応できる柔軟性が水谷の魅力。
多くの日本人バッターは反動をつけて打つスイングのせいで、スランプに陥ると長引いてしまいますが、水谷はタイプが違うので、崩れにくい上に不調になっても長引かないタイプではないかなと思います」
改善すべき点や今後の課題はあるのだろうか?
「ソフトバンク時代からフォロースルーが小さめなのが気になっています。以前よりもだいぶ良くなってきたとはいえ、もっと大きなスイングを心がけるといいと思います」
また、ソフトバンクで出場機会を得られなかった課題のひとつである打撃以外の面についても、今後不動のレギュラーになる上では伸ばしていきたいポイントといえる。
「今はレフトを守っていますが、試合終盤に守備固めを出されるケースもあり、これが現状の守備力といえます。打席数を増やすためにも代えられない守備力は身につけたい。
新庄監督の経験と技術を学べば、万波と共に日本屈指の両翼になれる可能性は十分ある。打率を残せる水谷と長打力のある万波、と打撃の特徴も異なるので、いいコンビになりそうです」
この万波との強力コンビが不動のものになれば、必然的に日本ハムのチーム力向上にもつながってくる。
「広島のリーグ3連覇を牽引した存在といえば、3番センター丸佳浩と4番ライト鈴木誠也の強力な外野コンビ。水谷も脚力的には松本剛に代わってセンターを務める身体能力はある。丸・鈴木に匹敵する存在になってほしいです」
将来的に目指してほしい選手は誰なのか?
「私は2021年の段階で『ブラディミール・ゲレーロのようなスケールの大きな打者になってほしい』と言及していましたが、究極的な理想像は変わりません」
エンゼルス時代の大谷翔平と本塁打王争いをしたことでもおなじみのブラディミール・ゲレーロJr.(ブルージェイズ)の父親で、ドミニカ共和国出身の野手で史上初めてアメリカ野球殿堂入りを果たした人物だ。
「ゲレーロは、今の水谷に和田一浩さん(元中日など)のような要素を加えた選手。バットを長く使えるのに、コンパクトなスイングができました。
もちろん、ゲレーロは究極的な理想ですが、水谷もコンパクトなスイングで打率を残せるのに、本塁打も打てるのが魅力。打率.330、20本塁打を目指してほしいです」
就任時、「スターをつくる」と語っていた新庄監督の思惑どおり、新たなスター誕生となるのか? 最大瞬間風速の強さだけでなく、息の長い活躍をぜひとも期待したい。
1977年生まれ。福島県出身。雑誌『週刊プレイボーイ』『野球太郎』『昭和40年男』などにスポーツネタ、野球コラム、人物インタビューを寄稿。テレビ・ラジオのスポーツ番組で構成作家を務める。2022年5月『日本野球はいつも水島新司マンガが予言していた!』(ごま書房新社)を発売。