中島大輔なかじま・だいすけ
2005年から英国で4年間、当時セルティックの中村俊輔を密着取材。帰国後は主に野球を取材。新著に『山本由伸 常識を変える投球術』。『中南米野球はなぜ強いのか』で第28回ミズノスポーツライター賞の優秀賞。内海哲也『プライド 史上4人目、連続最多勝左腕のマウンド人生』では構成を担当。
昨年1年間、横浜DeNAベイスターズでプレーし、さすがサイ・ヤング賞投手という投球を披露したトレバー・バウアー。今季もメキシカンリーグで圧倒的な成績を残しているバウアーがベイスターズでの1年、メジャー復帰への思い、安樂智大のこと......すべてを打ち明けた。
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――今季プレーしているメキシカンリーグは〝打高投低〟で知られますが、すべてリーグ最高の投手成績ですね(9勝0敗、防御率1.56、102奪三振、成績は現地時間6月24日時点)。
バウアー 最初の登板では制球があまりうまくできずに4回途中4失点だった。でも打者のスイング軌道をうまく見極められるようになり、思うように制球できるようになってから成績も良くなったよ。
――メキシコの野球は日本やアメリカとどう違いますか。
バウアー アメリカの野球はパワーゲームだ。投手はボールを強く投げ、打者は強く打ち返すことを心がけて、誰も三振を怖がらない。
一方、日本はスピードゲームだね。バントやヒットエンドラン、盗塁を多用する。投手はただ球速を求めるのではなく、制球をより意識している。
メキシコの野球は日米のコンビネーションかな。強く打ち返すことを意識する打者も、バントや足を使ってくる打者もいる。
――所属するメキシコシティ・レッドデビルズ(ディアブロス・ロホス・デル・メヒコ)と最初に5試合先発の短期契約を結び、5月に1ヵ月延長、そして今季終了まで契約更新しました。
バウアー ひとつはディアブロス(レッドデビルズ)の監督、コーチ陣、フロントが歓迎してくれていることだ。ファンも素晴らしく、野球をとても楽しんでいる。
ふたつ目はシーズン途中にチームを離れるのはつらかったからだ。われわれは優勝のチャンスを手にしている。本当にいい仲間がいるし、2ヵ月で離れるのは間違った決断だと感じた。
――メジャーリーグ球団からオファーがあれば、シーズン中でも移籍できるのですか。
バウアー もちろん、そういう契約になっている。
――メジャー復帰が今の最大の目標ですか。
バウアー 是が非でもメジャーに復帰したいが、ほかにも目標はある。例えば沢村賞の受賞だ。サイ・ヤング賞との2冠は史上初になるからね。
でもオレはまだ若いし、キャリアの最盛期にいる。以前よりいい投手になっているし、メジャーでのプレー機会を与えられるべきだ。オレが今、メジャーでプレーすべきでない理由は何もないはずだ......。
――あなたは最高の実力を持ち、メジャーは最高峰の舞台だから復帰したいのですか。
バウアー 理由は多くある。ひとつは10年のサービスタイム(支配下登録期間)を達成したいからだ。あと約1年半で届くからね。
――サービスタイム10年で年金が満額受給になりますね。
バウアー そしてふたつ目は、ワールドシリーズで優勝すること。3つ目はサイ・ヤング賞をもう一度受賞することだ。
――ディアブロスと契約更新した際、多くのベイスターズファンが、昨年横浜でプレーしてくれたことに感謝を表しました。
バウアー 本当にありがたいね。ベイスターズに戻りたくないからディアブロスと契約更新したと受け止められる可能性もあったけど、そうは思われなかった。今年メキシコでプレーしているけど、日本に戻らないということではない。ベイスターズファンが今でも応援してくれているのは本当にうれしいよ。
――ベイスターズは今季も契約をオファーしましたが......。
バウアー 話し合いは重ねていたけど、今年のオレの状況は特殊だった。メジャーからオファーが来たときに備え、自宅から近い場所にいたかったんだ。メキシコでチャンスをもらい、開幕前にヤンキースとのオープン戦で投げることも重要だった。そうした事情でベイスターズとは契約しなかった。今の状況を考えれば正しい決断だったと思う。
――日本での思い出は?
バウアー まず横浜スタジアムでのデビュー戦だね。多くのファンが大声援を送ってくれたことは今でも覚えている。
由緒ある甲子園でプレーしたこと、全国各地でファンと一緒に写真を撮ったこと。横浜駅近くの建物の壁面(横浜髙島屋)に、オレの投球姿を巨大幕にして掲げてくれたのはたまげたよ(笑)。そんな巨大幕は初めて見たから感激したね。思い出はいくらでも話せるよ。
――チームメイトだった今永昇太投手が今季、シカゴ・カブスに移籍して大活躍中です。
バウアー とんでもないスタートを切って驚いているよ。彼は本当にいいヤツで、好奇心旺盛だ。常に学び続けて成長しようとしている。
――これほどの活躍をすると想像できましたか。
バウアー 成功すると思っていたけど、ここまでとは......。彼は左腕で低い位置からリリースし、回転数が多い。速球の軌道が効果を発揮している。アメリカの打者はアッパースイングだから彼の速球に手を焼いていると思う。
――サイ・ヤング賞を受賞する可能性はあると思いますか。
バウアー もちろん。でも、シーズンはまだ長い。日本では中6日だったのがアメリカでは中4、5日になり、シーズン終盤には疲労も蓄積されてくる。今のメジャーではデータが集積されて相手は対策してくるしね。
でも、今永は好奇心が強いから壁に少々当たっても乗り越えられるはずだ。持ち球や制球力を考えたらサイ・ヤング賞を受賞するチャンスはもちろんある。彼が長いシーズンをどう乗り切るか、楽しみにしているよ。
――現在、安樂智大投手(元楽天)とチームメイトです。
バウアー いつも話しているよ(笑)。通訳を介して投球フォームについてよく話している。オレがフォークの投げ方を聞き、彼は前足の使い方や球速の出し方を聞いてくる。ジムでは心の持ち方を聞いているよ。ほかの投手がどう考えているかに興味があるんだ。
――安樂投手はなんと?
バウアー 「何が起きようとも動じず、心を平穏に保つようにしている」と話していた。マインドゲームで参考になるね。一緒にメキシコのオールスターにも出たし、彼の投球を見ているのは楽しいよ。
――安樂投手は昨年パワハラ騒動で楽天を退団してメキシコに来ました。
バウアー その話もしたよ。その場にいたわけではないので何があったのかはわからない。それに彼の側から話を聞いただけだしね。でも......。
――でも?
バウアー 人は誰でも間違いを犯す。オレ自身もそうしたことを何度かしたかもしれない。自分の言動が意図どおりに受け取られないこともある。他者の誤解は自身が招いたことだけど、決して意図したわけではない。
望むのは、人々が互いに理解し合うことだ。そしてみんなが自分の仕事に復帰でき、自分らしい人生を再び送れるようになるといい。
――あなたと安樂投手は境遇が似ていますね。
バウアー 安樂を知れば知るほど、誰かに悪意を持って接する人だと思わない。きっと誤解があったのだと思う。人々が彼を許し、望むような野球人生を歩めるようになってほしい。日本復帰かメキシコ残留、あるいはアメリカに行くのか。そのどれでもね。
――セカンドチャンスを与えられてほしいと?
バウアー もちろん過ちを犯したら、自分を律しなければならないことは理解している。そうしなければ人は同じ失敗を犯し続けるからだ。同時に人は学び、適応して変化する。セカンドチャンスが与えられなければ、それを示すこともできないからね......。
オレは安樂と同じような体験をした。彼がどう感じてきたかは想像できる。安樂にはセカンドチャンスがふさわしいと認められ、与えられてほしいね。
――最後に、日本のファンにメッセージをお願いします。
バウアー 本当に多くの声援に感謝している。みんなに会いたいよ。昨年は素晴らしいシーズンだった。またいつか日本に戻るので、球場で会える日を楽しみにしているよ。
●トレバー・バウアー
1991年生まれ。2011年のMLBドラフトでダイヤモンドバックスに1巡目(全体3位)で指名され、レッズ時代の20年にサイ・ヤング賞受賞。ドジャース時代の22年に女性へのDV疑惑で出場停止処分を受け、23年はDeNAでプレー。メジャー復帰を目指し、現在はメキシカンリーグでプレー。
2005年から英国で4年間、当時セルティックの中村俊輔を密着取材。帰国後は主に野球を取材。新著に『山本由伸 常識を変える投球術』。『中南米野球はなぜ強いのか』で第28回ミズノスポーツライター賞の優秀賞。内海哲也『プライド 史上4人目、連続最多勝左腕のマウンド人生』では構成を担当。