昨季まで3年連続2桁勝利をマークしたが、今季は自己ワーストに並ぶ8連敗と絶不調の髙橋。6月24日に登録抹消となった 昨季まで3年連続2桁勝利をマークしたが、今季は自己ワーストに並ぶ8連敗と絶不調の髙橋。6月24日に登録抹消となった

交流戦直前に電撃休養した松井稼頭央監督から引き継ぎ、渡辺久信GM兼監督代行が指揮を執る埼玉西武ライオンズ。異常なまでの投手偏重編成により、12球団ワーストの得点力で2年連続交流戦最下位に沈むなど、球団史に残る泥沼状態。どうしたらこの暗黒期を抜け出せるのか?

■もはや社会実験。混迷西武の問題点

交流戦直前に渡辺久信GM兼監督代行が指揮を執り始めたが、2年連続の交流戦最下位に沈んだ埼玉西武ライオンズ。一時、勝率が3割を切り、シーズン100敗も現実味を帯びてきた。

「開幕早々、山川穂高(ソフトバンク)に2打席連続満塁弾を浴び、チームもファンも意気消沈したことが悪い流れの要因のひとつだと思います。しかし、野手の選手層が厳しいのは開幕前からわかっていたこと。監督を代えて解決できるものではないでしょう」

こう述べるのは本誌おなじみの野球評論家、お股ニキ氏だ。開幕前には、昨季2桁勝利の髙橋光成、今井達也、平良海馬、昨季9勝の隅田知一郎らがそろう陣容が「投手王国」と評価され、Aクラス争いを予想する解説者も多かったが、お股ニキ氏は「これだけ投手に偏重した編成はもはや社会実験。むしろ、この投手陣を生かして問題山積みの野手陣の補強をしたほうがいい」と警鐘を鳴らしていた。

「現役ドラフトでは長打もある愛斗(現ロッテ)を放出し、投手の中村祐太を獲得。山川のFA移籍による人的補償でも、ソフトバンクから若手有望株の野手をいくらでも選べたはずなのに甲斐野央を指名。当初噂された和田毅にせよ、投手偏重の姿勢だったのは明らかです」

その投手偏重ぶりは、移籍劇だけに限らないという。

「実力以上に高額な年俸をもらう選手がいるなど、選手の評価に違和感があります。"山賊打線"と呼ばれた強力野手陣でリーグ連覇したのはわずか5年前。いったい球団内でどのような方針転換があったのか。その意味で、問題は選手や監督ではなく、過去の成功体験から編成に慢心や偏りがあったことではないでしょうか」

11年ぶりの現場復帰となった渡辺GM兼監督代行。2008年には日本一に導く手腕を発揮したが、低迷にあえぐチームを立て直せるか 11年ぶりの現場復帰となった渡辺GM兼監督代行。2008年には日本一に導く手腕を発揮したが、低迷にあえぐチームを立て直せるか

投手偏重と連動し、貧打も問題となっている。得点数(160)は12球団最少で、最多のソフトバンク(316)とは150点差以上。交流戦のチーム打率は.171で、スタメン9人で今季の本塁打が1本だけ、という打線の日もあったほどだ。

「主力野手を放出し続け、栗山巧と中村剛也の40歳コンビがいまだにクリーンナップを打っています。リーグ連覇を知る中堅の源田壮亮、外崎修汰も本調子ではありません。

そもそも源田も外崎も守備が魅力の選手であって、山賊打線ではスパイス的な役目でした。打線の主軸を務めるタイプではなく、共に30代になって守備の動きも全盛期より下降気味。センターライン以外の守備が壊滅的なのも失点増の要因です」

その打線のテコ入れのため、若林楽人とのトレードで巨人から松原聖弥を獲得。早速スタメンに名を連ねている。

「松原は2桁本塁打を打った経験もあり、横振りでスパーンととらえた打球はしっかり飛ぶ。西武の好みと合致しています。

若林の放出を嘆くファンも多いですが、右打ちの外野手は、最近4番を打つ岸潤一郎、22歳の長谷川信哉、支配下登録されたばかりの奥村光一らがいて、若林は優先度が低かった。環境を変えてリスタートする意味でも、いいトレードだったと思います」 

巨人からトレードで加入した松原。早速、新天地で1番ライトでスタメン出場を重ねている 巨人からトレードで加入した松原。早速、新天地で1番ライトでスタメン出場を重ねている

■過去の事例から学ぶ低迷球団の再建策

どん底からの脱却のため、お股ニキ氏はもっと思い切った交渉カードを使ってトレードすべき、と提言する。

「例えば、ポスティング移籍でのMLB挑戦の意思を表明している髙橋と、野手の若手有望株をトレードする案があってもいい。日本の感覚では難しいかもしれませんが、MLBでは当たり前の交渉術です」

そのほか、ドラフト戦略の見直しなど、長期的な視点でのチーム改革も不可欠だろう。

「秋山翔吾(現広島)、森友哉(現オリックス)、山川、外崎らを立て続けに獲得した2010~14年のドラフト戦略は見事でしたが、それ以降は育成方針において、投手も野手もパワーばかりを重視するバランスの悪さが目立ちます。

力強いフルスイングも大事ですが、私が提唱するような配球や技術を駆使する投手が増えた今のプロ野球では、落ちるボールを投げられたらなかなか対応できません」

ドラフトや育成方針の見直しは、一朝一夕にうまくいくことではない。そこで過去に低迷、暗黒期を経験した球団を参考に再建案を考えていきたい。

お股ニキ氏がまず挙げたのは02年の阪神。それまでの7年間で最下位6度と苦しんでいた球団は、星野仙一監督が就任するや、一気に機運が変化。03年には18年ぶりのリーグ優勝を飾った。

「星野さんは監督としての手腕以上に、片岡篤史、下柳剛、伊良部秀輝、金本知憲、ジョージ・アリアスらを一挙に獲得したGM的手腕こそ真骨頂。阪神が人気球団で資金が充実していた点も大きいですが、お金をかけるべきポイントとタイミングを見逃さない決断力も重要だとわかります」

GMの存在による再生といえば、1990年代のダイエー(現ソフトバンク)も外せない。南海時代から15年もBクラスが続き、93年に"球界の寝業師"根本陸夫を招聘してから徐々に流れが変わっていった。

「根本さんは自ら監督を2年務め、その後はGM的立場に専念。王貞治監督を招聘するとともに、ドラフトでは小久保裕紀、城島健司、斉藤和巳、井口忠仁、松中信彦ら、後にチームの顔になる選手を次々に獲得していきました」

だが、それだけ改革しても連続Bクラスは97年まで続き、優勝できたのは王監督が就任してから5年目。荒療治をしても、そのくらいの期間を覚悟する必要があるのだ。

「近年では、2017年に96敗を喫し、4年後の21年に日本一になったヤクルト。6年連続Bクラスから一転、リーグ3連覇球団へと飛躍したオリックスがそうですね。ヤクルトは小川淳司GM、オリックスは福良淳一GMの下、的確なドラフト戦略と外国人補強で立て直しました」

■もしも身売りを検討するなら?

ほかにも、優勝という結果こそ実現できていないが、球団改革に成功した事例がある。ベイスターズだ。

11年オフにDeNAが球団買収をする以前、親会社がTBSだった10年間(02~11年)は最下位8度という壮絶さで、ファンですら「暗黒期」と語るほど。しかし、DeNAに代わると、最初の4年間こそBクラスが続いたが、その後はAクラスの常連へと様変わりした。

「DeNAの球団経営には野球への情熱を感じます。もはや、親会社からの出向サラリーマン組が幅を利かす時代ではなく、フロントこそ、野球への本気度が必要なんです」

DeNAは野球の成績だけでなく、営業利益も改善しているのがポイントだ。万年赤字続きだったが、経営を開始して5年で黒字化。観客動員数も5年で約80%増となるなど、その後も順調に伸びている。

一方、西武の今季公式戦入場者数は12球団ワーストで1試合平均2万1100人。成績不振も相まって、「球団売却構想」がメディアで取り沙汰されたのは一度や二度ではない。お節介ながら、もし身売りがあるのならば、どの企業がいいのか?

「ライオンズの文化を尊重してくれる企業で、スポーツに理解があり、積極的な姿勢を考えると......サイバーエージェントはどうでしょうか。ABEMAを活用した情報拡散力も期待できそうです」

最近では、J1昇格1年目ながら首位を争うFC町田ゼルビアの親会社としても注目を集めている。MLB中継やサッカーW杯中継でおなじみのABEMAを抱えるだけに、スポーツへの理解度は高い。

「親会社を代えるのはあくまでも仮定の話ですが、それくらいフロントを刷新する必要がある。今のフロント陣も改革しようとしているのはわかりますが、かつての根本さんや星野さんのような選手獲得術はサラリーマンにはなかなか難しいものです」

選手獲得以外でも、球団の姿勢はコーチ人事を見ればわかるという。

「少し癖はあるでしょうが、優れた打撃理論やコーチング能力のありそうな松中さん、中村紀洋さんらを招聘することで打撃力向上を狙う。そのくらい抜本的な改革をすれば変わるのでは」

かつて"パ・リーグの盟主"とも称された西武は令和の時代にどう変革を遂げるのか。球団創設50周年の28年に日本一を目指しているというが、果たして......。

40歳の大ベテランながら、今季もクリーンナップを任されている中村。ここまでチームトップの7本塁打を記録している 40歳の大ベテランながら、今季もクリーンナップを任されている中村。ここまでチームトップの7本塁打を記録している

オグマナオト

オグマナオトおぐま・なおと

1977年生まれ。福島県出身。雑誌『週刊プレイボーイ』『野球太郎』『昭和40年男』などにスポーツネタ、野球コラム、人物インタビューを寄稿。テレビ・ラジオのスポーツ番組で構成作家を務める。2022年5月『日本野球はいつも水島新司マンガが予言していた!』(ごま書房新社)を発売。

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