代表チームの南米チャンピオンを決める、コパ・アメリカが6月20日(現地時間)に開幕した。
南米チャンピオンを決めるといっても、今大会には南米10ヵ国に加え、北中米カリブ海地域の6ヵ国(アメリカ、メキシコ、カナダ、コスタリカ、ジャマイカ、パナマ)が出場しており、しかも、アメリカで開催されている。
なんとも不思議な感じがするが、コパ・アメリカは他地域の国を招待参加させることが珍しくなく、過去には日本も、1999年、2019年大会に出場している。また、アメリカでの開催も今大会が初めてではなく、むしろ施設や運営の面で、南米でやるよりも都合がいいのかもしれない。
アメリカにサッカーのイメージはないという人も多いだろうが、今大会の開幕戦、アルゼンチンvsカナダには7万人を超える観客が詰めかけ、チケットは完売。近年は、リオネル・メッシらの世界的スターがプレーするようになった国内リーグのMLSも意外なほどの盛り上がりを見せているのである。
今大会でも、そのメッシを擁するアルゼンチンの現地での人気はすさまじく、明らかにブラジルをしのいでいる。人気だけでなく、グループリーグ3連勝で決勝トーナメント進出を果たしており、W杯に続く、2冠達成へ視界良好といったところだ(本稿執筆のグループリーグ終了時点)。
さて、そんな今回のコパ・アメリカには、南米王座の行方以外にも注目すべきポイントがある。というのも、2年後のW杯は、アメリカ、カナダ、メキシコの3ヵ国共催で行なわれるからだ。
しかも、共催とはいえ、アメリカで行なわれる試合数が、全体の7、8割を占め、実質、アメリカW杯と呼んでもいいような大会になるのである。
だとすれば、W杯に先駆けて行なわれている国際大会、コパ・アメリカの様子は気になるところ。そこで現地の雰囲気をこの目で確かめようと、取材してみた。
W杯の試合会場となるスタジアムのうち、今回のコパ・アメリカでも使われているのは、全部で8ヵ所。すべてが普段はNFLのチームがフランチャイズにしているスタジアムだ。いずれも収容人数は7万~8万人と大きく、つまりは過去のW杯と比べても、販売されるチケット数も多くなることが期待される。
しかも、そこは世界最高のスポーツエンターテインメント文化を持つといってもいい、アメリカである。巨大施設でありながら、上部スタンドへのアクセスも、エレベーター、エスカレーター、広い階段(またはスロープ)とそろっていて、入場も退場もスムーズ。観客が渋滞してイライラさせられるようなことはない。
スタンドも何階層かに分かれて積み上がっていく構造のため、最上階の座席であっても、ピッチを上から見下ろすような位置になる。安い席でも、試合が見やすいことは請け合いだ。
中でも、その充実した施設が際立っているのは、ロサンゼルス郊外にあるSoFiスタジアムである。
20年に完成したばかりのこのスタジアムは、約7万人収容というサイズでありながら、まるでアリーナ(体育館)のように、天井から大型ビジョンがつるされている。
それも帯状のビジョンが輪になって設置されているため、スタンドのどこからでも映像を正面に見ることができる。上階の席に座れば、まさに目の前に大型画面がある、といった感覚だ。
さらには大きさだけでなく、映像も実にクリア。ピッチに目を移すのを忘れ、画面に見入ってしまうほどだ。
また、飲食の売店も充実しており、バーカウンターを併設したシャレた店まであるのには驚かされた。
単なるスポーツ観戦に終わらせず、その場にいることを楽しませようとするあたりは、さすがアメリカである。
だが、その一方で、いくつかの懸念材料もある。
まずは、広大な国土での開催ゆえ、ネックとなるのは移動距離の長さだ。
アメリカだけでも十分広いのに、カナダ、メキシコまで加わると、グループリーグ3試合を見るだけでも相当な移動距離になるだろう。
W杯では東、中、西の3地区に開催都市を分け、グループリーグでは基本的に同じ地区内でしか試合をしないことにはなっているが、正直、根本的な解決策とは言い難い。
例えば、今回、実際にサンノゼからロサンゼルスまでバス移動してみたが、地図で見ると目と鼻の先の両都市間でも、6時間弱かかった。
同じ西地区の開催都市であっても、シアトルからロサンゼルスとなると、陸路の移動は現実的ではなさそうだ。
ならばと、飛行機を頻繁に使うとなると費用はかさむ。それ以前に、W杯本番では増便があるにしても、限られた便を確保できるのかという問題も出てくるだろう。
今となっては、気軽に地下鉄やバスでスタジアム間を移動できた前回のカタールW杯が懐かしい。
さらに言えば、今回のコパ・アメリカで不満が聞かれたのは、芝の状態である。
前述のSoFiスタジアムをはじめとする屋根付きの会場では、普段は人工芝が使われている。そのため、今大会では天然芝のシートを何枚もつなぎ合わせてピッチがつくられていたのだが、そのコンディションが悪かったのだ。
アトランタのメルセデス・ベンツ・スタジアムで行なわれた開幕戦後には、アルゼンチンのリオネル・スカローニ監督が、「ピッチ状態が悪く、プランどおりにプレーできなかった」と、何度も繰り返しボヤいていたほどである。
とはいえ、総じて言えば、スポーツエンタメ大国で開かれるW杯が楽しみになったのは間違いない。少なくとも試合を楽しむことに関しては、大いに期待してよさそうだ。