福西崇史ふくにし・たかし
1976年9月1日生まれ 愛媛県新居浜市出身 身長181cm。1995年にジュビロ磐田に入団。不動のボランチとして黄金期を支える。その後、2006年~2007年はFC東京、2007年~2008年は東京ヴェルディで活躍。日本代表として2002年日韓ワールドカップ、2006年ドイツワールドカップにも出場。現役引退後は、サッカー解説者として数々のメディアに出演している
不動のボランチとしてジュビロ磐田の黄金期を支え、2006年開催のドイツワールドカップには、日本代表の中心メンバーとして出場。日本サッカーが世界水準へと飛躍していく瞬間をピッチの中央から見つめていた福西崇史。
そんな福西崇史が、サッカーを徹底的に深掘りする連載『フカボリ・シンドローム』。サッカーはプレーを深掘りすればするほど観戦が楽しくなる!
第101回のテーマはUEFA EURO 2024について。スペインが12年ぶり大会最多4度目の優勝で幕を閉じたEURO2024。攻撃的なスペインに対して、組織的な守備で挑んだイングランドの決勝戦を中心に、福西崇史がEURO2024を振り返る。
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現地時間7月14日(日)にUEFA EURO2024の決勝スペイン対イングランドが行われ、2-1でスペインの12年ぶり史上最多4回目の優勝で大会の幕を閉じました。今大会も個の力に優れるチームや組織に優れるチーム、そのどちらもハイレベルなチームがひしめき合い、非常に見応えのある大会だったと思います。
決勝に駒を進めたスペインとイングランドは、どちらもタレントが豊富でスペインは攻撃的なスタイルで圧倒し、イングランドは守備の硬さとビハインドから同点に追いつき逆転するメンタリティと勝負強さで勝ち上がってきました。
そんな両チームがぶつかった前半は、スペインがボールを保持して主導権を握り、イングランドはそうなることをわかった上で受けていたと思います。右サイドのブカヨ・サカがときにウイングバックのようになり、カイル・ウォーカーとともにニコ・ウィリアムズを抑えるなど、スペインの強みに対して守備の部分で工夫がありました。
前半はスペインがペースを握りながら0-0と膠着状態で折り返しました。しかし、後半が始まって2分、ニコ・ウィリアムズの先制点ですぐに試合が動きました。
イングランドが4-4-2で構える2トップの脇にファビアン・ルイスが落ちてボールを受け、ジュード・ベリンガムが判断に迷っている間に押し出された右SBのダニエル・カルバハルへ縦パス。カルバハルがワンタッチでラミン・ヤマルへパスを出したことで、イングランドはSBもCBも対応が間に合わなくなり、パスの質とタイミングは見事でした。
そのパスをヤマルがボールを流しつつ前を向き、その瞬間にアルバロ・モラタ、ダニ・オルモが次々に斜めに追い越してDFを引き付け、大外でフリーとなったニコ・ウィリアムズが冷静に左足のシュート。外から中へ侵入し、スペースを作る流れは教科書に載せたいくらい鮮やかでした。
守備的に戦っていたイングランドにとって重い先制点になりましたが、そこからハリー・ケインを下げてオリー・ワトキンス、コビー・メイヌーを下げてコール・パーマーを入れ、1点を取りにいく迫力はすごかったですね。
後半28分、パーマーの縦パスからサカがドリブルでペナルティエリアに侵入し、横パスをベリンガムが落としてパーマーのダイレクトシュート。所属のチェルシーでもこのようなシュートを決めてきましたが、EURO決勝という大舞台でまったく力むことなく、針の穴を通すような狭いところを射抜いた冷静さとシュート技術、それを22歳の選手がやってのけるメンタリティ。昔ジーコがシュートはゴールへのパスだと言いましたが、まさにそんな言葉がぴったりなスーパーゴールでした。
イングランドに流れが傾きかけたところもありましたが、最後は後半41分のミケル・オヤルサバルの芸術的とも言えるゴールが決勝点となりました。
アメリク・ラポルテからファビアン・ルイス、ダニ・オルモ、オヤルサバルと3本の縦パスが通ってイングランドのラインを次々と越えたことで、守備陣は後ろ向きの守備を強いられ、中に絞らざるを得なくなり、空いたサイドへマルク・ククレジャが見事なタイミングでオーバーラップ。
オヤルサバルがククレジャに展開し、そのボールをワンタッチでピンポイントのクロスを入れ、オヤルサバルがダイレクトに押し込む。縦パスによって最終ラインを崩し、サイドからDFとGKの間に鋭いクロスを入れて合わせるという理想的で、これも教科書に載せたいパーフェクトなゴールでした。
スペインはグループリーグでイタリア、クロアチア、アルバニアと厳しいグループに入りながら3戦全勝で突破。ノックアウトステージでもジョージアのあとは、ドイツ、フランス、イングランドと優勝候補を次々と倒し、全7戦7勝と完全優勝と言ってもいい大会だったと思います。個の質、組織力ともに大会No.1チームでした。
個々の選手を見てもニコ・ウィリアムズ、ヤマルという両翼は今大会を象徴する若いタレントで、準決勝で決めたヤマルの大会最年少ゴールは信じられないほど美しかったですね。また、ククレジャとカルバハルは技術と経験に裏打ちされたプレーで攻守に質の高いサイドバックでした。
とくに良かったと思うのはロドリ、ファビアン・ルイス、ダニ・オルモの中盤中央の3人。大会MVPのロドリは相変わらずアンカーとして攻守ともに素晴らしく、ファビアン・ルイスもボランチの位置でロドリを助けつつ、前に出ても決定的な仕事をして攻撃に厚みを加えて、今大会での影響力は非常に大きかったと思います。
個人的に一番印象に残ったのはダニ・オルモでした。代表やクラブで十分にキャリアのある選手だとわかった上で、驚きのパフォーマンスでした。ペドリが怪我で離脱してからダニ・オルモのライン間で受けたり、裏へ抜け出したりと絶妙ないやらしい働きが攻撃に変化を加え、なおかつチームのためのプレーも随所に見られて改めていい選手だなと思わされました。
決勝の2チーム以外にもイマイチ調子が上がらなかったフランスでしたが、タレントの数は今大会随一でこれからが楽しみなチーム。開催国のドイツもフロリアン・ビルツやジャマル・ムシアラなど、これからを担うタレントがいるなかで、やはり目を引いたのは今大会で引退したトニ・クロースでした。
ゲームをコントロールする力、一発で局面を変えるキック精度は唯一無二で、守備においても重要なところで潰しに行ける。改めて引退がもったいないと誰しもが思うパフォーマンスだったと思います。
ほかにもクロアチアのルカ・モドリッチやポルトガルのクリスティアーノ・ロナウドなど、今大会が代表では最後になりそうな選手たちが多く、そういった意味でも見応えがあって感慨深い大会でもあったと思います。次はイギリスとアイルランドで開催されるようですが、どんな大会になるのか今から楽しみです。
1976年9月1日生まれ 愛媛県新居浜市出身 身長181cm。1995年にジュビロ磐田に入団。不動のボランチとして黄金期を支える。その後、2006年~2007年はFC東京、2007年~2008年は東京ヴェルディで活躍。日本代表として2002年日韓ワールドカップ、2006年ドイツワールドカップにも出場。現役引退後は、サッカー解説者として数々のメディアに出演している