里崎智也×五十嵐亮太のライフハックベースボール! 日本を代表するレジェンドプレイヤーの2人が、野球からの学びをライフハックに翻訳、「生き抜く知恵」を惜しげもなく大公開。連載の第12回ではおふたりの「心地いいお金」に関する考え方に迫ります!

「心地いいお金」について語った里崎氏(左)と五十嵐氏(右) 「心地いいお金」について語った里崎氏(左)と五十嵐氏(右)

■「○○依存症」について思うこと

――前回はお金の話から、「投資とギャンブル」について、そしてギャンブル依存症について話が及びました。里崎さんは「ギャンブル依存症については、いろいろと言いたいことがある」とのことでしたが、どんなことでしょうか?

里崎 ギャンブル依存症の人たちが、どうして「これ以上、賭けちゃダメだ」とわかっているのにギャンブルをやめられないかを考えてみると、それは単に「億万長者になりたい」とか、「大金持ちになりたい」という理由だけじゃなくて、そもそも賭けること自体に喜びを見い出しているからだと思うんです。

五十嵐 よく言われることだけど、「ギャンブルしているときには脳内からドーパミンなどの快楽物質が大量に分泌されている」って言いますよね。

里崎 いわゆる「ドキドキ感」を味わいたいということでしょう。それは、アルコール依存症にしても、万引き常習犯にしても、麻薬中毒者にしても、根本にあるのは同じ理由だと思うんです。アルコール依存症の人も、単に「酒が好きだから」という理由だけではないはずです。

五十嵐 僕自身、ラスベガスでマイナー生活していたときにはチームメイトとカジノに行ったこともあるし、ドミニカに行ったときにもホテルに隣接されているカジノに行ったけど、最初に決めた範囲内のお金しか賭けなかったから、どハマりすることはなかったです。

里崎 僕も経験はあるけど、やっぱりハマることはなかったですね。

■「心地いいお金」を稼ぎながら生きていきたい

――ギャンブルにハマる人、ハマらない人。その分水嶺はどこにあるのか? おふたりはどうしてハマらなかったと思いますか?

五十嵐 僕の場合は、前回も言ったように、「そもそもギャンブルでお金を儲けよう」と思っていないことも理由のひとつだし、いちばんの理由は「大金を手にした経験があるから」かもしれません。何百万、何千万という額でも、現役時代には自分の右腕で稼ぐことができた。自分が努力して結果を残すことができれば、その分、年俸も上がっていきます。その経験があるから、ギャンブルで手にするお金に対しても、そこまで夢のある額だという気がしないのかもしれない。

里崎 今、亮太が言ったように、「かつて自分の手で大金を稼いだことがある」ということは、確かに影響していると思います。「それはプロ野球選手だから特別なんだ」「里崎だから言えることだ」と言われれば、「はい、その通りです」としか言えないけど。ただ、僕がギャンブルにハマらないのは、金銭感覚のズレがないから、ということもあると思います。

ある程度収入が固定化されているのに、収支がマイナスになるということは、突発的なアクシデントがない限り、それはやっぱり金銭感覚にズレが生じているということだと思うんです。収入に見合った使い方、ギャンブルで言えば"賭け方"ができない。それは「ズレ」としか言いようがないですよ。

五十嵐 あと、僕の場合は手にしたときに「心地いいお金」と「心地よくないお金」の差も大きいと思いますね。きれいごとのように聞こえるかもしれないけど、やっぱり自分で働いて手にしたお金は喜びもあって心地いいけど、ギャンブルで手にしたお金は、あんまり心地が良くない。そういうことも影響していると思いますね。いつも、「できることならば、きれいなお金を稼ぎたい」という思いが心のどこかにあるし、そこでもやっぱり、「身の丈に合った生き方を」という思いがありますね。

里崎 人と比較をするから、自分の身の丈からどんどん離れていくんだと思いますね。だから、まだ現代文明や外の人たちの暮らしを知らない民族があったら、そこで暮らす人たちが一番幸せなんじゃないかな?

五十嵐 それは、比較ができないから、ということですか?

里崎 そう。それを知らなければ、他人と比較して「アレがほしい、コレがほしい」とはならないはず。子どもの頃に徳島に住んでいたときに、ジャージで外出するのが恥ずかしくなかったのは、周囲のみんなもそれが当たり前だったし、徳島の中での生活スタイル、生活水準しか知らなかったから。だけど世界が広がるにつれて、情報過多になるにつれて、「コレがほしい」「アレは恥ずかしい」とか、いろいろな欲望が生まれてくるものだからね。

■「お金ですべては買えないけど、不幸は回避できる」

五十嵐 さっきの「身の丈に合った生き方」という話題に戻るけど、自分がこれまでやってきたこと、生活環境の中で感じたこと、学んだこと、その中で「どうやって自分らしく生きるか?」ということが大切ですよね。極論を言えば、「お金を持っているから幸せだ」ということはないわけだから。お金がなくても、幸せな人はいっぱいいる。そのことは忘れちゃいけないと思いますね。

里崎 僕自身、いつも思っているのは「お金ですべてを買えるわけではないけど、不幸は回避できる」ということですね。もちろん、ブランド物や大きな家、高級車などもお金があれば手に入るけど、買えないものもたくさんあります。でも、お金があることで解決することもたくさんありますよね。高度医療で助かる命もあれば、高い教育で身につく教養や能力もある。それもまた一面の事実ではありますよね。

五十嵐 その一方で、あまりにも「お金、お金」と血眼になるのもどうかと思うし、お金も含めて、自分なりに幸せなもの、楽しいことを見つけられるのが理想ですよね。

里崎 そう考えると、お金に関して人が幸せになるための方法は3択になりますね。ひとつは「とにかく収入を増やす方法を模索すること」、ふたつ目は「今の自分の身の丈に合った暮らしを続けること」、そして3つ目が「情報を遮断して生きること」になるんじゃないのかな? そのどれを選ぶのかは、その人の価値観、人生観だったりするんだと思いますね。

五十嵐 最初の「とにかく収入を増やす方法を模索すること」というのは?

里崎 僕の場合で言えば、YouTubeがまさにそう。自分の能力を考えたときに、未経験でもできることをいろいろ模索した結果、YouTubeにたどり着いた。その人の置かれた環境、与えられた状況の中でできることを探して、収入を増やそうとすることかな。

五十嵐 「身の丈に合った生き方」というのは、これまで散々話してきたことだし、「情報を遮断して生きること」というのも、さっきの現代文明や外の人たちの暮らしを知らない民族のケースですよね。

――国民の幸福度ランキングでずっと上位をキープしていたブータン王国の人々も、世界から注目されて情報が流入し、スマホが普及したことで「自分たちももっといい暮らしがしたい」となって、幸福度ランキングが下がったというニュースもありました。次回は、「情報を遮断して生きるコツ」について伺いたいと思います。

里崎・五十嵐 了解です。ではまた次回も、よろしくお願いします!

(連載第13回に続く)

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里崎智也

里崎智也さとざき・ともや

1976年5月20日生まれ、徳島県出身。鳴門工(現鳴門渦潮)、帝京大を経て1998年のドラフト2位でロッテに入団。正捕手として2005年のリーグ優勝と日本一、2010年の日本一に導いた。日本代表としても、2006年WBCの優勝に貢献し、2008年の北京五輪に出場。2014年に現役を引退したあとは解説者のほか、YouTubeチャンネルなど幅広く活躍している。
公式YouTubeチャンネル『Satozaki Channel』 

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五十嵐亮太

五十嵐亮太いがらし・りょうた

1979年5月28日生まれ、北海道出身。1997年ドラフト2位でヤクルトに入団し、2004年には当時の日本人最速タイ記録となる158キロもマークするなど、リリーフとして活躍。その後、ニューヨーク・メッツなどMLBでもプレーし、帰国後はソフトバンクに入団。最後は古巣・ヤクルトで日米通算900試合登板を達成し、2020年シーズンをもって引退した。現在はスポーツコメンテーターや解説として活躍している。

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長谷川晶一

長谷川晶一はせがわ・しょういち

1970年5月13日生まれ。早稲田大学商学部卒。出版社勤務を経て2003年にノンフィクションライターとなり、主に野球を中心に活動を続ける。05年よりプロ野球12球団すべてのファンクラブに入会し続ける、世界でただひとりの「12球団ファンクラブ評論家(R)」。主な著書に、『詰むや、詰まざるや 森・西武 vs 野村・ヤクルトの2年間 完全版』(双葉文庫)、『基本は、真っ直ぐ──石川雅規42歳の肖像』(ベースボール・マガジン社)、『いつも、気づけば神宮に 東京ヤクルトスワローズ「9つの系譜」』(集英社)、『中野ブロードウェイ物語』(亜紀書房)、『名将前夜 生涯一監督・野村克也の原点』(KADOKAWA)ほか多数。近刊は『大阪偕星学園キムチ部 素人高校生が漬物で全国制覇した成長の記録』(KADOKAWA)。日本文藝家協会会員。

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