オグマナオトおぐま・なおと
1977年生まれ。福島県出身。雑誌『週刊プレイボーイ』『野球太郎』『昭和40年男』などにスポーツネタ、野球コラム、人物インタビューを寄稿。テレビ・ラジオのスポーツ番組で構成作家を務める。2022年5月『日本野球はいつも水島新司マンガが予言していた!』(ごま書房新社)を発売。
トレード期限まで約1週間。リーグ優勝やAクラス入りを目指す球団、低迷からの脱却を狙う球団が獲得すべき"ポテンシャルが高い即戦力"を一挙紹介!
いよいよプロ野球は後半戦へ! この時期の注目といえば、7月31日に期限を迎えるトレードだ。
交流戦終了後、貧打に悩む西武が立て続けに2件のトレードを成立させて話題を集めたが、大混戦のセ・リーグでも効果的なトレードが実現すれば、一歩抜け出す契機になる可能性は十分ある。
「現役ドラフトが導入された今、わざわざ対価を払ってトレードで獲得する意味があるのか、という問題もあるにはあります。ただ、現役ドラフトによって大竹耕太郎(阪神)、細川成也(中日)、水谷瞬(日本ハム)といった、"ポテンシャルはあるのに埋もれていた選手"が一定数いることも再確認できました」
こう語るのは本誌おなじみの野球評論家、お股ニキ氏だ。実は2年前の本誌記事で、当時ソフトバンクだった大竹耕太郎のトレード移籍を提言。「中日、阪神のような広い球場で緻密な配球をするセ・リーグ球団には面白い投手」とずばり予言していた。
また、中日から日本ハムへ移籍して出番を増やした郡司裕也、阪神を戦力外になりながら今季は中日で活躍する板山祐太郎らも「球団を移れば活躍しそうな選手」と評していたお股ニキ氏。その分析力で「くすぶっている即戦力」を今年もリストアップしてもらおう。
まずは、投高打低で各球団が悩む野手の補強から。お股ニキ氏が真っ先に挙げるのは中日の鵜飼航丞(こうすけ)だ。
「日本の右打者は『進塁打を打て』『ミートを意識しろ』と言われすぎて伸び悩むことが多く、鵜飼もそこにハマっている気がします。ただ、飛ばす能力はトップレベル。西武や広島など、長打力が課題の球団は狙っていい選手です」
同じく若手の長距離砲として、ヤクルトの濱田太貴と澤井廉をピックアップする。
「濱田は1軍でも強烈な当たりのホームランを打ったことがありますし、澤井はドラフト時から注目していた選手で、長谷川勇也さん(元ソフトバンク)にパワーをつけさせたイメージ。打席に立てば、水谷のように順応する可能性はあります」
ヤクルトからは若手以外でも太田賢吾、宮本丈(たけし)といった中堅選手の名も挙がった。
「太田は低めのワンバウンドしそうな球を片手ですくって、ライナー性の長打にできる選手。2軍ではコンスタントに打っています。宮本も低めの球を打つのがうまく、今季は打率も規定打席未満ながら.396(7月16日時点。以下同)で代打でも期待できる。ヤクルトは野手が余り気味なので、積極的に投手とのトレードを画策していいと思います」
同じく1軍で出番の少ない野手に注目選手が多い、と指摘するのは日本ハムだ。
「野村佑希と清宮幸太郎は環境を変えてみてもいい。彼らが守るはずの一塁と三塁では、移籍組の郡司やアリエル・マルティネスが出番を増やしています」
二遊間では、プロ8年目の中堅、石井一成(かずなり)がイチ押しだ。
「いいスイングでパンチ力も持っている。今の飛ばないボールでも飛ばせるタイプで、板山のようになる可能性はある。二遊間どちらも守れるので重宝されそうな選手です」
水谷、万波中正、松本剛と層が厚い外野陣にも、出番が少ない注目選手がいる。
「現状、淺間大基(あさま・だいき)や今川優馬はかなり苦しい立場です。淺間は先日、ものすごい当たりのホームランを打っていましたし、フィジカルとパンチ力はある。ただ、これまでは出番が増えるとケガをしてしまうなど、チャンスをつかみ切れていないので、環境を変えてみてもいいかもしれません」
若手野手の台頭で交流戦優勝を果たした楽天では、出番を減らした中堅組に注目する。
「3年前に打点王を獲得した島内宏明はミートポイントが体に近いので、飛ばないボールの影響を受けやすく、同系統の打者もチームで台頭してきたため、出番が減っています。田中和基は今季打率1割台と低迷していますが、パワーとポテンシャルはあります」
得点力不足に悩む広島にも実は埋もれた打者がいる。林晃汰と宇草孔基(うぐさ・こうき)だ。
「林はシーズン2桁本塁打を打った実績もあるパンチ力の持ち主。宇草もフィジカルとポテンシャルに優れ、起用してみたい選手です」
すでに多くの野手の名が挙がったが、お股ニキ氏が「最重要ポジション」と語るのが捕手だ。
「ひとりしか試合に出られない捕手は、サッカーのゴールキーパー同様にレギュラーの入れ替わりが少ない。一方、捕手は野球脳が鍛えられるので、『2番手だけどすごい選手』もかなり多いポジションです。
中日から阪神にトレード移籍して大成した矢野輝弘(現・燿大)さんのほか、ヤクルトでは古田敦也さん、阪神でも矢野さんの2番手捕手を務め、その後移籍した日本ハムでレギュラーとして活躍した野口寿浩さんなどがそうです」
また、打撃力を生かすため、捕手からポジションを変えて成功する事例も多い。
「過去には和田一浩さん(元中日ほか)や小笠原道大さん(元巨人ほか)ら、元捕手の大打者は何人もいます。昨季首位打者の頓宮裕真(オリックス)、今季なら打撃力を生かして一塁で出番を増やした大城卓三(巨人)、一塁でオールスターに選ばれたマルティネス(日本ハム)に三塁でオールスターに選ばれた郡司(日本ハム)が当てはまります」
さらに、今年ならではの捕手事情もあるという。
「このオフは史上まれに見る大物捕手たちのFA豊作年です。甲斐拓也(ソフトバンク)、坂本誠志郎(阪神)、木下拓哉(中日)はすでにFA権を取得。
大城もFA権取得の可能性があり、21年からFA権を保持している梅野隆太郎(阪神)も複数年契約が切れる。今オフ、"球界捕手大移動"があるかもしれないだけに、先に期待の有望株を獲得しておくのも一手です」
その有望株でお股ニキ氏が推すのは阪神の中川勇斗(はやと)だ。
「まだ高卒3年目と若い選手ですが、フレーミングも良く、長打力もある。いい捕手にも、いい打者にもなれる可能性があるのに、1軍には梅野と坂本がいるため、3番手では経験が積めない。2軍でも出番が多いわけではないのが実にもったいないです」
同じく、甲斐と海野隆司の2枚看板が強固なソフトバンクにも埋もれた捕手が多い。
「谷川原健太、渡邉陸、牧原巧汰は打撃センスが非常に高い。牧原は先日、3軍戦ですが1試合3発を記録しましたし、守備にも意欲的。
谷川原は球団評価も高いのでトレードで出ることはないでしょうが、ソフトバンクは3番手にも嶺井博希がいて、注目度の高い大卒2年目の吉田賢吾もいるなど層が厚すぎます。捕手から内野手に転向してレギュラーとなった栗原陵矢のようにポジションを変えるか、球団を変えるか、という選択肢があってもいいはずです」
今季、田宮裕涼が台頭した日本ハムも、本来捕手登録の郡司やマルティネスが内野手で出場するほど捕手が豊富だ。
「清水優心(ゆうし)は若手時代から1軍で抜擢された結果、本来身につけるべき技術を習得できないまま20代後半になってしまい、似たタイプの田宮が台頭。古川裕大(ゆうだい)も打撃はいいものを持っているので、環境を変えてみるのはアリです」
セ・リーグでは、ヤクルトの内山壮真と古賀優大、広島の磯村嘉孝の名前を挙げる。
「内山はどのポジションも守れる高い運動能力が魅力です。一方、打撃に課題のある古賀は、小林誠司(巨人)のように守備特化型として活路を見いだせば面白い存在になる。広島は坂倉将吾と會澤翼がいて、第3捕手には石原貴規がいるので、31歳の磯村は他球団で力を試す道を模索してもいいかもしれません」
そしてもうひとり、類いまれな守備力をどう生かすべきか、と注目するのがロッテの松川虎生(こう)。ルーキーイヤーに佐々木朗希の完全試合をアシストした男も、2年目はわずか9試合、今季はいまだ1軍出場なしの状況に陥っている。
「守備に関しては1年目から古田さんや坂本クラス。フレーミングやブロッキングも抜群です。佐々木朗希が『松川はなぜか吸い込まれる』と評したように、ほかの捕手なら7回10奪三振の出来でも完封にまで持っていく特殊能力がある。ただ、打撃面はあまり伸びておらず、高校時代の"金属打ち"のまま。実にもったいないです」
実は今回、お股ニキ氏が挙げたトレード候補のリストに、投手の名前はほとんどなかった。強いて挙げれば、として名前が出たのが「やや制球に不安があるものの、左腕で球に強度がある」という笠谷俊介(ソフトバンク)、「変化球、投球センスはいいものを持っている」という田中瑛斗(日本ハム)、「中継ぎで使えば面白い」と語る八木彬(あきら・ロッテ)くらい。なぜ、投手はこれほど少ないのか?
「やはり投高打低の影響は大きいです。投手陣が整備され、チーム防御率2点台をキープする球団ばかりの現状では、くすぶっている印象の投手が少ないですね」
ある意味、希少なトレード候補といえる投手で、いかに実のあるトレードを実現させるか。お股ニキ氏が描くプランは野手立て直しが急務な西武と、先発陣の立て直しをしたい中日とのトレード案だ。
「今季出番の少ないダヤン・ビシエド(中日)と、去年は先発ローテを務めていた與座(よぎ)海人(西武)のトレードは双方にとってウィンウィンではないでしょうか。助っ人外国人が不発の西武は計算が立つビシエドなら欲しいでしょうし、Aクラス入りの目がある中日は先発の駒が欲しいはず。
ソフトバンクから巨人に移籍して今季序盤に活躍した高橋礼のように、初見のアンダースローは打ちにくいという利点もあります」
そしてもうひとつ、お股ニキ氏が以前から提唱するのが今オフのポスティング移籍が噂される髙橋光成(こうな・西武)を活用したトレード案だ。
「ポスティング移籍容認球団で、実績のある野手が余剰気味のDeNAや日本ハムとのトレードは、双方にとって実のある移籍になるはず。中日在籍わずか1年でポスティング移籍した大塚晶則(現・晶文)さんのような例もあります。前述した清宮や野村との大型トレードは球界活性化という意味でも見てみたいです」
現役ドラフト効果で移籍にポジティブな印象が強まった今、効果的なトレードを実現させる球団は出てくるのか?
1977年生まれ。福島県出身。雑誌『週刊プレイボーイ』『野球太郎』『昭和40年男』などにスポーツネタ、野球コラム、人物インタビューを寄稿。テレビ・ラジオのスポーツ番組で構成作家を務める。2022年5月『日本野球はいつも水島新司マンガが予言していた!』(ごま書房新社)を発売。